番外編3 ミヤとシックス公国魔術師学園
「――魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」
元冒険者のミヤが、昼間の薬師としての勉強を終えた後に、外出する。
村を出た後、近くの街道外で木々に向かって攻撃魔術の練習をしていた。
ミヤは自身の最大火力であるアイスソードを顕現させ、周囲に滞空させる。
「えっと確か……剣を横にして刃の上に乗っていたんだよね」
彼女はぶつぶつと過去を思い出しつつ、アイスソードを操作して足下まで移動させて、剣側面の上に乗る。
意識的にアイスソードの剣幅を広くとって作ったとはいえ、やはり人が1人乗るのは難しい。
またミヤ自身、運動神経は悪くは無いが、アイスソードの上に乗って縦横無尽に動かしても問題無いほど良いという訳ではなかった。
当然、少しアイスソードを動かしただけで上半身が揺れて、腕がばたばたと動き地面へと落ちてしまう。
「あいた!」
ミヤはバランスを崩しアイスソードから落ちると、尻餅をついてしまう。
痛みに涙目になるが、こんなことで回復魔術を使うことなど出来ない。
なぜなら魔力は有限で、頻繁に使うと練習に使う分がすぐになくなってしまうからだ。
彼女は涙目でお尻を撫でつつ、アイスソードの上に乗って移動する難しさに愚痴を零す。
「あの怖いエルフ種はあんな簡単そうに剣の上に乗っていたけど、こんなに難しかったなんて……。色々怖くて最悪なエルフ種だったけど、やっぱり実力は確かだったんだ……」
『あの怖いエルフ種』とは、ドワーフ王国ダンジョンで襲いかかってきたカイトのことだ。
彼は宝剣『グランディウス』の力で剣身を複数生み出し、その上に乗って空を自由に移動していた。
ミヤはカイトとの戦いを思い出し、アイスソードを使って擬似的に彼のやっていたように空を移動できるよう、練習をしていたのだ。
アイスソードを攻撃に使用できず、移動にも魔力を使うため消費が激しい、元々乗って移動する物ではないため乗り心地は悪くバランスを取るのが難しい――と多々問題はあるが、『空を移動できる』という点は戦術的にも魅力的だった。
故に研究しておこうと、こうして努力しているのである。
もしこの技術をもっと早く身に付けていれば、獣人種に襲われた際、クオーネを連れて空へ逃げる事が出来たかもしれない。
クオーネと一緒に獣人連合国の倉庫に押し込められ、彼女に怖い思いをさせずに済んだかもしれなかった。
あくまで『たられば』の話だが。
また、ミヤはアイスソードを使った移動だけを研究している訳ではない。
ちゃんと新しい攻撃方法も研究していた。
「魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」
見た目一本のアイスソードが新たに顕現する。
「行って!」
林出入口にある木々の一本を的にして、顕現したアイスソードを飛翔させる。
アイスソードは狙い通り、木へと刺さった。
ミヤは近づき、木に突き刺さったアイスソードの下を覗き込む。
「うん! 思った以上に突き刺さってるよ!」
彼女は嬉しそうに声をあげた。
木に刺さったアイスソードをよく見ると……1本ではなく、通常のアイスソードの下にもう一つ薄氷の刃が作られていた。
ミヤはアイスソードを一本普通に作って、それと重なる様にもう一本薄い氷のアイスソードを作り出したのだ。
敵に目立つ一本のアイスソードに注目させ、それが迎撃されても、その影に隠れた見え辛い薄い氷のアイスソードによってダメージを与えるという寸法だ。
欠点として見え辛くするため、ギリギリまで薄くしたアイスソードのため通常に比べても脆い。
最初の頃は薄くし過ぎて木に刺さるどころか、ぶつかったら逆に砕けてダメージを与えることすら出来なかった。
しかし今回は極限まで薄くしつつ、しっかり木に突き刺さる程度には耐久力も確立できた。
これは非常に有効な攻撃方法になるだろうとミヤは自信を持つ。
他にもミヤは魔力が許す限り魔術研究を1人でおこなった。
☆ ☆ ☆
ミヤが1人魔術の研究を終えると、村へと戻る。
村にはいつの間にか行商人のヨールムが来ていた。
彼は今回持ち込んだ商品を村人へと見せて、売買を交わす。
娯楽の乏しい村だけあり、今回も多くの者達が顔を出していた。
――以前は護衛であるモヒカン冒険者達のせいで、誰も近付こうともしなかったが。
(モヒカンさん達も見た目は怖いけど、良い人達だったな……。今頃何をしているんだろう。元気だといいけど)
ミヤは以前知り合ったモヒカン冒険者達を思い出し、彼らの無事を願う。
見た目こそ怖いが、ダーク達と知り合いということで意気投合したほどだ。
行商人ヨールムと目が合う。
彼は接客していた客に断りを入れると、ミヤに対して手を振り声をかけてきた。
「ちょうど良かった。これミヤちゃん宛てに預かってきた手紙だよ」
「わたしに手紙ですか?」
「そう。しかも差出人は公国の魔術師学園からだよ!」
『シックス公国魔術師学園』といえば、この世界で最も最先端の魔術を研究している学園である。
他村人からも驚きの視線を向けられる。
ミヤもなぜシックス公国魔術師学園から手紙が来たのか驚きつつ、受け取りお礼を告げた。
彼女は手紙を手に自宅へと戻り開封する。
『どうして自分に手紙が送られてきたのか』、『間違って送られてきたのでは』、『どんな内容が書かれているのだろう』とドキドキしながら読む。
差出人は『シックス公国魔術師学園教員兼、攻撃魔術研究者ドマス』からだ。
内容を要約すると――『あらゆる傷を癒す聖女ミヤの名を耳にして興味を持った。もしよければ自分の名前でシックス公国魔術師学園の試験を受けないか』というものだ。
入学試験費用や移動費、滞在費などは全てドマスが持つ。
試験結果によっては、学費などが免除されるらしい。
「聖女って……もしかしてこのドマスさんって方は、クオーネちゃんの『巨塔教』、聖女の噂を耳にしたのかな? だからわたしを勧誘する手紙を書いたの?」
『巨塔教』とは?
ミヤの友人クオーネが立ち上げた宗教で、簡単に説明すると『巨塔の魔女』と妖精メイド、そして聖女ミヤを崇める宗教だ。
ミヤは獣人種に捕まった際、同じく捕らえられた人種の怪我人の治療をした。
その話をクオーネが大袈裟にして広げ、話を大きくして『聖女ミヤ』と言い出したのだ。
だが、彼女の予想は別方向で裏切られる。
手紙の続きを読む。
まとめると……『偶然、公国に来ていたダークと知り合い、色々貴重な話や経験をさせてもらった。彼は、ミヤは非常に良い娘で魔術の腕も確か、才能は自分を超える、勧誘して絶対に後悔させない魔術師云々と言っていた。故にミヤ勧誘を決断した』と書かれてあった。
「げふッ!」
ミヤが女の子らしからぬ、吐血しそうな声を上げ頭を抱えてしまう。
「だ、ダークさぁぁぁぁん! わたしが、ダークさんを超える才能なんてあるはずないじゃないですか……!」
尊敬するダークからまさかの推薦にミヤは胃を痛め絶叫してしまう。
だが同時にダークがそこまで自分のことを認めている事実を知り、気付くとミヤは口元をニヤニヤさせ、『ふへへへへぇ……』と、別の意味で女の子がしてはいけないニヤニヤ顔をする。
兄エリオが帰宅するまでミヤは手紙を前に頭を抱えたり、読んでニヤニヤと緩んだ笑顔を浮かべたりを繰り返し続けたのだった。
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