3話 報告
「だ、ダーク様、お恥ずかしい所をお見せしてしまい申し訳ございません……」
3日以上眠らず仕事に勤しんでいたリリスは呂律が上手く回っておらず、今すぐにでもふっと消えてしまいそうなほど危ない状態になっていた。
『SSSR 不眠不休薬』を飲むことで、不眠が解消されいつもの表情を取り戻す。
先程までの態度が記憶に残っているらしく、リリスは執務室のソファーセットに座り、恥ずかしそうに頭を下げてくる。
テーブルを挟んだ反対側に座る僕は仮面の下で笑みを零しつつ、軽く手を振った。
「気にしないでください。忙しいのはちゃんと理解していますから。むしろもっと早く『不眠不休薬』をお渡ししていれば、リリス様にいらぬ苦労を掛けずに済んだのですが……」
「いらぬ苦労など! ダーク様には感謝こそすれ、そのような事を思うなどありえませんから!」
リリスがわたわたと否定の言葉をあげる。
ユメ(偽)がお茶を僕とリリスに置いたのを切っ掛けに本題へと移った。
「……実は魔人国側がにわかに動き出したようなのですが、リリス様は何か情報は得ていますでしょうか?」
「いえ、申し訳ございません……。魔人国に関しては特にこれと言った情報は伝わってきておりません。お父様とお兄様を無理矢理廃したのは良いのですが、足場固めに忙しいというのもありまして……」
リリスがやや自虐的に漏らす。
彼女は愚痴を吐き出すように兄クロー、父である元国王について吐露する。
兄クローは別邸に監禁中。
大人しく王位を諦めて、静かに余生を過ごすよう説得中だが耳を傾けることはない。
『自分は絶対に王位を取り戻す』と息巻いているとか。
兄クロー派閥も完全消滅した訳ではない。
まだ一部残っており、兄を救い出して担ぎ上げて『正しき人種王国を取り戻そう』と声高に叫んでいる。
公国会議で手順を踏んでリリスが人種女王に即位したが、第一王子クローの周りでは未だ火種が燻っていた。
逆に父である元国王は、公国から人種王国首都には戻らず、別の街で余生を過ごすことを宣言。
人種政治の中心である首都から物理的に距離を取ることで『自分はもう政治に関わらない』と全身でアピールしている状態だ。
これには国王派閥に属する貴族達も『担ぎ上げるのは難しい』と判断を下したようで、リリス派、クロー派どちらに付くか考えている者が多いらしい。
ただ問題が一つだけあった。
リリスが仄暗い表情で愚痴る。
「お父様は首都から物理的に距離を取り隠居することで、『自分はもう政治に関わらない』と主張してくださるのは非常にありがたいのですが……。重責から解放された反動で飲食費、お酒、娯楽費を馬鹿みたいに浪費するようになって……」
今までは重責のせいか食も細く、お酒も避けて、娯楽に手を出す余裕もなかった。
しかし、リリスが女王に即位したことで、重責から解放。
久しぶりの自由を味わっているせいか、酷くはっちゃけているらしい。
お陰でストレスで痩せていた元国王は、現在太り気味の傾向にある。
さらに――。
「最近は高級娼婦の1人に入れ込んでいるらしく、お店に通うためのお金、プレゼント代、後妻に迎えるための身請け金の要求など……私が睡眠不足でフラフラしている状態で、お父様の下半身のお世話をするための書類決裁をしないといけないなんて……。年頃の娘にやらせることではないし、いくら今まで抑えていたからってはっちゃけ過ぎでしょう……」
リリスの全身からどす黒いオーラのようなモノが滲み出る。
「お兄様のように反抗されるよりはマシですし、お父様が自分の事を考えられるようになったことは非常に喜ばしいですが……でも、娼婦を身請けしたいから、屋敷の改築費、プレゼントの宝石、衣服代金を娘に請求してくるなんて……」と後半は愚痴というより呪詛に近い言葉をブツブツと吐き出し始める。
僕もこれに対して何を言えばいいか分からないため、話を逸らす。
「お、お兄さんといえば未だ王位を諦めていない上に、周りもちょっと焦臭いようだけど……良ければこちらで潰しておこうか?」
「…………」
僕の提案に父親に対して文句をぶつぶつと唱えていたリリスが、視線を向けてくる。
父親に対して文句を言っていた年頃の少女ではなく、人種王国女王として返答してきた。
「……いえ、ありがたいお話ですが、ダーク様達が手を出す必要はございません。これは人種王国内部の問題ですから。ダーク様達に頼るようなマネは出来ません」
リリスが膝に乗せた拳を固める。
「ノノ達――追放者を受け入れて頂いただけでありがたいのに、これ以上、甘える訳には参りませんので……」
『巨塔』だけではなく、獣人連合国、エルフ女王国、ドワーフ王国にも追放者の受け入れをしてもらった。
中には絶望し、自身の命を絶った者も少なくない。
そんな者達の犠牲を無駄にしないためにも、自分が改革を止めるわけにはいかないと言いたげな視線を向けてくる。
それ以上、提案するのは野暮なため、僕は大人しく引き下がった。
ちょうどそのタイミングで執務室の扉がノックされる。
ユメ(偽)が応対。
こういう時のために僕は仮面を付けて冒険者として訪ねていた。
リリスも分かった上でライトではなく、ダーク呼びしてくれていたのだ。
ユメ(偽)が訪れた者を中へと入れる。
相手は文官男性で、やや焦ったような表情で部屋に入ってきた。
彼は手にした書類束を持ち、リリスの耳元へ何かを告げようとするが――。
「私だけに伝える必要はありません。ここには関係者しかおりませんから」
リリスが断言する。
彼女なりに『僕達に対して隠すようなことはない』と言いたいのだろう。
僕もちゃんと誠意として受け取る。
リリスの言に文官男性は僕達を気にして視線を向けるが、女王の発言を無視する訳にはいかず報告をする。
その報告内容とは――。
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