18話 兄
(不味い、不味いですー……。このままではミーは……ッ)
ライト達がシックス公国を観光している頃、魔人国若手エリート達は揃ってテーブルに座り昼食を摂っていた。
既に上位者は食事を終えて、その後、彼らが昼食を摂っている形になる。
食事を共にするのも若手同士交流を深めるための仕事のようなものだ。
そんな食事中、ディアブロは今にも倒れそうなほど青い顔をしていた。
ダーク――恐らく『奈落』から顔の火傷を犠牲に生き残ったライトをどう始末するかで頭を悩ませているのだ。
下手に手を出せば『巨塔の魔女』が動き、放置すればライトの生存が上に知られて自分が失脚してしまう。
打開策を考えるが、何も浮かばなかった。
「……ディアブロ卿、どうした。具合が悪いのなら休んだ方がよいのではないか?」
若手エリート達のリーダー格である魔人国伯爵家次男フリードが声をかける。
いくら互いがライバル同士とはいえ、流石に今のディアブロの様子は心配になる。
また下手に重要な場面で倒れられて、フリード自身のリーダー適性に疑問を抱かれる失敗を避けたいという狙いもある。
フリードの言葉にディアブロがびくりと体を震わせ、慌てて笑顔を取り繕う。
「ご、ご心配頂きありがとうございます、フリード卿ー。さ、最近、どうも夢見が悪いだけで体調は問題ありませんからー」
「なら良いのだが。夢見が悪い原因はあれだな、この前、見たヒューマンのガキの顔が醜すぎたせいだな。あれは本当に酷い」
フリードがダークの火傷顔を思い出し、不機嫌そうに眉根を顰めてワイングラスを手にする。
他若手が追従した。
「確かにあれは酷かったですね。元々醜いヒューマンがもっと醜くなっただけともいえますが」
「ディアブロ卿が呼び止めた結果ですがね……。なぜあんなマネをしたのか、理解に苦しみますが」
「…………」
嫌味にディアブロは沈黙を貫く。
まさか『殺したはずのライトと同じ癖を持った奴が目の前に居たから、顔を確認しておきたかった』と話す訳にもいかない。
嫌味を口にしても反応しないディアブロが面白くないようで、若手達の話題が移る。
「醜いといえば、うちの弟が『ヒューマンの醜い顔が気に食わない』と癇癪を起こしてよく奴隷を嬲り殺すのですよ。気持ちは分かりますが、上に立つ者としていちいち醜いからと言ってヒューマンを殺すのはどうかと思うのですよね。殺したら死ぬまで労働させられませんから」
「然り、我々は将来魔人国を支える者達。ヒューマンがいくら醜いからと言って、いちいち無駄に殺して労働力を低下させるのは問題だな」
「流石フリード卿! うちの弟にもフリード卿の英知が欠片でもあればあのような無駄なことをしないのですが……。末の弟ということで家族一同少々甘やかし過ぎたのでしょうか」
「あはははは、下の弟妹を甘やかすのは理解できるよ。気付くとどうしても妹を甘やかしてしまってね。父上にも『フリード、あまり妹を甘やかすな』と怒られてしまうぐらいだ」
「フリード卿の妹君は大変美しく、聡明で、優れたお方。兄として甘やかしてしまうのはしかたないですよ」
フリード達の笑い声が食堂に響く。
会話内容を無視すれば、本当に和やかな昼食会だった。
だが、唯一ディアブロだけが笑わず、会話内容に目を剥く。
「……皆様、用事を思い出したのでミーはここで失礼しますねー」
「? ディアブロ卿」
あまりに唐突な離席にフリード達の声も無視してディアブロは足早に食堂を出る。
(弟、妹――兄!)
彼は先程の会話で落雷を受けたような衝撃を受け、脳細胞が刺激されある事実を思い出す。
周囲から不興を買わない限界の速度で自室へと戻ると、書類を詰めた鞄の中身をテーブルにぶちまける。
鞄の書類はディアブロが当主を務める自領の書類だ。
兄を追い落とし、陞爵もしたためやるべき書類仕事が山のようにある。
『これも自分が当主となるために必要なこと』と割り切っているため問題は無いのだが、あまりに多いため今回の会議にも持ってきた程だ。
重要な会議のため、こちらを無視して書類仕事に没頭する訳にもいかず苦肉の策レベルだが。
その書類を全てテーブルにぶちまけた。
ディアブロは目を見開き、血眼になって書類を確認する。
「違うー! これも違うー! これも違いますー!」
鬼気とした表情で書類を一枚一枚確認していく。
全部確認し終えるが、見落としがあったかと再度一枚一枚確認したがやはり無かった。
ディアブロが片手で自身の頭を抑える。
「この書類の中には無かったですかー? だがミーはどこかで――ライトの兄の名前を確認したはずですー……」
そう、先程の昼食会の席で『弟、妹、兄』の言葉を聞いて、書類にライトの兄の名前が書かれていた事を思い出したのだ。
理由は不明だが、ライトの兄が自領へと奴隷として運ばれたのを覚えていた。
同姓同名ではなく、ライトの事は国を上げて調査されていたから間違いない。
最終的にライトについては『結論としてちょっと変わったハズレ恩恵を得た一般人』と判断。だが彼の親族に至るまで調査が行われ、彼の兄の名前も情報としてある程度の人数に共有されていた。
ディアブロは記憶に自信があり、ライト兄の名前を覚えており、書類に記された年齢、出身地、大雑把な身長体重などを見て『ライト兄がどうしてミーの領へー?』と疑問を抱いたのを覚えている。
その時は忙しかったので、普通に流した。
「何時だったでしょうか、その書類を見たのはー……。数年は経っていますが、もし生きていたらライトへの交渉材料になりますよねー?」
だが、何時の書類だったか思い出せない。
手元に無いということは自領へ戻らなければならないと言うことだ。
しかし現在は重要な会議中。
もしここで離脱するようなマネをしたら、自身の経歴に傷が付くのは明白だ。
「――何時、ライトが上に自身が生きていることを暴露するか分かりませんー。もし暴露されればミーはお終い。経歴に傷が付くぐらい後でいくらでも挽回できますよー!」
ディアブロは自身を鼓舞して苦渋の選択を決断する。
今は1分1秒が惜しかった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
また最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




