26話 『冒険者殺し』狩り4
今日は25話を昼12時、26話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は26話)。
目の前で叫ぶエルフ種カイトが、『ますたー』の血を引く『さぶますたー』という存在らしい。
当初は殺した後に僕達の冒険者ランクを上げるための踏み台にするつもりだったが、事情が変わった。
殺すのは変わらないが――冒険者ギルドに死体を引き渡さず、『奈落』へと連れ去ることにする。『ますたー』や『さぶますたー』に関する情報の全てを吐き出させなければならないからだ。
確実に無力化するため、初めて構えて僕から攻める。
「ふっ!」
軽く息を吐き出しつつ、軽やかに地面を蹴る!
前衛職ほどではないが、メイに師事して数年間、『奈落』地下で直接戦闘の訓練を積んできたのだ。
レベル差もあり、剣を構えて警戒していたが再びカイトの腹部を杖で打ち抜く。
「ぐごオッ!?」
口から呼気を吐き出し、地面に膝を突く。
その隙を逃さず彼を今度は蹴り飛ばした。
腹部の痛みに意識が集中していたため、蹴られると同時に手にした『グランディウス』を手放し地面を転がる。
「ネムム、その剣を拾っておいてくれ」
「了解致しました、ダーク様」
僕は指示を出しつつ、地面を転がり蹲ったカイトへと歩み寄る。
視界の端でネムムが、ハンカチを取り出し、グランディウスの握りを掴む。
どうやら直接握るのは嫌だったようである。
ゴールドに任せなかったのは彼が盾役のため、いざという時はすぐに動けるよう身軽にしておきたかったためだが、彼に拾わせた方がよかったのだろうか?
オレはそんなことを考えながら、カイトの首根っこを足で押さえる。
「ぐげぇッ!」
「動かない方がいい。下手に暴れたら簡単に首の骨が折れかねないから」
抵抗されるのも面倒なため脅しつける。
この脅しが利いたのか、カイトは痛みに喘ぎながらも極力体を動かさないよう耐え、下から僕を睨みつけるだけに留める。
視線に気にせず懐から『SSR、転移』カードを取り出す。
「転移、奈落へ、解放」
僕の言葉に、僕ら4人が光に包まれ一瞬でダンジョンから姿を消失する。
次に姿を現した場所は見慣れた『奈落』地下、訓練場だった。
元のダンジョンらしいゴツゴツとした岩場や床の感触が残る場所である。
一瞬の移動に文字通り『首根っこを押さえられた』カイトが、僕の足裏で驚愕の声音を漏らす。
「こ、ここはいったいどこだ!? さっきまでダンジョン草原に居たはずなのに!」
「僕達が住む『奈落』地下へと移動したんだよ。ほら、知っているだろう? 世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』のことだよ」
「世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』といえば、ドラゴンニュート帝国領土の原生林奥地にあるあの『奈落』か!? 馬鹿な! ドワーフのダンジョンから一瞬で、『奈落』へと移動したというのか!?」
草原からゴツゴツした岩場に変わった周囲に驚愕していたカイトの表情、声音が、なぜか今度は僕達へと向けられる。
「ま、まさかあのヒューマンの雌ガキに転移系マジックアイテムを渡したのはオマエ達なのか……!?」
「転移系マジックアイテムね……マジックアイテムなのは確かだね」
わざわざ教えてやる必要もないため説明は省く。
ミヤの逃走を許した怨みをぶつけられると予想していたが、違った反応を示した。
「瞬時に移動できる転移系アイテムをあんな駆け出し冒険者に渡すとは何を考えていやがる! 転移系マジックアイテムがいくらの値が付くのか分かっているのか!?」
「……ああ、確かに結構いい値段が付くって聞いたことがあるな」
『種族の集い』時代、他の冒険者達が『転移系マジックアイテムが欲しい』と愚痴り合っていたのを思い出した。
違う場所へ瞬時に移動できる転移系マジックアイテムは稀少で、基本オークションにすら出回らない。
基本的に貴族やトップレベル冒険者などが、『いざ』という時に身の安全を確保するために常備する物で、その値段は一介の冒険者にはとても手が届かないと言われている。
ミヤに渡したのは『SSR、祈りのミサンガ』で転移系マジックアイテムではない上に、恩恵『無限ガチャ』で大量に排出されているため、『地上では高価な代物』だという意識が薄れていた。
とはいえ金銭のために『無限ガチャ』カードを地上で売るつもりは微塵もない。
金なら『無限ガチャ』カードから出る金属塊を売れば、大量に手に入る。カードが自分達に向けられ不利益になる可能性がある以上、売るという選択肢を取ることはないだろう。
「主君、お客様――ではないようですが、お茶の準備をしておきましょうか?」
メイがメイドらしい冗談を告げつつポニーテールに結んだ長い黒髪を揺らし、姿を現す。
「にゃ~」
「ライト神様、お帰りなさいませですわ! なにやら妙な生き物も一緒のようですが」
「ご主人様、お帰りなさいだぜ! 今夜は『奈落』に泊まっていくのかな? なら今夜はあたいと一緒に寝ようぜ!」
彼女に遅れて、僕が『奈落』に姿を現したのに気付いた他の者達も続々姿を現す。
ここは『奈落』の地下訓練場の一つだが、僕が主に訓練時に使っているので、ここに出入り出来る仲間は数人に限られている。
アオユキがいつもの調子で猫の鳴き真似をし、エリーが冷たい視線を僕の足下に向ける。
ナズナは久しぶりに帰ってきた僕に対して我が儘を告げてくる。
彼女達の普段と変わらない会話に思わず笑みがこぼれた。
「ただいま皆。お茶は必要ないよ――ミヤちゃんや兄エリオ達、そして人種を襲った罪人だからね。どうやら『ますたー』について情報を知っているようだから殺す前に情報を引き出すために連れて来ただけだよ」
『!』
「ヒィッ!」
僕の台詞に4人の視線が足下のカイトへと集中する。
彼は4人の殺気を纏った視線を向けられ、小さく悲鳴を漏らし震え上がる。
「人種を襲った罪人……つまり、主君の邪魔をした不埒物なのですね。ご命令頂ければ、私の方で情報も含めて、処分をいたしますが。もちろん、主君がお望みなら産まれて来たことを後悔させるほどの苦痛を与えることをお約束致します。我がメイド道に懸けて」とメイが淡々と怖い台詞を告げる。
「ライト神様のお手を煩わせるほどではありませんわ。情報も、報いもこのエリーにお任せくださいませ。わたくしが知る全ての禁忌をこのゴミに頭から爪の先まで味わわせてさしあげますわ」とエリーが氷よりなお冷たい美しい笑みで断言した。
「――絶対的主に対する罪。絶望的苦痛と命を以って償え」とアオユキがパーカーで視線を切って怒りを滲ませる。
「あぁん? こいつがご主人様の邪魔をしたのか? ゆるせねぇ、あたいがぶっ潰してやるよ!」
ナズナは激怒し、口だけではなく直接始末を付けようとズンズンと歩き近付いてくる。
僕のために怒ってくれるのは嬉しいが、まだ情報ひとつも引き出していないのに殺されては困る。
軽く手をあげ、指示を出す。
「ナズナ、さっきも言ったが彼は『ますたー』について情報を知っているようだから殺すのは情報を全て吐き出させたあとだよ。皆も手を出さないように、ね」
「了解致しました主君」
「にゃー」
「ライト神様のお言葉のままに」
「ご主人様が手を出すなっていうならあたいは手を出さないぞ。ご主人様の命令だからな!」
ゴールド、ネムムには既に釘を刺しているため問題は無いだろう。
これで一応、情報を引き出す前準備は整った。
僕は未だに首根っこを足裏で押さえられ、メイ達の威圧に飲まれて震えているカイトへ視線を落とす。
「さぁ、僕達の質問に答えてもらおうか」
「は、話す! 話をするから、た、助けてくれ! ぼ、僕様――ぼくはエルフ女王国、白の騎士団団員で、次期団長候補でもあったんだ。色々な情報を知っている! 城や団員詰め所、他重要施設のおおよそだが間取り図も知っているんだ! 他にも役立つ情報は持っている! 彼女が持っているぼくの『グランディウス』も譲るよ。だから、ね? ね、ね?」
「…………」
ダンジョンではこちらを一方的に見下し『ヒューマン』と蔑んでいたのに、『奈落』地下へ移動してからは態度を一変させる。
そんな手のひらを返した姿に僕は苛立ちを覚えてしまう。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
25話を12時に、26話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は26話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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