番外編1 モヒカン達への指示
――時間が少し巻き戻る。
「クソ! 情報が全然入ってこないぜ!」
「……流石に『巨塔』を一時的とはいえ出し抜いた相手だな。マジで手強いぜ」
「おい! どこに耳があるか分からないんだから、安易にお名前を口にするなよ!」
「悪い。つい癖で」
竜人帝国首都、とある宿屋一室で人種モヒカン冒険者達が頭を抱えていた。
彼らは人種の少女ミヤとその友人クオーネが誘拐された際、捜査に協力。
兄エリオ達と協力して2人を捜した。
ミヤ達は獣人種に捕らえられていたが、彼女達を含めた捕らえた人種を利用して『巨塔の魔女』を打ち倒そうとした獣人種を、『巨塔の魔女』が皆殺し。
文字通り1人も生かさず殺した。これが『獣人種大虐殺』である。
その際、ミヤ達を含めた人質になっていた人種を助け出す。
モヒカン達も一部人種救出に貢献後、再び事前に決めていた竜人帝国に入国。
情報収集に当たっていた。
途中で、獣人ウルフ種族長に接触、今回の打倒『巨塔の魔女』を唆した人物が――『ドワーフ王国でライトの復讐相手であるドワーフ種ナーノに接触し、戦闘の末殺害した筈の人種ヒソミ』と判明した。
ヒソミは竜人帝国と獣人連合国の海路を行き来して稼ぐ零細商人だったらしく、獣人連合国側での情報収集は空振り。
竜人帝国側の情報に期待を持っていたが……こちらも微妙だった。
竜人帝国で人種が商人として動いていれば目立つ筈なのだが、『零細商人』だったせいか情報がまったく無いのだ。
まるで最初から『商人ヒソミ』など居なかったかのように、不自然なほど目撃情報一つなかった。
『奈落』側商人も竜人帝国に入国して『商人ヒソミ』の情報を洗っているが、モヒカン冒険者達のように空振りしている状態だ。
モヒカン冒険者達が宿屋一室で膝を突き合わせ、話し合う。
「とりあえず、もう一度、『商人ヒソミ』について聞き込みをしよう。地味だが、しっかり足を動かして情報を漁るしか俺達には出来ないからな」
「だな。とにかく足を動かさないとだな」
「……それに噂じゃ『獣人種大虐殺』の一件で緊急のシックス公国会議が開かれるらしい。そうなったら恐らくあのお方も公国にいらっしゃるだろう」
モヒカン達の喉が緊張感から鳴る。
彼らはリリスの『将来、人種女王に即位して人種の未来を変えたい』という野望を知っているため、今回のシックス公国会議でライト達が動くことが予想出来た。
つまり、十中八九、ライトが冒険者ダークとして公国に顔を出すということだ。
公国は竜人帝国の管理下にある。
場合によって公国に足を運んだライトが、同じ竜人帝国領内と言うことでモヒカン達を呼び出し、直接情報収集の進捗を聞かれる可能性が僅かながらあった。
そうなれば、モヒカン達が敬愛するライトに対して、『商人ヒソミの情報を何も掴んでいません』という報告をしなければならない。
この報告にライトが落胆して溜息を漏らす姿を想像しただけで、モヒカン達は震え上がる。
確かにモヒカン達のレベルは低いが、忠誠心なら他の『奈落』メンバー達に負けるつもりはない。
にも関わらず、敬愛するライトに僅かでも『残念』という感情を抱かせるなどモヒカン達にとって許容など出来なかった。
リーダーがはっぱをかける。
「いいか野郎共! どんな小さな情報でも良い! 『商人ヒソミ』の手がかりを必ず手に入れるぞ! 分かったな!」
『おう! 絶対に手に入れるぞ!』
他モヒカン達が気合の入った声を上げる。
宿屋亭主から『五月蠅いから静かにしろ、人種共! 叩き出すぞ!』と怒鳴られたのは別の話だ。
☆ ☆ ☆
――結論から言うとモヒカン達の情報収集は空振りに終わってしまう。
結局『商人ヒソミ』の情報を得ることが出来なかったのである。
またさらに状況が変化。
モヒカン達の予想通り、緊急のシックス公国会議でライトが護衛に付いたリリスが、『人種女王』に即位した。
その情報は公国の街中どころか、竜人帝国首都にまで急速に広まる。
そんな中で、アオユキ経由でライトからの指示を受けた。
竜人帝国首都、宿屋一室でモヒカンリーダーが涙を流しながらモヒカン達に伝える。
その涙は悲しみではなく、感激からの涙だ。
「竜人帝国での調査を一時中断し、公国会議で焦臭くなった魔人国について調べて欲しいとのことだ。その際、絶対に無理をせず情報より俺達の命を優先せよとのことだ」
「ライト様……」
「竜人帝国で商人ヒソミの情報も得られない俺達を、ここまで気に懸けてくださるなんて……」
サングラスの下、モヒカン達が涙を零す。
モヒカンリーダーが改めてはっぱをかけた。
「ライト様がここまで気に懸けてくださっているんだ。次の魔人国での情報収集は今まで以上に気合を入れるぞ!」
『もちろんだ、リーダー! 俺達はやるぜ!』
他モヒカン達が気合の入った声を上げる。
以前と同じように宿屋亭主が『五月蠅いから静かにしろって言ってるだろ、人種共!』と怒鳴り込むのはまた別の話である。
――そして、1ヶ月後、魔人国国境で、苛立った声が響く。
「テメェー!? 入国出来ないって、どういう了見だ! あぁぁぁん!」
国境の警備を預かる魔人種が、凄む人種冒険者に対して、怯まず反論した。
「入国出来ないのは当然だ。貴様らのようないかにも怪しい者達を我が国に入れるのはまかりならん!」
「俺様達のどこが怪しいっていうんだ! だいたい入国に必要な書類や金銭なんかもしっかりこっちは準備しているんだぞ、オラ!」
「そうだ! そうだ! 第一、俺達はこう見えても真面目な冒険者で通っているんだぞ! 怪しいとか心外にも程があるだろう!」
警備を預かる魔人種が彼らの主張に対して、怯まず反論する。
「確かに貴様達が用意した書類などは全てきっちりと揃ってる……だがな、何度も言うように貴様達のような者達を入国させる訳にはいかないのだ。ただでさえ最近、魔人国上層部が公国会議の結果でピリピリしているのに、貴様達のような怪しい連中を入れられる訳ないだろうが! 入国したかったらせめてもう少しまともな恰好や外見、その変なトサカのような髪型を止めろ!
これでは入国させたくても出来ないではないか!」
「このいかしたモヒカンのどこが怪しいっていうんだ!」
「そうだ! そうだ! この髪型を維持するのにどれだけの労力がかかっているのか知らないのか!」
「そんな労力知らぬ! いいからまず見た目を直してこい、見た目を!」
警備を預かる魔人種は取り付く島もなくモヒカン冒険者達の意見を却下した。
モヒカン冒険者達は一方的な要求に何も出来ず『ぐぬぬぬぬ……』と歯噛みするしか出来なかった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
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