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26話 ノノ

 一足先に帰国したリリスは、実兄クローを拘束。


 軍部は掌握済み。

 他部署はライトから譲り受けた人員も加わり、諸々の作業等に奔走することになる。


 女王として即位したリリスにとって、長年の夢である『人種の地位向上』も大事ではあるが、まずは足場を固めるため、山のように積み上がった書類と格闘し、国内に巣くうノノ達のような間者を追放、その穴埋めもおこなわなければならない。

 これでもリリスがおこなわなければならない仕事の一部でしかなかった。


 他にも――約1ヶ月後の話になるが、魔人国から経済制裁を受ける。

 リリスはその対処に追われることになるのだ。

 だが彼女は頭を抱えつつも、前向きに対処していた。

 なぜなら奴隷販売撤廃、関税の見直し、物品の安値取引の強要、他不平等なモノ全ての一掃をはかるため行動することが出来るからだ。


 とはいえ長年に渡って人種を蝕んできた病のようなモノだ。

 制度を見直しても、早々簡単に人種や他種の考え方を変えることは難しい。

 それでもリリスは長年の夢の一歩を歩み始めることが出来たのである。


 では、その夢のため斬り捨てた者達、リリスにとって実姉のような存在であったノノはどうなったのか?




「おう、ドワーフ王国へよく来たな。魔人国の間者をやっていたらしいな、だから当面はこちらの監視下に入ってもらう。まぁ問題無いと判断したら、監視を解くからそれまで辛抱してくれや」

「……はい、ありがとうございます」


 人種王国第一王女リリスのメイド長を務めていたノノが、家族を代表して返事をする。

 彼女達は粗末ではないが、どこか薄汚れた簡素な衣服に袖を通し、長旅に疲れたのか、それとも祖国の人々から『売国奴』と罵られ亡命した精神的疲労によってか、顔色が悪かった。


「ドワーフ王国に亡命するのは、あんたの後ろに居る奴らだけなのか?」

「……はい、これだけになります」

「了解、了解。なら人数、名前、性別なんかの記入をするからちょっと待ってくれ、おい」


 ノノと話をするドワーフ種男性は、背後に控えるドワーフ種兵士達に声をかける。

 一部、ドワーフ種兵士達が手に槍ではなくメモを片手に、亡命を希望してきたノノ達に護衛を付けて近付く。

 人数などを確認しておくため、調査するのだ。

 なぜ自国を追い出されたのか分からない人種の幼子が、ドワーフ種兵士に怯えて親の背中へと隠れてしまう。


 その姿を見てドワーフ種責任者が溜息を漏らす。


「おいら達は本当にあんたらを害するつもりはないから安心してくれ。そりゃ他国の間者をやっていたのだから、当分は監視を付けたり移動制限なんかはあるがな」

「……ご配慮、感謝いたします」

「何、全部上からの指示さ。おいら達はその仕事をしているだけだ」


 今回、ドワーフ王国に亡命してきた者達は100人を超える。

 名前を尋ねて書き込むだけで暫く時間がかかってしまう。

 ノノはその光景をぼんやり眺めながら、ここまでの道のりを振り返った。


 ☆ ☆ ☆


 リリスから『裏切り者!』と罵られ、国外追放を宣告された後、ノノは重い足取りで人種王国へ帰国する。

 帰国途中、元国王の側に居た使用人、兵士達が冷たい視線を向けて来て、ノノ達を警戒し続けていた。

 元国王を人質に取り、リリスへ要求を突きつける可能性があったからだ。


 しかし元国王は彼らの行動を諫め、人種王国帰国までの間の諍いを禁じた。

 理由として、『既にリリスが判決を下し、罰を与えた。これ以上の辱めは女王の恥となる』と。


 この言葉に間者だった関係者は涙し、元国王に手を出そうと言う者は一切出ることなく、人種王国へ帰国したのだ。


 帰国後、ノノの実家は既に人種兵士に押さえられ、リリスの判決通り『外患罪とし実家取り潰し。財産は手に持てるだけ。親類縁者含めて、国外追放』が言い渡されていた。

 ただ一部、違う点があった。

 人種王国からは追放されるが、『巨塔』、エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国への受け入れ態勢が整っている事を伝えられる。


 ノノ達元間者達は、好きな国を選び亡命する手筈になっていたのだ。


 ――彼女達は知らない。


 リリスは最初、ノノ達の国外追放しか決めていなかった。

 これ以上、手を貸すのはトップとして甘過ぎると判断したからだ。

 しかし、ライトが彼女達を『人種として』不憫に思い各国に受け入れの根回しをしておいた。

 ドワーフ国王ダガンに袖の下――協力してもらうためのマジックアイテムをプレゼントしたりなどしてだ。


『巨塔』だけでは、今回の騒動で『巨塔の魔女』に敵意を持ち亡命を希望しない者達が居るだろうと配慮し、エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国にも声をかけたのだ。


 ライトの判断に、リリスは涙を零し頭を下げた。

 人種王国女王としてではなく、1人の人種リリスとしてだ。

 彼女は人種王国の女王として、既に自国の民ではなくなった者達ではあるが、彼らが間者という利用される存在から離れ、一人の人種としてより良く生きてくれることを願わずにはいられなかった。



「おっし、確認が終わったな。それじゃ移住地に案内するから付いて来てくれ。具合が悪かったりして歩くのがキツイ者が居たら言ってくれ、馬車を出すから」

「……問題ありません」


 ノノが振り返り確認するが、皆、病気や怪我などにはなっておらず、歩けない者は居なかった。

 ドワーフ種責任者が『それじゃ行くぞ。外れないで付いて来てくれ』と声を上げて歩き出す。

 立場がやや面倒な者達のため、一般的な正門を使うことが出来ず人気の少ない裏門から入らなければならない。そのためにもはぐれないよう気を付けて欲しいと促す。

 追放者達がぞろぞろと指示に従い歩き出した。


「…………」


 1人ノノはその場に止まってしまう。

 動かない彼女を不審がり、他の者達が次々に彼女を追い抜いて行く。


(……姫様)


 ノノは1人振り返り、人種王国の方角を見つめる。


 現在進行形で実妹のように可愛がっていたリリスは女王として戦っているのだ。


 裏切りの間者であるノノはついその方角を見つめて、ちゃんと食事を摂っているのか、眠っている最中に布団を抱える癖があるから体を冷やさないようにしているのか、暗い部屋で書類を見て目を悪くしないか、背筋を丸めて座って猫背になっていないか、ちゃんと弱音を吐ける人が側に居るのか――次々彼女の心配ばかりをする。


(……他国の間者であるノノが今更姫様の心配など)


 自嘲なのか? 事実の確認なのか? それとも――。


「すまないが立ち止まらず進んで欲しいんだが……どこか痛めたのか? なら医者を手配するが」

「……いえ、どこも痛めておりません。失礼しました」


 ハラハラと涙を零すノノが、ドワーフ兵士に声をかけられ人種王国に背を向ける。


 ノノは涙を零しつつ、人種王国に背を向けて一歩を前に進み出す。


 ――リリス、ノノ、2人の縁が再び交わることがあるのか?


 その結果はまだ誰にも分からなかった。

本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


今回のお話で『8章 シックス公国会議編』を無事に終えることが出来ました!

ここまで書いてこられたのもひとえに読んで下さり、応援して下さっている皆様のお陰です。本当にありがとうございます!

次の9章が始まるまでいつも通りの番外編となります。

番外編は前と同じく6~7話前後を予定しています。


引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!


また最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
間者とはいえ他国から強要されていたわけだからお家取り潰し、国外追放と厳しい措置。ただ財産は持てるだけ持たせ竜人、魔人以外の他国へ追放者の受け入れをし要請するなど人道的に配慮したのは少なくともリリス女王…
家族を人質にスパイしてたから、悪いのは竜人だね。 さっさとざまぁ展開してほしい いっそのこと種族根絶がいいかも
人種は食料生産を担っていたのに経済制裁して何を食べるんだろ
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