19話 布石の一手
いよいよ3日後、シックス公国会議が開かれる。
(3日後、人種王国の現国王が引きずり下ろされ、リリスが女王に即位したら、色々状況が激変するだろうな……)
3日後の布石――というよりフォローのため僕は『SR、念話』カードを取り出し連絡を取った。
連絡を取った相手は……ドワーフ王国国王ダガンだ。
☆ ☆ ☆
夜、念話を通して約束した通り、ドワーフ王国国王ダガンがシックス公国ドワーフ屋敷寝室で待っていた。
僕はネムムの力を借りて、誰にも出会わず目的地へと到着する。
ダガンが僕とネムムの姿に気付くと、破顔しながら歩み寄ってくる。
「ライト殿、ネムム殿、久しいな! 元気で――まぁお主達なら病気や怪我など負うはずないか! がはははははは!」
「ダガン殿もご壮健そうでなによりです」
「体は丈夫だが、さっさと過去文明遺跡に戻って研究したくて精神的にうずうずしているわい。本当にあの時、会議の席でパーを出した儂自身をぶんなぐりたいわ! もしグーを出していれば、今頃過去文明遺跡の研究を出来ていたというのに!」
禿頭に髭がもじゃもじゃと生え背は低いが胴体、手足、肩周りなどに筋肉ががっちりとついている。
皆が想像する典型的なドワーフ種の姿をしたのがドワーフ王国国王ダガンだ。
ドワーフ種の国家運営は、王族が血筋によって国王として擁立される訳ではない。
ドワーフ王国建国に関わる程古くから続く職人親方達が集まり、国王を押しつけ合っているとか。
ダガンも建国当時から続くマジックアイテム開発・研究を生業にする一族出身である。
彼は次のシックス公国会議が終わるまで、国王を務めなければならないらしい。
今回のシックス公国会議はあくまで緊急におこなわれたモノのため、終わってもまだ数年は国王を続けなければならないと愚痴り出す。
ダガンとしては本気でさっさと国王など辞めて、ドワーフ種が長年秘密裏に隠匿していた過去文明遺跡の研究がしたいというのが嘘偽り無い本音らしい。
一通り愚痴を聞くと、彼がこちらに向き直る。
「悪い悪い。部下達は儂の愚痴を聞き飽きているせいで、相手にしてもらえずついついライト殿達に甘えてしまったわい。ライト殿達が訪ねてきた件については分かっておるから、安心するといい。大丈夫、明後日の人種王国の件は任せておけ。儂とライト殿達の仲だ。過去文明遺跡最下層まで到達してくれた恩も忘れておらぬから、土壇場で裏切るようなマネはせぬよ」
これはダガンの本音だろう。
僕とメイ、ナズナ、メラ、スズと一緒に過去文明遺跡に潜った際、僕達の実力を十分目にしている。
その上で僕達を敵に回すようなおこないをするつもりはないだろう。
だが、今回はその件で訪ねた訳ではない。
「いえ、実はその件とは別件のお願いがあって訪ねたのです」
「別件だと? ふむ……儂に出来ることなら、恩返しのためにも出来る限りの事をするつもりじゃが……とりあえず話を聞かせてもらおうか」
「はい、実は――」
僕は今回、わざわざ時間を作ってもらった一件について話をする。
それはリリスが人種王国国王となった後に必要となる、とある事についての話である。そのために僕はドワーフ国王ダガンに会いに来たのだ。
髭を撫でつつ僕の話を聞き終えたダガンは、難しい苦渋の顔を作った。
「なるほど話は分かったわい。しかし……むぅぅぅ、力になりたいのは本音じゃが、ドワーフ王国も楽ではないから、なかなか厳しいな」
「もちろん、表だって『奈落』が支援する訳にはいきませんが、裏から手を回すことは可能です。金銭的にも諸々の面でも支援しますので、決してドワーフ王国だけに押しつけるつもりはありません」
「……ライト殿にそこまで言われたら、協力しない訳にはいかぬな。任せておけ、なんとか話を通すぞ。ただ儂は構わぬが下を納得させるのにちと時間を使うかも知れぬから、その点だけは留意しておいて欲しい」
「もちろんです。それとこれは個人的なお礼なんですが……」
僕はアイテムボックスから幻想級のマジックアイテムであるネックレスを取り出し差し出す。戦闘に役立つものではなく、研究目的に使えるだろう程度のものではあるが、世間的にはかなり貴重な品だ。
マジックアイテムの研究者であるダガンが目の色を変えて、ネックレスを受け取る。
「これはあくまで僕個人からのお礼としてダガン殿へのプレゼントです。決して袖の下ではありませんから」
「もちろん、分かっておる。やはり『親しき仲にも礼儀あり』。こうして気持ちを形にするのは大切なこと、ライト殿は若いのに礼儀を重んじている人格者だな!」
ダガンがいそいそと袖の下――僕の気持ちであるネックレスを丁寧にしまいこむ。
「ライト殿の要望に関しては儂に任せておけ! 儂の名に懸けてちゃんと移動に間に合うように下の者達を納得させて準備しておくから、安心して欲しい!」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
僕達は互いに笑顔を浮かべつつ、硬い握手を交わした。
ダガンの寝室から抜け出た後、ネムムの先導で移動し、人種屋敷の宛がわれた個室へと戻る。
歩きつつ、エルフ種と獣人種に対しての根回しについて思考した。
(エルフ種、獣人種は僕より面識のあるエリーを通しての方がいいかな? なら後で彼女にお願いして話を通しておいてもらわないとな)
席に座って次に手を回す順番を考えていると、お茶を淹れてくれたネムムが意見する。
「リリス――彼女のためにわざわざライト様がここまでお手を煩わせなくてもよろしいと思うのですが……。第一、彼女達がどうなろうと問題無いと思いますよ?」
「リリス自身、覚悟はしているだろうけど……わざわざ見殺しにするのもなんだからね。『リリスのため』というより、僕自身の精神衛生上のためかな。それに手を煩わせると言っても、たいしたことをやっている訳じゃないから平気だよ」
僕にここまで言われたら何も言えず、ネムムが黙り込む。
口に出して実感できたが、こうして手を回しているのはリリスや他人種のためというより、僕自身の精神的なモノのためだ。
故にリリス自身に感謝してもらうつもりはない。
僕はお茶に口をつける。
「お茶、美味しいよ、ネムム」
「あ、あ、ありがとうございます。ライト様のために思いを込めて淹れました!」
彼女の意見に反対したためフォローのためにもお茶を褒めると、ネムムは嬉しかったのか顔を赤くして返事をした。
ネムムの恋する乙女のような反応が非常に可愛らしく、僕も思わず笑みを零す。
こうして3日後、激変が起きるシックス公国会議への時間が迫っていくのだった。
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