21話 シックス公国会議2
「皆様、我々の呼び掛けにお応え頂き、ようこそお越しくださってありがとうございます。突如あらわれた災いのような『巨塔の魔女』について、存分に語らいましょう!」
今回のシックス公国会議の音頭を取った魔人国の第一王子ヴォロスが、『自分こそ今回の主役』と言わんばかりの笑顔で宣言する。
周囲の反応はいまいち微妙だが……。
ヴォロスは気にせず話を振る。
「リリス姫様、随分大きくなられて。昔、お会いした時はまだ幼い子供だったのですが……。うちの若手が噂していましたよ。『人種にしてはお綺麗だ』と」
「……ありがとうございます、ヴォロス様。ヴォロス様は私が子供の頃から変わらぬまま、お洒落で見目麗しくいらっしゃるのですね」
「はははは、リリス姫様にそこまで褒めて頂けるとは! これだけで会議を開いた甲斐があったというものですね!」
リリスはヴォロスの無意識な人種差別を流して、大人の対応を取る。
ちなみにヴォロスもネムムの美貌に驚きで目を見開いていたが、流石に王族であるため、魔人国の若手エリート達のように場を弁えず口説くようなマネはしなかった。
さて、どうしてすぐに会議を始めず、このような雑談をするのか?
シックス公国会議は代表者が1名ずつ席に着き他は外へ出るが、その前の段階で、護衛を連れて内部に入った代表者以外の顔見せをするのが慣例となっている。
次代の者達を紹介し、代表者が代替わりしたとしてもスムーズに数年に一度の会議を継続することを目的としている。
(本来であれば彼の後ろに居る若手達の中にディアブロも居て、彼の経歴を傷つけるための策も用意していたのだけどな……)
僕はヴォロスの背後に居る魔人国若手エリート達の集団に視線を向けつつ、仮面の内側で溜息を漏らす。
その間中も、ヴォロスは今回の主催者として各国に話を振っていた。
エルフ種リーフ7世についてはリリス同様、容姿を褒め、ドワーフ種ダガンにはドワーフ製品について褒める。
リーフ7世は病人のような容貌にも拘わらず褒められても嬉しくなかったのか、短くお礼を告げる。
ダガンも『早くおわらねぇかな』と言いたげな態度で、適当に返事をしていた。
獣人クマ種族長オゾに対しては、
「『巨塔の魔女』によって甚大な被害を受けた事、同情に堪えません。今回の会議で『巨塔の魔女』についてよく話し合い、対策を練っていきましょう」
「『巨塔の魔女』様については怨みはなか。オイ達側に問題があったのだから。何よりもう終わった事。今後は前向きにオイ達は生きていくつもりだ」
「……オゾ様は未来志向がお強いお方なのですね」
自分が望んでいた答えでは無かったヴォロスは、僅かな間をおいて当たり障り無い返答をする。
だが自分の思うようにならない不快感を隠しきれず、ヴォロスが纏う雰囲気から不機嫌さが滲み出た。
一方、オゾはというと……ヴォロスの機嫌が悪くなっていることより、エルフ種代表者リーフ7世の後ろに居る『頭からフードを被った者』にちらちらと怯えた瞳を向けていた。
ヴォロスは気にせず最後の竜人種へ歓迎と言う名の嫌味を飛ばす。
「緊急の公国会議にもかかわらず参加して頂きありがとうございます。緊急とはいえ公国会議に参加できないほどお忙しい皇帝陛下に後ほど言付けをお願いしますね。『お会いしたかった』、『お忙し過ぎて体を壊さぬように』と」
「……ヴォロス第一王子のお言葉、しかと我が皇帝陛下にお伝え致します。魔人国国王の体調不良を知るヴォロス第一王子のご心配の言葉を聞けば、きっと陛下もお喜びになるでしょう」
ヴォロスは言外に『緊急とはいえシックス公国会議をさぼるとか、ありえないんだけど。それとも出席できないほど体を壊しているのかな?』と嫌味を飛ばす。
一方、竜人帝国外交官も『体が悪いのはオマエの所の国王だろうが。しかも未だに次期国王に指名されず第一王子のままとか(笑)』と言外に嫌味を返す。
魔人種は竜人種をライバル視しているため、シックス公国会議で顔を会わせると互いに嫌味を言い合うのが常だった。
会議が始まる前から静かな応酬が開始される。
――だが、今回に限ってその静かな応酬すら意識の彼方に吹き飛ぶ、特大攻撃が放り込まれる訳だが。
一通りの嫌味を言い合うと、ヴォロスが話を進める。
「――では、早速、緊急のシックス公国会議を始めましょう。代表者以外はルールに則り会場から出て行くように」
「ヴォロス様、退出する前によろしいでしょうか?」
代表者以外の退出を促されると、リリスが手を上げてそれを遮る。
人種国王は硬く目を瞑り、ユメ(偽)、僕とネムム、ゴールドは特に反応を示さない。
他人種護衛の兵士達が『姫様は一体何をするつもりだ』と驚きでざわついた。
人種とはいえ王族であるリリスを蔑ろに出来ず、ヴォロスは作った笑みを浮かべて了承する。
「どうぞ、リリス姫様。何か伝え忘れがあるのなら仰ってくださいませ。もし我を今夜の食事に誘うというお話なら、喜んでお受けしますよ。会議の流れによっては忙しくなってお断りしなけれならないかもしれませんがね」
ヴォロスの冗談に魔人国側が笑いを漏らす。
例え本気でヴォロスを夕食に誘っても、いくら王族の姫君とはいえ人種と食事を摂るつもりはないと嫌味を込める。
(……本当に毎回だな。魔人種はいちいち嫌味を挟まないと喋れないのだろうか?)
僕はついそんなことを考えてしまう。
だが当然、リリスの呼び止めた内容はそんなマヌケなものではない。
発言を許可されたリリスが一歩前に出る。
彼女は会場に居る全員の注目が集まっていることを確認してから、高らかに声を上げた。
「お集まりの皆様、我々人種王国は、現人種王国国王を廃し、私、リリス自身が人種王国女王として即位することを望みます。どうかこの場で裁決のほど宜しくお願い致します!」
嫌味合戦など塵芥の如く吹き飛ばす極限級攻撃魔術のような発言が、世界の中心とも言えるシックス公国会議場へと放たれる。
上位者らしい余裕の態度を取っていたヴォロスの表情が凍り付いたのは必然だった。
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