5話 考察
魔人国の情報を求めに人種王国を訪ねると、最初は『忙しく何も情報が入っていない』と言われた。
しかし、途中で文官男性が姿を現し、魔人国から送られてきた脅しのような通達を伝えてくる。
あまりに理不尽で一方的な通達に、人種王国女王リリスが僕達の協力を求めてきた。
「ダーク様、私達に貴方様達が望む見返りを用意することは難しいです。ですが、このまま民達を生け贄に捧げるようなマネは出来ません! なのでどうかお願い致します……魔人国から理不尽に襲いかかってくる暴威を防ぐお力をお借りできないでしょうか? もちろん私に出来ることは将来に渡り、何でもさせて頂ければと思います。ですから、どうか……お願い致します……」
「――もちろんです。是非、協力させてください」
僕の返答にリリスはあからさまにホッと安堵の溜息を漏らす。
僕が座るソファーの後ろに立つネムムが、リリスのこの発言に対して少しだけ怒っているのを、僅かな気配変化で理解する。
だが、まだリリスと向き合っているため、振り返りネムムに声をかける訳にはいかない。
僕は『SSR、道化師の仮面』越しに笑顔で答える。
「僕も魔人国のやり方が気に喰いませんし、国家の力を使って人種の命を無意味に奪い、苦しめるようなマネは許せませんから。全力であたらせて頂きます」
「ありがとうございます、ダーク様……ッ! 本当にありがとうございます」
リリスは私人として、公人としても頭を下げお礼を告げた。
僕は軽く返答し、頭を上げた彼女に人種王国で自由に動ける許可の他、対処に必要な手続きもお願いする。
さらに書類仕事が増えたリリスだったが、『この程度の苦労で民が救われるのなら』と意気込む。
必要な話を詰めた後、僕達は挨拶をして執務室を後にする。
ユメ(偽)に案内されて、人種王国居城を後にした。
城内で文官男性だけではなく、執務室に移動する際に門番や他メイドや使用人にも姿を見られているため、徒歩で正門を後にする。
この後、適当に路地裏や建物の陰に隠れて転移で『奈落』最下層に移動するつもりだ。
城を出ると陰に隠れるまでの移動中に、不満を溜め込んでいたネムムが口を開く。
「ダーク様、よろしいのですか? あれだけ実兄の処分については手を借りるのを遠慮すると言っていたにもかかわらず、面倒事が起きたらすぐに泣きついてくるなんて……!」
ネムムはマフラーの下で唇を尖らせ、眉根を顰める。
「確かに人種王国に魔人国の兵力をはね除ける力はありません。自分達に縋るしか方法が無いのも理解できます。ですが自分達――ダーク様を気軽に使うようなマネを配下として見過ごすことは出来ません。もしご命令して頂ければ自分がいつでも警告を与えることができますが」
「……ネムムよ、些か口が過ぎるのではないか? 言いたい事は分からなくはないが、既に主とリリス殿が決めたこと。我輩達が口を挟む事ではないだろう」
「配下としてお伝えするべきことはお伝えすべきでしょ? 第一、ゴールドはダーク様を顎で使われるようなマネをされていいの?」
「いや、だからお主の言わんとすることは分からなくないぞ? しかしだな――」
「2人とも、そこまで」
ライトの一言に議論を重ねようとしたネムム、ゴールドが黙り込む。
彼は2人に振り返ると、機嫌良さげな態度を取る。
「ネムムの言う通り諫言、おおいに結構。僕はまだまだ未熟だから、気付いたことがあるならどんどん言って欲しい」
「ありがとうございます」
僕の言葉にネムムが一礼。
彼女の一礼を目にした後、再び歩き出す。
僕は歩いている間に彼女に語りかける。
「……でも今回の件はリリスが、僕にわざと花を持たせるために仕組んだ演出という可能性もあるよ」
「え、演出ですか?」
意外な言葉にネムムが驚く。
僕は頷き、続ける。
「演出だとすれば、あの魔人国の情報は僕達が来る以前に人種王国に送られて来ていて、把握していたものなんだろうね。人種王国側に戦力が無いのも事実だし、僕がディアブロに怨みを抱き復讐したいと知っているから山賊のような真似事をする魔人国を任せたかったけど……もし直接呼びつけて依頼したら、それこそネムムだけじゃなくて他の者達も『巨塔を顎で使うなんて』と反発していただろう」
「だから我輩達側のメンツを潰さぬようにリリス殿は、主が訪ねてくるのをずっと待ち部下にあんな演技をさせた、ということか……」
ゴールドが顎を撫で感心する。
僕は『その可能性もある、ということだけどね』と短く答えた。
「魔人国側の人種王国国境付近の村に嫌がらせしてくるなら、ディアブロにも色々嫌がらせが出来る。リリス側も兵士を出さずに済む。リリスの行動によって魔人国『ますたー』であるミキの正体を知ることが出来たり等で彼女に借りがあったけれど、これで帳消しに出来る。まさにお互い得しかないわけだ」
「理屈は分かるが、互いの利益を考えつつ、メンツを潰さぬように立ち回り演出して見せるとは……以前は極々普通の少女だと思っていたが……。勝利はウサギを獅子にするの正に見本のような存在だな!」
「なるほど、ダーク様が仰るならその可能性もありますね。まさか自分の目を誤魔化すほどの演技が出来るとは……。侮れませんね」
ネムムがリリスの評価を修正する。
「まあ他の可能性もあるかもだけれど、どちらにしても僕らにとって好都合なのは変わらない。ここまで演出して僕らが望む展開を提供してくれるとは、さすが人種王国の女王だね。リリスの折角の好意だ、山賊のように国境を越えて、村を襲うとしている魔人国の畜生共を利用して、せいぜいディアブロへ圧力をかけて嫌がらせをしてあげようじゃないか!」
ゴールド、ネムムの手放しの称賛に僕は気分を上げつつ『奈落』最下層に戻る帰路を目指した。
☆ ☆ ☆
ユメ(偽)がライト達を見送り執務室へ戻ると、リリスがソファーに座ったまま頭を抱えていた。
ユメ(偽)が戻って来たことに気付くと、ソファーから立ち上がり詰め寄る。
「私が兄の処分を拒絶した口で、すぐに魔人国への助力を願ってしまい……だ、ダーク様は機嫌が悪かったり、怒っている様子ではありませんでしたか?」
「いえ、機嫌が悪かったり、怒った様子はありませんでした。いつも通りの極普通の態度かと」
「で、ですが仮面を被っているので表情は分かりませんから……。ああぁ……今、ダーク様達にそっぽを向かれたら人種の未来が途絶えてしまいます。かといって、兄が今亡くなればそれはそれで問題が起きるでしょうし……」
リリスにとって魔人国からの一報は完全に予想外で、ライトの力に縋るしか選択肢がなかった。
その前に実兄処分を自分達に任せて欲しいと言ったにも拘わらず、舌の根も乾く前に縋った上、兵力を出してもらう代わりに、ろくなお返しが出来ない。
激怒されても反論できない状況で気が気ではなかったのだ。
ユメ(偽)が落ち着かせるため柔らかく話かける。
「ダーク様はお心の広いお方です。あの程度で怒りに触れるなどありえませんからご安心ください」
「ううぅ……だと良いのですが……女神様に祈るしかありませんね……」
リリスは不安で胃の辺りがしくしくと痛み出すが、処理しなければならない書類が溜まっているため休んでいる暇がない。
お腹がストレスで痛むが、体を引きずり書類を片づけるため改めて席へと着くのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
また最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




