24話 シックス公国会議5
シックス公国会議が中止になると、人種王国代表者は自国屋敷まで戻ってきた。
そのまま休むことなく、リリスは屋敷広間に全員を集める。
人種王国女王に即位したリリスが正面に立ち、側にユメ(偽)、僕、ネムム、ゴールド――さらにエルフ女王国客人である『巨塔の魔女』エリーも彼女の側に立っていた。
これも事前の話し合い通りの展開である。
リリスは僕達を側に置きつつ、会議に参加できなかった人種王国関係者達と対峙。
彼女はぐるりと見回した後、口を開く。
「……今回のシックス公国会議において三ヶ国から支持を得て、国王を廃し、私、リリスが人種王国女王に即位しました」
『!?』
現場に居なかった護衛兵士やメイド達が、リリスの発言に驚愕する。
他の者達の反応を見ると嘘や冗談ではないと知り、彼らは二度驚く。
リリスは一通り驚きが落ち着くまで待つ。
ざわめきが緊張感をともない落ち着くと、彼女がゆっくりと今後について話を切り出す。
「元国王……お父様には隠居して頂き、別所にて余生を過ごして頂きます。その際、一切政治に関わらせるつもりはありません。また兄も私が戻り次第、一線を退いて頂きお父様同様、国政には一切関わらせず隠居させ、今後は趣味の世界でご活躍して頂くつもりです。この決定に一切の意見を聞くつもりはありません」
リリスの発言にメイドや護衛兵士、使用人などが息を呑む。
当事者である元国王――リリスの父は未だ黙って話を聞き続けていた。その表情に絶望感など一切ない。
……どちらかといえば『予想が当たった』という雰囲気だ。
リリスはさらに話を進める。
「また今回の会議に出席した者達以外――今回、屋敷に残された者達は女王の権限によって解雇します。解雇理由は……他国の間者だからです」
彼女の発言に今まで以上の驚愕が皆を襲う。
会議に参加した護衛兵士達が驚き、屋敷に残った者達に『冗談だよな』と言いたげな戸惑いの視線を向ける。
(正確には……今回、屋敷に残した人達は魔人国と竜人帝国の間者だけなんだよね)
ドワーフ王国、エルフ女王国、獣人連合国の間者も人種王国には紛れ込んでいるが、そちらまで排斥した場合、国家が立ちゆかなくなる。
故にリリスは協力的なその三ヶ国に関しては呑み込んだ。情報漏洩も裏から手を回せば今のところ問題はないためだ。
もっと時間があれば、綺麗に入れ替えることが出来るだろうが……実際におこなった場合は年単位で時間が必要になるため、直近の話としてはあまり意味がない。
(僕達『奈落』の場合、恩恵『無限ガチャ』カードから出る人材を使えばいいけど……専門家を育てるのって、時間もお金もかかるからな……)
リリスの国家立て直しを影ながら手伝い、人材を育てる大変さを間接的に痛感してしまう。
「……姫様、ノノ達を他国の間者と非難するなどお止め下さい! 冗談でも口にして良い事と悪い事があるのですよ!」
リリスのメイド長を務めるノノが鋭い声をあげる。
リリスにとって、彼女は下手をしなくても父親以上に距離が近い。
ノノが幼い頃から側に付き、リリスも実姉のようにノノを慕って育ってきた。
そんな血の繋がりは無くても姉や母と慕っていたノノに、リリスは氷のように冷たい視線を向ける。
「……ええ、そうね。冗談だったらよかったのだけれど」
「……ほ、他の者はともかく……姫様はノノの忠誠心をお疑いになるのですか? 幼い頃からお側にいたノノを間者として扱うなど酷いです……」
ノノはリリスから初めて向けられる凍り付きそうなほど冷たい目に怯えつつも、自身の潔白を訴える。
具体的な反論ではなく、幼い頃から側に付いてきた情に訴えかける。
だが、彼女の発言はリリスの心に響かず、その覚悟を一切揺るがさない。
「なら、その忠誠心で魔人国に送っていた手紙や実家から魔人国に連絡する方法、魔人国から贈られたノノのコードネーム……最悪の場合、私が邪魔になったら自殺に見せかけて殺す役目を負っていた理由も、全て説明してくださるのよね?」
「!?」
ノノは瞳を限界まで開き青い顔で後退る。
全てが真実のため、すぐさま反論することが出来ずに居た。
リリスが問いかける。
「ノノ、早くその忠誠心に従って反論してみて」
「……ひ、姫様……」
「魔人国から受け取っている指令や、ノノの実家が今までしてきた指示等も大まかだけど知っているわ。……ノノ、それらの証拠を否定する反論を早くしてみて」
「…………」
明確な証拠すら押さえられていることを知り、ノノが何も言えず押し黙ってしまう。
だが今までずっと公人としての態度を取り続けていたリリスが、感情の限界を超えてぶちまける。
「裏切り者……裏切り者ッ、裏切り者! 裏切り者! 裏切り者! 裏切り者! 裏切り者ぉぉぉぉぉおぉッ!」
リリスは大粒の涙をボロボロと零し、人ではなく獣のように慟哭する。
「どうして私を裏切ったのよ、ノノ!? 人種の未来のため一緒に頑張って国を変えていこうって誓い合ったのに! アレは嘘だったの! 滑稽に踊る私を見て面白がっていたの!? ねぇ、ノノ!」
「……ひ、姫様――」
「否定してよ! お願い、違うって、私の手にした証拠は全部嘘でノノは私の味方だって言ってよぉ! お願い、ノノ、私を裏切らないで! 側に居てよ! おねがいしますノノ、私を捨てないで……否定してよぉ……」
髪を振り回し、体全体で動かし訴え、獣のように慟哭していたリリスは、後半に関しては姉や母親に捨てられた幼子のように涙を零し、寂しく助けを呼ぶように泣きじゃくった。
人種王国女王ではなく、リリスという少女個人の心を叫ぶ。
その涙はノノだけではなく、他の裏切者達の心を深くえぐる。
感情的に叫ぶリリスに対して、ノノは否定することも駆け寄り抱きしめる事も出来ず、ただ黙り込むことしかなかった。
なぜなら全て真実だからだ。
ユメ(偽)から渡されたハンカチでリリスが涙を拭き、気持ちを切り替える。
少女は女王の仮面を被り直し、改めて裏切り者達に向き直った。
「――他国の間者を務めていた者達は外患罪として解雇、実家も取り潰します。本来ならば本人だけではなく親類縁者にも死刑を宣告するべきなのでしょうが、長年の忠勤を認め本人と家族、親類縁者、関係者全員の国外追放とします。家財は持てるだけは認めますが、他は国家が接収します。以上です」
流石にここに居るだけではなく、人種王国に居る間者の親類縁者まで死刑にした場合、人数が多すぎて時間がかかり過ぎ、そちらに割く人員が勿体ない上に民草や他国に与える衝撃が強すぎるため国外追放に落ち着いたのだ。
ノノは一通り話を聞き終えると、その場に座り込み、項垂れてしまう。
リリスは血が流れるほど拳を握り締め、堪える。
リリスがエリーへと声をかけた。
「魔女様、私達を人種王国へ移動させてくださいませ。そしてすぐさま国家再建を開始しますので、どうぞお力をお貸しくださいませ」
「もちろんですわ。リリス女王のためなら『巨塔の魔女』は協力を惜しみませんわ」
『巨塔の魔女』――エリーはリリスをやや敵視していたが、今回、女王即位を成し遂げたこと、さらに家族のように信頼していたノノが間者だったにも関わらず、甘さを見せずきっぱりと斬り捨てた態度に敬意を表す。
『巨塔の魔女』がリリスの協力の要請を受け入れる。
これは人種王国と『巨塔』が同盟関係を結んだ事を示す。
この同盟は追放される者達の口から外部に広がるだろう。
「――リリス」
「はい、なんでしょうかお父様」
公衆の面前で『国王』とはもう呼ばず、『お父様』とリリスは口にする。
父親はその態度を叱らないが、元国王として長年背負ってきた重さを持つような声音で告げる。
「リリス……もう動き出した以上、誰にも止める事は出来ない。どれほど辛いことがあっても、王族として即位した以上は投げ出す事は出来ない。その覚悟はあるのだな?」
「はい、あります。全て覚悟の上です。私の命で人種王国――いえ、人種の明るい未来が得られるなら本望です」
父親の問いにリリスは即答する。
先程まで親に捨てられた幼子のように泣き叫んでいた弱さは微塵もそこにはない。
硬く、透明で美しい、永遠の輝きを放つ宝石のような美しさをリリスは放っていた。
父親はそれ以上何も言わず黙り込む。
リリスは再度、『巨塔の魔女』へと声をかけた。
「魔女様、お願いします」
「了解しましたわ」
エリーが『SSR、転移』カードでリリス、ユメ(偽)、僕、ネムム、ゴールドを人種王国へと転移させる。
消える刹那――涙を零すノノがリリスを見つめていた。
だが、彼女にはもう何も出来ない。ノノはこの国を去り、そしてリリスは女王となり、表舞台へと上がる。
幕は上がり、そして共に長い時間を生きてきた彼女達の道は分かたれたのだった。
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