番外編2 妖精メイドの悪戯
「ライト様のためならえーんやこら。ライト様のためならえーんやこら。もうひとつオマケにえーんやこら」
妖精の羽根にメイド服姿の美少女が『奈落』最下層の一角で妙な掛け声と共にクワを振るう。
見た目はとんでもない美少女だが、そのせいか逆に個性が薄くなっている気がする妖精メイドが、掛け声と共にクワを振るう姿は酷くシュールだった。
近くで同じようにクワを振るう眼鏡をかけた生真面目そうな妖精メイドが、我慢できずツッコミを入れる。
「……ねぇ、その掛け声は何? 気が抜けるんだけど」
「えっ? 気が抜ける? むしろ、わたし的にはご主人様に奉仕できる喜びが表現されて気合が入るぐらいなんだけど。ご主人様への忠誠心が足りなくないかな?」
「……貴女のように口に出し唱えなければいけないほど低くはありませんよ。貴女こそ主様への忠誠心が足りないのでは?」
「はぁ?」
「あん?」
レベル500の妖精メイド同士が手を止め睨み合う。
『奈落』最下層では下から数えた方が早いほどレベルは低いが、地上では一流扱いされるほど高い。
それ故、睨み合っているだけで物理的に干渉しあっているかの如く空気が歪む気がした。
――ちなみになぜ彼女達が『奈落』最下層でクワを振って、地面を耕しているのか?
現状、食料、衣服、マジックアイテムなど全てライトの恩恵『無限ガチャ』によって賄われている。
だが、万が一、『無限ガチャ』が使用出来なくなった場合に備えて、自給自足できるよう研究が進められているのだ。
彼女達がクワで地面を耕しているのも、『奈落』最下層で食料を生産できないか、という実験の一つである。
一応、ユメの植物園があるが……あれは地上から土を持ってきて作っていた。
1から『奈落』最下層を耕している訳ではない。
なので直接『奈落』最下層の土のある一角を耕し、『無限ガチャ』から出た種を植えて育てていた。
2人が地面を耕していたのも、新しい作物を植えるためである。
そんな2人が些細な言い争いで手にしたクワを構えようとしたが……。
「け、け、け、喧嘩は駄目。メイド長にお、お、怒られても知らないよ」
「しかも叙事級のクワでやり合おうとするとか、マジありえないんですけど~。問題起こしてもあーし達を巻き込まないでよねぇ~」
睨み合う2人に声をかける妖精メイドが追加される。
最初に声をかけた1人は美しい顔立ちをしているが、前髪を伸ばし纏う雰囲気がどこか暗い、オタクっぽい妖精メイドだった。
次にギャル系の妖精メイドが呆れた口調で突き放す。
メイド長――メイの名前が出てクワを手にしている妖精メイド2名は流石に冷静さを取り戻す。
互いに揃って謝罪した。
「ご、ごめんなさい、失礼なことを言ってしまって」
「いえ、こちらこそ、貴女の忠誠心を軽んじる発言をしてしまい申し訳ありません」
2人が謝罪し合う姿にオタクっぽいメイドが安堵の溜息を漏らす。
「2人とも、な、な、仲直りしてよかった」
「メイド長がそれだけ怖いってことかしらぁ~」
「貴女もそんなことばっかり言っていると、メイド長に怒られますよ……」
ギャルっぽい妖精メイドの台詞に、眼鏡妖精メイドが溜息を漏らす。
可愛すぎて逆に個性が無い妖精メイドが話題を変える。
「ところで2人の抱えているのって、『奈落』で採れた野菜?」
「そ、そそ、そうだよ。第一陣がようやくと、と、採れたの」
彼女達の腕にある籠にはピーマン、人参、カボチャなどの野菜が収まっていた。
他にも小麦が栽培されているが、まだそちらは収穫できるほど育ってはいない。
また野菜などは育ちはするが、収穫量は雀の涙で、『奈落』最下層に居る者達全てを支えられるほどではない。今後、量を増やすのも研究目標の一つだ。
今回は『無限ガチャ』から出た種で育てているが、今後は採れた野菜から採取して育てて行く予定である。
眼鏡妖精メイドがフレームを押し上げ尋ねる。
「育成具合はそこそこですが、味の方はどうなのですか?」
「うーん……ちょっと食べた感じだけど、やっぱりライト様の『無限ガチャ』から出る野菜の方が美味しいわぁ~」
「ちょっと味見してもいい?」
「い、いい、いいよ」
個性が無い、眼鏡妖精メイドが許可を取り、生でかじれそうなピーマンに口をつける。
眼鏡妖精メイドも続く。
一口囓り、味わうように咀嚼する。
「うーん……確かに水を吸いすぎているのか味が薄いね。なんかぼやけた感じになっている」
「後は身が薄くていまいちですね。主様にお出しできる物ではありませんね」
「そ、そうなの。だから今後もそ、その辺りが研究課題だと思う」
「まだ時間はあるし、研究を重ねればライト様にお出しできる物にはいつかなるんじゃない~?」
「みんな、集まって何をやっているんだ?」
妖精メイド達が話し合っていると、ひょっこり顔を出す人物が居た。
『奈落』最下層を守護している『SUR、真祖ヴァンパイア騎士ナズナ レベル9999』だ。
決して、彼女に任せられる仕事が無いため、無難な役目を押しつけられた訳ではない。
声に気付いた妖精メイド達が、ナズナへと振り返る。
彼女は妖精メイドが何を食べていたかに気付くと、苦そうに眉根を顰め口を開く。
「おぇ~オマエ達、そんな苦くて、不味い物をそのまま食べていたのか。他にも美味しい物があるのに、何しているんだよ……」
ナズナは心底『信じられない』という表情で告げる。
妖精メイドがナズナの態度を前に、思わず意地の悪い笑みを浮かべた。
「ナズナ様は知らないのですか?」
「ほら、ナズナ様は食堂で調理された物しか食べたことがないから」
「ナズナ様、このピーマンは採れたてが甘くて、時間が経つと苦み成分が強くなっていく野菜なんですよ」
「だ、だだ、だから、採れたてのを生で食べたら、あ、あ、甘くて美味しいんですよ」
「そ、そうだったのか、知らなかったぜ……」
ナズナは妖精メイド達の嘘を疑うこと無く信じ込む。
オタクっぽい妖精メイドが腕にある籠をナズナの前に差し出す。
「よ、よよ、良かったら、一つ味見してください。そして、味のご、ご、ご意見を頂けると助かります」
「食べて感想を言えばいいのか? それならあたいに任せろ!」
彼女は喜々として笑顔で告げると、採れたてのピーマンを一つ掴み躊躇わずかぶりつく。
「!? !!!? !?」
ナズナは『採れたては甘い』という嘘を頭から信じ込んでいたため、ピーマンの苦さに驚愕。
一般的にピーマンは採れた時間帯(朝、昼、夜)によって苦みが変化するが、甘くはならない。
彼女は痛恨のダメージを受けてしまったかのように涙目になる。
レベル500の妖精メイドがレベル9999のナズナにダメージ(?)を与えた事実は快挙と言っていいだろう。
妖精メイド達はその姿を前に、爆笑したり可愛い、記録に残したい、ライト様にも見せてあげたいなど、感想を漏らす。
ナズナはというと……食材を無駄にしない、はしたないマネはしないということで口にしたピーマンを吐き出すことはなくしっかりと飲み込む。
飲み込み涙目のナズナが妖精メイド達に食ってかかった。
「にゃんでにゃますことをするんにゃよぉお!」
ピーマンの苦みが強すぎて喋るのも辛いのか、たどたどしい言葉になる。
その可愛らしい姿が余計に妖精メイド達の琴線に触れた。
だが、相手はレベル9999で妖精メイド達はレベル500だ。これ以上、調子に乗ったおこないはさすがにまずい。
「ごめんなさい、ナズナ様。ナズナ様の反応があまりにも可愛くて。これはお詫びの飴ちゃんです」
「ですね。本当に可愛いリアクションでしたよ。お詫びの品はコンペイトウでよろしいですか?」
「いや、本当に可愛かったですよ~。あーしはチョコをあげるんで許してください」
「う、ウチも飴ちゃんで許してください。で、でも、ナズナ様の反応は本当にか、か、可愛かったですよ」
ナズナの手のひらに妖精メイド達がこっそり忍ばせているお菓子を乗せていく。
涙目で怒っていたナズナだったが、妖精メイド達からの貢物お菓子に機嫌をあっさりと直す。
彼女は手のひら一杯のお菓子に瞳を輝かせた。
「こんなに貰ってもいいのか!?」
「はい、お詫びなので」
「なら許す! でももうあんな酷いことはするなよ! 次は絶対に、絶対のぜ~~~ったいに許さないんだからな!」
「ごめんなさいナズナ様」
「以後、気を付けます」
「ごめんなさい、ナズナ様ぁ~」
「す、すみませんでした」
妖精メイド達の謝罪を受け取り、詫び品としてお菓子ももらったのでナズナは彼女達を許す。
ナズナは機嫌よさげに畑区間から出て行く。
妖精メイド達はナズナの背中を見送りつつ、彼女の反応と可愛さについて楽しげに意見を交わし始めたのだった。
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