番外編4 膝枕
「ライト様、失礼いたします」
「ありがとう、メイ」
『奈落』最下層の執務室。
僕は執務室で書類仕事に精を出していた。
今日の側付きメイドは、メイド長であるメイが担当することになっていた。
彼女がお茶を淹れてくれると、僕へ笑顔で返答する。
久しぶりに2人っきりで過ごす。
とはいえ僕自身、久しぶりにメイと二人っきりで過ごす時間を楽しむ余裕はなかった。
頭の痛い問題……『エリーに与える罰』について考え込んでしまう。
なぜエリーに罰を与えなければならないのか?
少し前に、彼女が責任者を務める『巨塔街』に、魔人国ますたーであるミキの侵入を許してしまった。
結果、外部に一部情報が漏れて、他魔人国ますたーである自称最強の神話級『精霊双剣』を持つダイゴの襲撃を受けてしまったのだ。
被害は軽微だったが、この一件に関してエリーは責任感を感じて『自分を罰して欲しい』と懇願しているのだ。
僕は『エリーばかりに責任があるわけではない』と口にしたのだが、彼女が納得せず『信賞必罰は組織の要』と処罰を望んだのだ。
メイの後押しもあり、僕は彼女に後日、罰を与えることを約束した。
(けど一体エリーにどんな罰を与えればいいんだろう……)
正直、今でもミキの『巨塔街』侵入はエリーのせいではなく、全てを管理している僕自身の責任だと思う。
だが、それではエリーが納得しない。
彼女の自責の念を緩和するためにも必要な行為だとは理解しているのだが……。
(あまり軽すぎると意味が無いし、あまり重すぎてもエリーが担当する役割『奈落』の一部や『巨塔』にも悪い影響が出かねないんだよな……)
軽すぎず、重すぎない罰を与えなければならないが、その塩梅が非常に難しかった。
(実際、エリーだけの責任ではないし、スズも狙われて怯えているし、ユメやナズナにも良い影響を与えない……。いっそのこと『巨塔街』を騒がせた間者としてミキを処分してお茶を濁すべきか?)
『SSSR 呪いの首輪』の力でレベルダウン、魔力、身体能力低下、所持している恩恵の制限など弱体化しているため、処刑は容易い――が、僕はすぐさま首を振った。
(折角捕らえた情報源を処分するのは勿体ない。情報の重要性は嫌というほど理解しているじゃないか……)
『種族の集い』時代は、知識量が少なく『情報』の重要性を理解していなかったが、メイ達の教育のお陰で現在は嫌と言うほど理解していた。
スズに迷惑をかけるが、折角手に入れたミキという情報源を易々と処分できる筈がない。
(やはり、エリーが満足する軽すぎず、重すぎない罰を与えるしかないか……)
結局、元の結論に戻ってしまう。
「はぁぁ……」
僕は思わず深い溜息を漏らしてしまった。
「……ライト様、お疲れのご様子ですね」
あまりに深い溜息を漏らしたせいで、メイが声をかけてくる。
僕はこめかみを片手でぐりぐりと押さえつつ答えた。
「肉体的には問題無いけど、精神的にちょっとね……」
「……あまり考え過ぎるのも体に毒ですよ。少しお休みしては如何でしょうか?」
メイは口を開くと助言し、ソファーに座って自身のひざをポンポンと叩く。
意図を理解し、自分の頬が赤くなるのを自覚した。
同時に、約3年前のことを思い出す。
(――『種族の集い』メンバー達に裏切られて、『奈落』最下層に落ちてメイに助けられた夜、肉体・精神疲労で気絶するように意識を失った僕に膝枕をしてくれたな)
あの時、まどろむ僕は後頭部が柔らかく良い匂いに包まれているのを感じた。
だがメイに膝枕してもらったと自覚するより早く、『種族の集い』メンバー達に裏切られた事実を思い出し錯乱してしまう。
そんな僕をメイは優しく抱きしめて落ち着かせてくれた事を思い出す。
振り返れば思い出の一つだが、あの当時は精神的にきつかった。
あの精神状態を乗り越えられたのも『種族の集い』メンバー達に対する復讐心は当然として、メイが側に居て支えてくれたのが大きかった。
そして、メイと2人っきり、二人三脚でここまで『奈落』を大きくしてきたのだ。
今振り返れば本当に良い思い出である。
僕は昔を懐かしくなり、ちょっと恥ずかしいがメイの申し出を受けることにした。
「それじゃちょっと休憩しようかな」
「はい、遠慮なくお休みください」
普段のきりっとしているのとは違う嬉しそうな声音に、僕自身照れて頬が緩んでしまう。
メイの膝に頭を預けて目を瞑る。
当時と同じく良い匂いがして、後頭部に膝の柔らかさ、落ち着く体温、感触が広がる。
さらにメイは僕の頭を愛おしげに撫で始めた。
子供のように撫でられるが不快感は無い。
むしろ、彼女の僕に対する愛おしさが伝わってくるような撫で方で、逆に心が落ち着くほどだ。
偽りだった『種族の集い』メンバーとは違って、僕には共に歩くことが出来る信頼できる仲間達が側に居るんだ。
無理して1人頭を悩ませず彼女達と相談して決めればいい。
きっと僕1人だけでは思い付かない良い案が出るはずだ。
その事実に気付くと、僕の肩の荷が少しだけ軽くなる。
軽くなると眠気がそっと押し寄せてきた。
「……メイ、僕が眠って少ししたら起こしてくれ」
「畏まりました」
僕の指示にメイは愛おしげに返事をする。
彼女の返事を耳にしつつ、僕は心底安心し気を許しながら睡魔へと身を預けた。
まるで母親に添い寝してもらう赤ん坊のように、無防備に意識を暗闇へと委ねるのだった。
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