23話 シックス公国会議4
「挨拶が遅れて申し訳ございませんわ。わたくし『巨塔の魔女』ですの。以後、お見知りおきを」
フードを頭からスッポリと被り、魔術師風の衣装を纏った少女が鈴を転がしたような美声で自己紹介をする。
『巨塔の魔女』と彼女が自身を紹介した後、会議に出席している者達はすぐには反応できず、数秒の間が作られた。
その間を打ち消すようにエルフ女王国以外の護衛達が、素速く要人を守護するために動き、武器を取り構える。
魔人国ヴォロス第一王子は自国兵士に守られ、背後からエルフ女王国リーフ7世を睨みつける。
「リーフ女王! どうして公国会議の場に議題の相手――『巨塔の魔女』を連れてきた!? エルフ女王国は裏切るつもりなのか!?」
「違う! 違うの……違うのよ……違う……」
ヴォロスの問いにリーフ7世は自身の頭を両手で押さえて、『違う、違う』と何度も否定するが、それ以上の言葉を告げることはなかった。
そんな頭を押さえて怯えるリーフ7世に代わって、エリー――『巨塔の魔女』が前に出て代わりに説明を引き受ける。
「今回のシックス公国会議はわたくしについてお話をすると伺ったので、彼女達……エルフ女王国には無理を言って同行させて頂きましたの。お陰で何の問題も無く会議場に入れて、本当に助かりましたわ」
『巨塔の魔女』がリーフ7世に振り返ると、穏やかな声音で話しかける。
「だからもう罰として頭をくちゅくちゅなんてしませんから、そこまで怯えなくても大丈夫ですわよ」
「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」
リーフ7世は世界各国の要人達の目があるにもかかわらず、心の底から感情をさらけだし感謝の言葉を告げた。
なぜ彼女はこれほど怯えているのか?
リーフ7世は過去に、戦略級『茨の束縛』で拘束された後、『巨塔の魔女』に記憶を読まれた。
その際の苦痛は想像を絶するもので、『巨塔の魔女』がさらなる本気を出して痛めつければ苦痛から廃人化するほどである。
未だあの時の苦痛から立ち直れずやせ細っているにもかかわらず、潜入手引きに失敗したら、再度罰として頭を弄られる所だった。彼女はそれを心から怖れていたのだ。
とはいえヴォロス達でも『罰として頭をくちゅくちゅ~』という言葉は意味不明だが、リーフ7世の態度からしてそれが決して楽しいモノではないことだけは理解できた。
『巨塔の魔女』の視線がリーフ7世から外れて、会場へと向けられる。
彼女はどこか楽しげに会議を促す。
「さぁ、わたくしに遠慮無く会議を始めてくださいな。それに貴方たちにとっては良い機会でしょうから、聞きたいことがあれば答えられる範囲でお答えしますわよ」
(本来ならここでエリー――『巨塔の魔女』がディアブロに絡んで信用を落とさせる筈だったんだけどな。まあ、これは次にやればいいか)
僕は仮面の内側で呟きを漏らす。
だが延期した計画について考えていても仕方ないため、意識を現状へと戻した。
ヴォロス達は会議の続行を『巨塔の魔女』に促されるが、当然、反応は鈍かった。
対策を話し合う『巨塔の魔女』本人が目の前に居るのに、会議など出来るはずがない。
今回、公国会議の音頭を取って『自分が主役だ』という顔をしていた魔人国第一王子ヴォロスの顔色が怒りで赤くなる。
完全に魔人国、彼のメンツを潰した形になっているからだ。
ヴォロスが激昂し怒声をあげる。
「敵が目の前に居るのに会議など出来るはずがないだろうが! 常識で考えろ!」
「あら、遠慮なさらなくてもよろしいのに。むしろ、折角の機会なのですから、色々情報を引き出そうという気概はないのですの? でしたら随分と気が小さいのですね」
「この魔女め……ッ! 今すぐこの魔女を捕らえろ!」
ヴォロスの指示に魔人種護衛兵士達が動き出そうとするが、対抗してエルフ女王国兵士が前に出る。
流石にヴォロスが目を剥いた。
「リーフ女王! 邪魔立てするつもりか!」
「か、か、彼女は現在、わ、我が国の客人として招いています。きゃ、きゃ、客人に手を出そうとするなら、護衛するのは自然なことではありませんか」
「何が客人だ! 相手はこの世に混乱をもたらしている張本人! 『巨塔の魔女』なんだぞ!」
態度を取り繕う余裕も無くヴォロスが声を荒げる。
そんな彼にドワーフ王ダガンがどこか楽しげに声をあげた。
「ヴォロス殿、悪いがこの場で『巨塔の魔女』殿を捕らえるというなら、ドワーフ王国も抵抗させてもらうぞ? 彼女には色々借りがあるからな」
「……オイ達、獣人連合国も手を貸す」
「き、貴様ら……ッ!」
エルフ女王国だけではなく、ドワーフ王国、獣人連合国まで『巨塔の魔女』捕獲妨害に名乗りを上げる。
流石に3ヶ国を相手取るのは不味い。
この争いに竜人帝国外交官が口を挟む。
「ヴォロス第一王子、公国会議は言葉を交わす場。刃を交える場でありません。老婆心ながら、ここはお引きになるのが最良かと」
「ッ……!」
竜人帝国は敵には回らないが、味方にもならないと宣言。
これでヴォロスの味方は誰一人としていなくなった。
これ以上、我を通せば魔人国とヴォロスの名を落とすだけだ。
ライバル視している竜人の言葉に従う形になるのは癪だが、ここは大人しく引き下がるしかないだろう。
僕の予想通り、ヴォロスは片手を上げて護衛兵士達を下がらせる。
「……今回の『巨塔の魔女』に三カ国が与した件、魔人国は絶対に忘れない。これ以上の公国会議は不可能と判断し、魔人国は引かせてもらう」
「お待ちください、ヴォロス様」
公国会議中止を宣言し、会場から出ようとするとリリスに呼び止められる。
『これ以上、何があるんだ』と言いたげに眉根を顰めたヴォロスが、敵意をたっぷり込めて振り返った。
リリスは彼の視線に臆することなく告げる。
「今回の公国会議が中止になったのは、非常に残念です。ですが、魔人国、竜人帝国共に、私が規則に則り人種王国女王に就任した件をお忘れ無いようお願いします」
『巨塔の魔女』登場で、リリス女王就任の情報がヴォロスの頭から吹き飛んでいたらしい。
彼女に指摘され、思わず舌打ちしそうになるのを堪えた顔をする。
ヴォロスは改めてリリスへ向き直ると、重い声音で脅しつけた。
「規則を利用し山賊の如く王位を簒奪したその決断を、貴女は必ず後悔することになるでしょう」
「そのような事は絶対にありえないと断言しますわ」
ヴォロスの言葉に、間を置かず返答するリリスの姿は既に人種王国女王の威厳を備えていた。
「その強気がいつまで続くか見物ですね。即位については認めましょう。ですが今後、魔人国は人種王国との国交や諸々について、考えさせて頂きたい」
「――リリス女王陛下、我々、竜人帝国も一度本国に戻り、今後の人種王国との関係性について検討させて頂ければと。今までのように何でも言うことを聞いてくれる訳ではなさそうですし、全く面倒ですな」
魔人国は完全に敵対、竜人帝国も『一度本国に戻り人種王国との関係性を検討したい』と言葉を濁す。
人種王国を食い物にして美味しい思いをしていた2国の心証はよろしくないが、お陰でリリスは念願通り、人種女王として無事に即位することが出来た。
――この時、完全に歴史が動く。
会場に残された3ヶ国も公国会議が中止となったため、いつまでも会場に居る訳にはいかずに各国の屋敷へと戻っていった。
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