22話 シックス公国会議3
「お集まりの皆様、現人種王国国王を廃し、私、リリス自身が人種王国女王として即位することを望みます。どうかこの場で裁決のほど宜しくお願い致します!」
リリスの発言に、その場に居た殆どの者達が驚愕の表情を作る。
魔人国第一王子ヴォロスも、浮かべていた笑みを驚きで凍り付かせてしまう。
彼は驚きから立ち直ると呆れたように溜息を漏らす。
「何を言い出すかと思えば……馬鹿馬鹿しい。リリス姫様、この公国会議は世界の行く末を決める真剣な場なのですよ。その場で酷くつまらない冗談を言うのは、貴女だけではなく自国の品位を落とす行為です」
ヴォロスは冷たい視線を向けつつ、馬鹿な子供を叱るような口調でリリスへと忠告する。
しかし、彼女は一歩も引き下がらず反論した。
「ヴォロス様、なぜ私の発言が冗談だと? 私の記憶が確かならば『人種王国次期国王が公国会議で世代交代を報告し、他5ヶ国から受諾をうけるのが慣例となっている』、又はもう一つの方法として『人種を除く5ヶ国による多数決制』によって人種王国の次期国王を決めることが出来るはずですわよね?」
正確には前者の『人種王国次期国王が公国会議で報告し、他5ヶ国から受諾をうける』のは建前で、後者の『人種を除く5ヶ国による多数決制』が実際におこなわれている人種国王決めだ。
人種は自分達で王すら決めることが出来なかったのである。
リリスの意見に、いよいよヴォロスが『脳味噌が無いのかこの女は』と言いたげな侮蔑的視線を向け出す。
その視線は人種差別的を超えて狂人を見るようなモノだった。
実際、『人種を除く5ヶ国による多数決制』で過半数を取れば、リリスが人種女王の座を得ることが出来る。
だが、この場で突然、『自分が女王の座に着きたい』と叫んでも賛成する種などいないとヴォロスは考えていた。
彼はこれ以上、自身が音頭を取って開いたシックス公国会議にケチを付けるマネをされたく無くて、苛立ちながら反対の声をあげる。
「確かにリリス姫様の仰る通り、他5ヶ国から過半数を得られれば貴女が女王に即位することが出来るでしょう。しかし現国王に不満もなく、廃する理由もありません。さらに今回の会議は『巨塔の魔女』について話し合う場。子供の戯れ言はいい加減にして頂きたい。ここはお嬢ちゃんのお遊び場ではないのだから」
ヴォロスは頭の悪い子供を叱るようにリリスへ釘を刺す。
一方、リリスはヴォロスの不機嫌そうな声音を耳にしても一歩も引かず、毅然と話を進める。
「魔人国は反対ですか。ではエルフ女王国は如何ですか?」
「わ、妾達、え、え、エルフ女王国はげ、現人種国王を廃し、リリス姫様の、じょ、じょ、女王即位を歓迎するわ」
「なぁッ!?」
エルフ女王国が賛成するとは考えておらず、ヴォロスは驚愕して素の声をあげてしまう。
あまりに驚き過ぎて、リーフ7世がびくびくと背後に意識を向けていることにも気付かなかった。
エルフ女王国に続いて、どこか楽しそうにドワーフ王国ダガンが声をあげる。
「ドワーフ王国もリリス姫様の女王即位を歓迎するぞ!」
「……オイ達、獣人連合国も賛成する」
さらにドワーフ王国、獣人連合国まで賛成に回ってしまう。
ヴォロスにとって青天の霹靂とはまさにこの時、この場の事を言うのだろう。
驚き過ぎて息をすることも忘れているヴォロスに変わって、リリスが司会進行を務める。
「エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国は賛成。竜人帝国は……」
「……棄権する」
竜人帝国外交官は全権を渡されてこの場に居るが、賛成、反対どちらも示さず棄権した。
この状況に困惑はあるが、この場の発言等を仔細漏らさず記憶し『自分達が出し抜かれていた不快感はあるが、自国へ情報を持ち帰ることを最優先する』と考えているようだった。
これで趨勢が決定する。
リリスは勝利者らしい笑みを浮かべて宣言する。
「魔人国は反対。エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国は賛成。竜人帝国は棄権。反対1、賛成3、棄権1。以上を以て現人種王国国王を廃し、私、リリスが人種王国女王へ即位することをこの場で宣言させて頂きます」
落ち着いた少女の声音だったが、既に一国の女王としての威厳――いや、覚悟が篭もった重みのある言葉が会場へと広がる。
(完全に思惑通りに進んでいるな。根回しした甲斐があったよ)
僕は心の中で小さく呟く。
リリスの自信に満ちたその声音を聞くだけで、僕達が今、歴史的現場に立ち会っていると実感させられてしまう。
リリス女王によって完全に主役を喰われたヴォロスは、ようやく驚きから立ち直り、怒りを露わに叫び出す。
「馬鹿な! 貴様達何を考えている! この女に与する理由など――!?」
だが、叫ぶ途中で彼はエルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国がリリスを支持する理由に気付く。
殺意を込めた視線をエルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国へと向ける。
「貴様ら! 魔女に唆されたな!」
ヴォロスの指摘に、状況についていけない者達は首を捻るが、流石に魔人国若手エリート達は彼の言いたいことを理解していた。
ヴォロスはエルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国を順番に睨み、殺意を吐き出すように指摘する。
「エルフと獣人は武力で、ドワーフはマジックアイテムか何かしらの魔女の技術を贈ることで、リリス女王即位の約束を取り付けていたのか!」
「唆すなんて失礼ですわ……わたくしはただ各国に対して誠心誠意お話をしただけですのに。もっとも事前に根回ししなければこんな宣言できませんけど。話は始まった時点で全て終わっている――そんなことに今頃ようやく気づくとか、お馬鹿なのですか?」
『くすくすくす』とヴォロスを小馬鹿にしたような笑い声が、エルフ女王国リーフ7世の背後から聞こえてくる。
リーフ7世は背後から響く笑い声に、幼子がお化けを怖がるように怯えていた。
自身を馬鹿にされてプライドを傷つけられたヴォロスが視線を向けるが、それ以上は何も出来なかった。
なぜなら小馬鹿にした笑いを漏らす少女が自己紹介をしたからだ。
「挨拶が遅れて申し訳ございませんわ。わたくし、先程今回の会議の議題にあがりました『巨塔の魔女』ですの。以後、お見知りおきを」
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