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25話 クローとの対立

 人種第一王子クローは首都居城――城というよりちょっと大きめの屋敷程度の規模だが、その執務室で書類仕事をしていた。

 まるで将来、自身が人種国王となるための予行練習のようにだ。


「……チッ。子供ではあるまいし、何を騒いでいるんだ」


 真面目に書類仕事に取り組んでいたが、外が妙に騒がしい。

 まるで複数の子供がはしゃいで廊下を走り回っているかのようだ。


「おい、ちょっと出て注意してきてくれ」

「畏まりました」


 クローは彼の仕事を手伝う側近に指示を出す。

 側近も書類仕事を邪魔されてやや苛立ち、元凶にキツイお説教の一つでもしてやろうと考える。


 ――しかし、彼が廊下に出る必要はなかった。


 元凶である騒音が真っ直ぐ執務室に向かってきたからだ。


『コンコン』と扉がノックされる。


 ちょうど部屋外に出ようとした側近がそのまま扉を開く。


「おぉっわ!?」


 扉が僅かに開くと、執務室に近づいてきた者が強引に扉を開き、さらに室内に勢いよく入り込んで来て側近の体にぶつかる。側近はそのまま突き飛ばされ悲鳴を上げる。

 一部様子を見ていたクローは、側近に怪我をさせるような入り方をしてくる者を怒鳴って叱責しようとするが、すぐには声が上げられずむしろ混乱に陥る。

 なぜなら扉を開けたのが頭から爪先まで完全武装した人種兵士達で、彼らが執務室に雪崩れ込んできたからだ。


(緊急の問題? 他種国家が攻めて来たから慌てて報告しに来たのか!? もしくは城内に暗殺者的が侵入したのか!? それとも――)


 クローは脳内で思考する。

 だが、彼が考えた中には正解は無かった。

 装備を固めた兵士達の背後から護衛されるように、人種第一王女リリスが姿を現す。


「リリス?」


 実妹の登場でクローの意識がフリーズする。


 シックス公国から戻ってくるには早すぎるし、武装した兵士を連れて執務室に乗り込んできている意味も分からない。

 クローが混乱していると、リリスが淡々と告げる。


「人種王国女王リリスとして命じます。ペンを置き大人しく私達に従ってください」

「女王? 何の冗談だ。いくら何でも笑えないし、国王陛下がご健在なのに女王を名乗るのは不敬ではないか。例え実の娘でも口にして良いことと悪いことがあるぞ」

「お兄様、冗談ではありません。私は人種王国以外の五ヶ国の内三カ国、つまり過半数以上の承認を受け、前国王であるお父様を廃して人種王国女王に就任したのです」


 クローも人種王国の国王が自分達では決められないことを理解している。

 故に他国に反抗的なリリスより、従順な自分が次期国王になる筈だと思い、それなりの努力もしてきた。

 にも関わらず、リリスは他国に受け入れられ即位した女王のように振る舞い、武装した兵士達も従っている。


 クローの混乱が加速し、同時に嫌な予感が背中を撫でた。


 彼は椅子から立ち上がり、リリスへと向き直る。


「三ヶ国から承認を受けた? ありえん、嘘を付くのは辞めろ。何の問題も起こしていない父上を廃し、何の実績もないリリスを女王に祭り上げるなど常識的に考えてあり得ないだろ。リリス、何が狙いでこんな手の込んだ悪戯をしているか分からないが、いい加減にしないと兄として本気で怒るぞ!?」

「お兄様……全て事実なのです。でなければ公国にまだ居るはずの私がなぜここにいるのですか?」

「……会議が始まる前に1人で帰ってきたのか?」


 いくら公国まで川下りで移動できると言っても、1日で人種王国首都と行き来出来る訳ではない。

 リリスの指摘通り、シックス公国会議中は取り決めで『会議中の責任者の補佐として&いざという時の交代要員として、国王の親族を連れて行く』となっている。この暗黙の決まり事は人種王国にしか適用されておらず、言うなれば国王の親族の役割は人質だ。

 にもかかわらず公国に居なければならないはずの彼女がここに居ることなど、本来ありえないのだ。取り決めを破ったならば大問題になる。


 もしこの場に居て、問題にならないとしたら……リリスが女王に即位して人質扱いされなくなったため早々に会議を辞したか、もしくは何らかの助力を得て会議終了後にこの場に高速で移動したか。


 その事実にクローは動揺し、ようやく自身の立場を理解する。


「ば、馬鹿な、普通にありえないだろ! どうして問題を起こしていない父上が廃されて、何の実績もないリリスが女王に即位するんだ!? 他種が絶対に納得しないだろ!? 公国で父上がお隠れになられたからか!? だ、だとしても改めて会議を開き、ボクが国王に指名されるのが正道ではないか……。ボクがどう考えても国王になる流れだっただろう!? 一体公国で何が起きたというんだ……ッ」


 後半はリリスにではなく、自身に問いかけるように漏らす。

 だが、彼の自問自答は第三者の声で破られた。


「リリス様、さっさとあの男を捕らえては如何ですの? 既に結果が出ているのですから、これ以上の問答は時間の無駄ですわ」

「!? きょ、『巨塔の魔女』……ッ」


 頭からフードを被り魔術師風の衣装を纏った少女が、リリス達の背後から姿を現す。

 そのさらに後ろから彼女の護衛として公国に向かった『黒の道化師』パーティーが姿を見せた。

 クローも馬鹿ではない。

『巨塔の魔女』の姿を見て答えに至る。


「この馬鹿妹! 貴様! 『巨塔の魔女』に国を売ったのか!」

「お兄様……国を売ったとは心外です。むしろ国民を売っていたのはお兄様達でしょう。私は『巨塔の魔女』様のお力をお借りしただけ。国を売った覚えはありません」


 リリスの否定にクローは構わず激昂する。


「おまえの無謀な願望を叶えるため魔女の手を借りたのなら同じことだ! ボクが本当は国王になる筈だったんだぞ! そのために今まで苦労してきたんだ! 他種からの申し出、国民を奴隷として寄越せという要望にも全て答えてきた。取引の品物の金額も言われるがまま受け入れてきた。それは人種の未来のためだ! それなのに、国王になるためには他国の承認が必要だと言われたから奴隷として民を売っていたのに、なぜこのボクが国王になれない! こんなに努力してきたんだぞ! おかしいだろ!」

「おかしいのはお兄様ですわ。その努力とやらが、国民を奴隷として他国に売り、民草の努力の結晶である産物を安く買いたたかれることですか? お兄様の努力は、全て自分が国王になるため。人種の未来などと言っておられますが、自身の国の民を売っておいて何が未来ですか? 恥を知るべきです」

「ああ、ボクが国王になるために努力して何が悪い! ボクは生まれたときからずっとこの人種王国を見てきた。ボク達は家畜なんだよ! なら、家畜としての生き方ってものがあるだろう? ボクだって子供や若い頃は反抗したさ、でもそんなの世界は受け入れてくれなかった。他種と交渉しようにも何も聞いてはくれない。そりゃそうさ、力がないんだから! だったら、何も変わらないんだったら、ボクが国王になって何が悪い! 他国の言いなりになって何が悪い! リリス、貴様が1人で鼻息荒く子供のような願望を語るのは良い。だが、お前だって同じだぞ。ボク達は無力なんだ! お前がやったとしても滅亡が早まるだけだ。お前が失敗すれば種そのものすら滅ぼされるのだぞ! そうなったら全てお前のせいだからな!」

「いいえ、滅ぼされません。むしろ、人種の明るい未来を勝ち取るため私は立ち上がったのです。お兄様、勝手な言い掛かりはお止め下さい」


 兄妹が言葉を交わす。

 2人の意見の間には広く深い溝が横たわっていた。

 だが、この場は話をするような場ではない。


 リリスが真っ直ぐ射抜くように兄を見つめる。


「私のおこないが正しかったことを証明するためにも、お兄様には一線を退いて頂く必要があります。軍部は既に掌握済み。お兄様を助けるために乗り込んでくる者達はおりません。なのでどうか、下手な抵抗をせず大人しく従ってください」

「ッ……リリス、ボクは必ず王位を取り戻す。人種王国は今のままでいい! 人種を存続させるためにも、ボクの面子を守るためにも……絶対に王位にボクがつく。例え相手が妹のおまえでもだ」


 クローもこの場で逆転が不可能だと理解し、抵抗はしないが殺意がたっぷりと乗った言葉を残す。

 リリスは実兄からの宣言を正面から受けても動じず、兵士に合図しクローを拘束。連行させる。

 当然、クローの側近達も拘束し、身柄を確保した。


「……あれは問題をおこすまえに処分するのが妥当ではないかしら」


『巨塔の魔女』が未だ王位奪還を諦めていないクローに対して、最も簡単な解決方法をリリスへと呈示する。

 側に居る彼女の護衛ダークが、仮面の下で『言い過ぎだ』と言いたげに顔を顰めるが物理的に表情を遮られているため『巨塔の魔女』が気付くことはなかった。


『巨塔の魔女』の意見にリリスは僅かに黙り込んだ後に告げる。


「……いえ、兄を殺害するのは不味いです。下手に害すると『王位欲しさに実兄に手を出し、血の粛清をおこなった鮮血の女王』などと呼ばれ民から支持を失います。それは最終手段とするべきです」


 現時点ならば、クローを支持する民もそこそこはいるだろう。

 ただでさえ強引に王位を得たのだ。

 下手に自身の足を引っ張る要素をわざわざ作る意味はない。


『巨塔の魔女』としてもそれ以上興味はなく、軽く肩をすくめて何も言わなかった。


 リリスは残った兵士達へと振り返り、女王として指示を出す。


「第一目標だったお兄様を逃がさず捕らえることが出来ました。次は重要書類の確保、王位を示す国宝、重要施設強襲確保などやることは多い。一つも漏らさず押さえるように」


 兵士達が気合が入った声をあげて、事前に打ち合わせした役目に従い動き出す。


 人種王国の激動の1日はまだ始まったばかりだった。

本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!


また最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
本物兄は奈落で放置して、カードのニセ兄を城に置いとけばいいか
巨塔の魔女さまは 少女設定なの??? 姿を、若くしているのでしたっけ??? 奈落ではふつうの成年女性で??? なにもかんも少女なのはどうかと。 大人の姿のほうが 統治はまわりが納得しやすいのでわ、…
[一言] モヒカン達が「人種王国自ら他国に自国の民を奴隷として売っている」噂を口にしてたけどクローが元凶かよ… なんか一気に胸糞小悪党と化したな。
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