番外編5 『巨塔』への亡命者達
リリスが人種女王に即位する過程で、他国の間者だった者達は『外患罪とし実家取り潰し。財産は手に持てるだけ。親類縁者含めて、国外追放』となる。
国外追放を受けた者達は、エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国などに亡命した。
その中で最も亡命者の数が多かったのは意外にも、今回の切っ掛けにもなった『巨塔』である。
なぜ『巨塔』に亡命者が多かったのか?
『巨塔』に流れたのは『間者の親類縁者』が多く、巻き込まれた親戚達が多かったからだ。
意外と間者をやっていたのは本家のみで、親戚は何も知らないことの方が割合的に多かった。
結果『巻き込まれて自国を追われた上、あいつらと一緒の国になんかに行けるか』という意見が多く、また『人種絶対独立主義』がプラスに働いたからだ。
『魔人国マスター、ミキ』の一件もあり、入国には非常に厳しい調査がおこなわれたが、基本的に問題なく順次受け入れられていった。
今回の大量亡命は意外にも『巨塔』にとってもプラスに働く。
『巨塔街』は『獣人種大虐殺』――『巨塔街』ではそうとは呼ばれず、『人種人質救出事件』と呼ばれているが、この事件後にも大量の移民が増えた。
『巨塔の魔女』に仕える妖精メイドやドラゴン達の力によって、増える人口を許容できる土地の広さや建物、インフラは十分あったが……特殊技能を持つ人材は足りなかったのだ。
殆ど農民や奴隷で、自分の名前さえ書けないレベルだ。
だが今回亡命してくる者達は、本家などが他国の間者をしていた程のため、親戚筋も読み書き、四則演算、教養、礼儀作法などはもちろん、特殊技能を持つ人材も多い。
『巨塔街』の運営はほぼ妖精メイド達が担っていたが、将来的には孤児院兼学校で育成した子供達が成長後、一部任せる予定だった。
しかし、十分な教養を持った人材が大量に入ってきたのなら、子供達の成長を待つより早く仕事を任せられることが出来そうだった。
実際には、新参者が突然自分達の上に立つなど、今までいた者達からすれば感情的に納得し辛い面があるだろう。
だが多少の問題が起きたとしても、徐々に進めていく等の工夫をすれば許容範囲には収まる。
妖精メイド達も暇ではない。負担を減らせるなら減らせた方が良いに決まっている。
また負担が減るのは何も妖精メイド達だけではない。
「きょ、今日からよ、よろしくお願い致します、シリカ店長!」
「あはははは、そんな畏まらなくても大丈夫だよ。それにわたしのことはシリカでいいからね」
「は、はい! シリカさん!」
『巨塔』を中心とした街の一角に、少女シリカが任された店がある。
彼女の両親は行商人だったが、移動途中でモンスターに襲われ死亡。
シリカは天涯孤独となり、1人で生きていくのが難しく奴隷に堕ちてしまう。
紆余曲折あって、モヒカン冒険者達に助けられたシリカは、『巨塔街』で生活することになった。
その際、店を営む技能を持つ者が少なかったため、少女ながら元行商人の両親を持つシリカが一店舗任せられたのである。
ちなみに売れ筋商品は『妖精メイド様石鹸』だ。
ライトの恩恵『無限ガチャ』から大量に『N、石鹸』が排出。
『奈落』最下層だけでは消費しきれないほど毎日大量に吐き出されており、ただ眠らせておくのは勿体なかったのと、『巨塔街』の衛生のため店舗に卸す事が決定したのだ。
住民達が崇める妖精メイドが積極的に使っていることもあり、『汚れ上等』の男性陣でさえ石鹸で手を洗う習慣が広まった。
お陰で街の病気予防にも繋がっているほどだ。
――話を戻す。
「本当に1人でお店をやるのってしんどくて、誰か来てくれないかって思ってたんだ。ほんとわたしと同じぐらいの女の子で計算が出来る子って貴重だから、来てくれて本当に嬉しいよ!」
お世辞ではなく、シリカは本当に彼女の参戦を喜んでいた。
今まで彼女は1人で品物の受け取り、品出し、掃除、開店準備、接客、帳簿、報告、商品の購入手続きなどをやり続けたのだ。
途中色々あったこともあったが、基本『ずっと1人で』だ。
しかし今回、大量の知識層が『巨塔』に亡命してきた。
人数が多いため、中にはシリカのように身寄りが無いが、文字が書けて、計算が出来、教養と礼儀作法も修めている少女が居た。
1人で店を切り盛りするシリカの負担を減らすため、妖精メイド達が率先して彼女を斡旋したのだ。
新人少女も、住み込みで、歳の近い女の子が居るという好条件だったためスムーズに話が進む。
新人少女がシリカの言葉に同意する。
「あ、あたしも歳が近いシリカさんの下で働けて嬉しいです。正直、男の人はちょっと苦手なので……」
「うん、うん、分かる! 男の人……特に大人の男の人って怖いよね。中には良い人も当然いるけど」
シリカはモヒカン達の事を思い出し、『中には良い人』と口にする。
話の区切りが良かったため、早速開店準備を促す。
「それじゃ早速、お店を開けようか。最初は一通り一緒にやって見せるね。次からは分担してやろう」
「はい、頑張ります!」
少女の元気が良いやる気のある声を聞き、シリカはまず最初は一緒に開店の手順を教えた。
☆ ☆ ☆
無事、店を開き、商品を売って、何事も無く店を閉める事が出来た。
新人少女と一緒に晩ご飯を作り、一緒の席について会話を楽しみながら夕食を摂る。
「シリカさんは教え方が上手ですね。とっても分かり易くて仕事がやりやすかったです!」
「えへへへ、そうかな」
シリカが褒められ、シチューを食べる手を止めて照れる。
新人少女が無邪気に尋ねる。
「以前、誰かに教えた事があるんですか? 凄く慣れている感じでしたけど」
「……ううん、人にこうして教えたことはないよ。全部初めてだよ」
シリカは新人少女が気付かないほど、僅かな間をおいてから否定した。
表向き、シリカがこうして人に店のやり方を教えることは初めてになっている。
彼女はふと、思い出す。
(彼女――ミキちゃんと最後の夜に食べた夕ご飯も、一緒に作ったシチューだったな……)
当時のことを思い出す。
モンスターの襲来等が起きた際に、スムーズに移動出来るようにするため避難訓練が実地されることになった。
店を一緒に営んでいたシリカとミキは、翌日、問題なく『巨塔1階』へと移動。
訓練のご褒美として豪華な朝食を堪能する筈だったが――ミキが妖精メイドのミスで衣服を汚されてしまう。
その際、妖精メイドが謝罪し、彼女だけが着替えるため二階に上がったのだが……。
これがシリカが知るミキの最後の姿になった。
その日は突然、大きな揺れが起き『巨塔街』を騒がせた。
落ち着くと、ミキを1人残し、シリカは自宅へと帰された。
その際、ミキがどこに行ったのか近くに居た妖精メイドに尋ねると……『ミキ? そんな人、知りませんよ?』と言われたのだ。
その刹那、シリカは背中に冷たい汗を流す。
慌てて自宅に帰ると、ミキの部屋には何も無く、彼女が使っていたコップ一つさえ残っていなかった。
しかし妖精メイドに性的な意味で襲いかかった男性が、最初から『居なかった者』扱いされることはあったが、ミキは少女だ。
性的な意味で襲いかかって等のことは無いとシリカは考える。
辿り着いた結論は、『ミキは他国の間者だったのでは?』だ。
自分達を守ってくださる『巨塔の魔女』を探りに来た間者なら、最初から『居なかった者』扱いされてもしかたがない。
暗黙の了解に従い、シリカ自身もミキなど『最初から居なかった』と振る舞うしかなかった。
(……わたしの予想が間違っているかもしれないし、絶対ではない。だからもしミキちゃんがまだ生きていてどこかにいるなら……少しでも幸せな生活を送っていて欲しいな)
一時とはいえ寝食を共にした仲だ。
胸中とはいえついミキの無事を願い、幸せでいて欲しいと願ってしまう。
「シリカさん、どうかしましたか? 難しい顔をして?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと明後日の発注について考えていただけだから」
新人少女の疑問にシリカは笑顔で誤魔化し、話題も変える。
「とりあえず明日はお店が休みだから、『巨塔街』を案内するね。お勧めのお店とか紹介するから楽しみにしてて」
「わぁ! ありがとうございます! 人種王国より賑わっていたからずっと行ってみたかったんですよ!」
新人少女は、シリカの言葉に年相応の少女のごとくはしゃぐ声をあげた。
シリカは彼女の態度に笑みを浮かべつつ、胸中で姿を消してしまった友人の少女の無事を願わずにはいられなかったのだ――。
☆ ☆ ☆
シリカが真剣に無事を願う少女ミキはというと……。
『奈落』最下層のさらに地下にある独房でスズから譲り受けた黒タイツの匂いを嗅ぎ絶頂に達していた。
「クンカ! クンカ! クンカ! すぅはぁ! すぅはぁ! あぁぁぁ! まだ足の爪先にスズちゃんの匂いが残っているの! まだまだ愛しいスズちゃんの温もりを感じることが出来ちゃうのぉおぉ! スズちゃん、スズちゃん、スズちゃん!」
『SSSR 呪いの首輪』を付けた状態で、手足も拘束され、目隠しもされ独房に入れられているがミキは心底幸せなそうな声を上げていた。
独房の見張りをしている妖精メイド達は心底迷惑そうな顔をして、耳を塞いでいるが……ミキ本人は心から幸せそうだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
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