番外編6 花嫁修業?
『UR、両性具有ガンナー スズ レベル7777』の趣味は人形作りである。
人形の数は大、中、小――合わせて100は越えていた。
他の趣味として『ライト様と一緒にやりたいことノート』を記すことなどがあるが……。
これに関しては彼女のメイン武器で相方であるインテリジェンスウェポンであるロックにドン引きされ、スズがショックを受けたという過去がある。
そんなスズが、午後。
お昼を大分過ぎ、人気が無くなった調理場で、自分自身のために料理を作る。
お手製の可愛らしいエプロンを身につけて、パンを小麦粉から練るところから始めていた。
今回のメインである煮込みハンバーグも、肉のミンチから始めるこだわりようだ。
食事を作る料理人(彼らも恩恵『無限ガチャ』カードから排出された)的には、自分達の聖域である調理場に入られるのは嫌だが……。
スズが頭を下げて、彼女が自分で料理を作る理由を聞いた以上、無碍には出来ない。むしろ応援したくて、小さな料理スペースを融通したほどだ。
では、彼女はなぜわざわざ自分で手の込んだ料理を作っているのか?
別に料理人達が作る料理が気に食わないためではない。
料理を作るのが楽しいというような理由でもない。
スズが頑張って料理を作る理由は……全て敬愛するライトのためだ。
一通り料理を作り終えると、料理人達にお礼を言い頭を下げる。
お盆に作った料理を載せて、自室へと戻った。
『……オ帰リ相方』
「(こく)」
さすがに料理人達の聖域である厨房に入るに当たって、スズの相方であるロックを連れて行くのは憚られた。
綺麗に分解整備して、汚れも落とし、磨いて綺麗にしているが、厨房に持って行くものではないため、こうして料理を作る時は部屋に置いていった。
それが不満なのか、ロックの声はやや硬い響きがある。
スズはテーブルに料理を載せると、メモ帳とペンを脇に置いて自作の煮込みハンバーグセットに手を付ける。
ナイフとフォークで煮込みハンバーグを切り分け、一口食す。
焼きたてのパンを千切って口にして、サラダのドレッシングの味を確かめるように目を閉じて集中した。
そして感じた味の感想や改善点、濃さ、薄さについてメモを書いていく。
スズの表情は強敵と戦っているが如く真剣そのものだ。
ロックはスズの頑張りを見て、呆れ半分感心半分で声をかける。
『マッタク……相方モヨクヤルナ。らいと様ニ、将来食ベテモラウ機会ガアルカモト、料理ノ勉強ヲ続ケルナンテ……』
ロックの指摘通り、スズは複数の趣味を持つが料理はやや毛色が違う。
将来ライトに自分の料理を食べさせる機会があるかもと、練習しているのだ。
趣味というより、花嫁修業に近い。
ロックが呆れたように指摘する。
『別ニ偶然ナンテマタズニ、らいと様ニオ願イシテ食ベテモラエバイイジャネェカ』
「(ぶんぶんぶん!)」
『イヤ……恐レ多イシ、食ベテモラウノガ恥ズカシイッテ……。ナラ練習スル意味ガ無イジャネェカ……』
ロックのツッコミにスズはうじうじと視線を逸らし言い訳をした。
『マダらいと様ニ食ベテモラエルホド美味シクナイ? おいらハ飲食デキナイカラ分カリ辛イガ、相方ハ頑張ッテイルシ、料理ノ見タ目モ悪クナインダカラ大丈夫ジャナイカ? らいと様モ十分喜ンデクレルト思ウゾ?』
実際、ロックの指摘通り、『奈落』最下層の厨房を預かる料理人レベルではないが、家庭料理としては十分なレベルだった。
地上の一流料理人が作った料理を『不味い』と断言するネムムが、満足して食べる程度の腕はある。
しかし、食べさせる相手が敬愛する『ライト様』ということで、スズは自分の腕に満足しておらずぶんぶんと首を横に振った。
相方の消極的な態度にロックは溜息を漏らす。
『戦闘ニ関シテハトモカク、らいと様関係ニナルト、ドウシテコウ相方ハ下ニ立派ナものガ付イテイルノニ度胸ガ無クナルノカネ……』
「!」
ロックの台詞にスズは敵に向けるような殺気を相方に向ける。
ロックはレベル7777の殺気を受けても気にせず指摘した。
『ボヤボヤシテイルト、相方ガ初メテ作ル料理ノ相手ガ、アノ変態ニナッテモ知ラナイゾ』
「!?」
ロックの指摘に、スズが寒気を覚え自分自身を抱きしめ震える。
ロックが言う『アノ変態』とは、元魔人国マスターのミキだ。
彼女は降伏し、捕虜として『奈落』最下層のさらに下にある独房に入れられている。
彼女が最終的に争わず素直に降伏したのは、スズに一目惚れしたからだ。
ミキにとって、美少女で両性具有であるスズがまさに理想の相手だったらしい。
情報を引き出させる代わりにスズとの性交や下着、タイツなどを要求してくる。
スズはミキの敵意とはまったく別のねっとりとした絡みつく視線を思い出し、震え上がったのだ。
「!!!!」
『アンナ気持チ悪イ奴、サッサト殺セバイイッテ? イヤ、サスガニ無理ダロ。マダ完全ニアノ変態ガ持ツ情報ヲ引キ出シタ訳ジャナイシ、ソレニ……おいら的ニハ情報ヲ引キ出シテモ殺スノハ避ケタ方ガイイト思ッテイルゾ。機会ガアッタラらいと様ニモ進言スルツモリダ』
「!?」
『らいと様ニ進言スル』という言葉からロックの本気を感じる。
だが、それ以上に意味が分からなかった。
スズ的には情報など諦めてさっさと殺すべし派である。
この派閥は意外と大きい割合を占める。
理由として……ミキの変態的発言によって、ライトやユメが汚染される前に殺害した方が良いというものだ。
しかし相方であるロックが反対の意見を言うどころか、ライトに進言するとまで言うとはスズ自身想定していなかった。
ロックが理由を口にする。
『ダッテ今デサエ相方ニアレダケ執着シテイルンダゾ? 下手ニ殺シテアノ執着心ガヨリ強化サレタ高位あんでっとトカデ復活シタラドウスルヨ? 今以上ニ厄介ニナルノハ確実ダゾ?』
「!?」
ロックの指摘に、スズは後頭部を殴られたようなショックを受ける。
確かに怨念が強すぎて、死後高位アンデッドなどとして復活する事例が存在した。
そうなった場合、怨念や執着した感情がより強化されることになる。
ミキの執着があれ以上、強くなったら……。
想像しただけで今まで以上にスズが震え上がる。
『下手ニ高位あんでっどナンカデ復活シテ、コレ以上『奈落』ヲ掻キ回サレルノハまじデ勘弁ダカラナ。マダ交渉デキル今ノ状態ガ、おいら的ニハべすとダト思ウゾ』
「…………」
相方のインテリジェンスウェポンに論破されてスズは黙り込んでしまう。
さらにロックが追撃してくる。
『イツカアノ変態ガ情報引キ出シノ交換条件トシテ、相方ノ料理ヲ所望シテクルカモシレナインダゾ? ソウナル前ニ、らいと様ニ食ベテモラッタ方ガイインジャナイカ?』
「…………」
再度の正論にスズはうじうじと肩を落とす。
『らいと様ニ美味シイッテ思ッテモラエル自信ガ無イ? ナライッソノコト、誰カニ味見シテモラッタライインジャナイカ? エッ? 初メテハらいと様ガイイッテ……ウワァ、メンドクサイ』
「!?」
ロックの素直な感想にうじうじしていたスズが涙目で抗議する。
それから暫く、ロックとスズは協議を重ねるが……結局答えは出ず、料理が冷めてしまっただけだ。
スズが手料理をライトに食べてもらえる機会は訪れるのだろうか?
それはまだ誰にも分からなかった。
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