17話 公国魔術師学園への勧誘
ゴールドが交渉した結果、僕達は世界最高峰の魔術学園であるシックス公国魔術師学園の見学許可をもらう。
その代わりにシックス公国魔術師学園を見学する前に、交換条件としてシックス公国魔術師学園の教員兼攻撃魔術研究をしているドマスの前で、実際に戦闘級と戦術級の詠唱破棄を見せることになった。
(ミヤちゃん達の前で戦闘級と戦術級の詠唱破棄をやったことがあるから、隠す事ではないからな。実演するだけで見学できるなら安いものだよな)
実際、ドマスもゴールドから僕が『戦闘級と戦術級の詠唱破棄できる』と知った訳ではない。
噂で『黒の道化師』パーティーのダークが詠唱破棄した』と既に耳にしていたらしい。
実際にどこかで出会ったら実演してもらおうと考えていたらしく、ゴールドとの出会いはドマス的にも渡りに船でしかなかったらしい。
僕達は校舎へと移動し、『外部見学者腕輪』を渡され身に着ける。
『外部見学者腕輪』を身に着けていると、見学者として扱われるのだ。
シックス公国魔術師学園は別に秘密結社ではない。
外部からの視察、見学者など多くの人が尋ねてきていて、案内のマニュアルも存在した。
もちろん誰も彼もが見学出来るわけではないが。
僕達もそのマニュアルに従い『外部見学者腕輪』を身に着けドマスの案内でまず『地下魔術実験場』へと向かう。
地下深く部屋を作り、既存魔術&現行技術でガチガチに固めた魔術実験場だ。
大抵の攻撃魔術ではその壁に傷を付けることは出来ないとか。
シックス公国魔術師学園側に高級住宅地が近いため、外でやると苦情が来るらしい。そのため苦肉の策として地下にこのような施設が作られたらしい。
ちなみに、ここで出来ないような威力が高すぎる攻撃魔術は、シックス公国の外にあるここからかなり離れた実験場でおこなうらしい。
ということで『地下魔術実験場』に移動した僕は、交換条件の攻撃魔術をドマスに見せる。
「ファイアアロー!」
恩恵『無限ガチャ』カード、『R、ファイアアロー』を解放。
「ファイアーウォール!」
次に『SR、ファイアーウォール』で炎の壁を作り出す。
「素晴らしい! 噂は本当だったのか!」
ドマスはキラキラと瞳を輝かせて歓喜の声をあげる。
……さらに何を思ったのか、『ファイアーウォール』の中へと自ら飛び込む。
「ど、ドマスさん!?」
「熱い! 熱いぞ! ちゃんと『ファイアーウォール』レベルの熱量があるぞ!」
どうやら自ら飛び込みダメージを負う事で、見た目だけではなくちゃんと『ファイアーウォール』の適正レベルに到達しているのか確認したかったらしい。
ネムムはドマスの行動にドン引きし、ゴールドが笑い声をあげる。
「わははははは! ドマスよ、気持ちが高ぶるのは分かるが、少々はしゃぎ過ぎだぞ」
「すまない、ゴールド。人種が、ダーク殿が本当に戦術級の詠唱破棄できる事実に興奮し過ぎてしまったよ」
2人は出会ってまだ数分しか経っていないにもかかわらず、10年来の親友のような調子で会話をした。
そんな2人の態度にネムムは再度引いた表情をする。
流石に僕は『ファイアーウォール』をキャンセル。
するとドマスが物足りなさそうに歩み寄ってくる。『ファイアーウォール』の中に飛び込んだにもかかわらず傷はなく、服も焦げひとつ無かった。
一見すると無防備に浴びたようだが、その実、ちゃんと防御していたようだ。
どうやらシックス公国魔術師学園、教員兼攻撃魔術研究者の名は伊達ではないらしい。
彼は感心したように腕を組み頷く。
「人種が戦術級を詠唱破棄したのも驚きだが、ダーク殿の魔術は発動するまで凪いだ湖畔のように静かで認知し辛い。魔術師の理想を体現したような技術力に私は脱帽を禁じ得ないよ」
「ありがとうございます。公国魔術師学園教員殿にそこまで言っていただけて光栄です」
実際は僕自身が魔術をおこなっている訳ではない。
恩恵『無限ガチャ』から出たカードで魔術を行使しているのだから、発動するまで静かなのは当然といえば当然だ。
僕の驕らない殊勝な態度がさらに気に入ったのか、ドマスが熱心に勧誘してくる。
「ダーク殿、人種にも関わらず貴殿の才能は非常に希有なモノだ。本当に公国魔術師学園に入学しないか? 私が推薦するし、ダーク殿ほどの実力があれば他の教員も味方に付けて学費免除の特待生として確実に入学できるぞ」
『人種にも関わらず~』とやや差別的発言が含まれるが、実際、人種の魔術的才能は一般的には非常に低い。
故にドマスも悪気があって口にしているのではないのだ。
むしろ、魔術師としての才能が低い人種を無意識に区別してしまっているということなのだろう。
基準が『魔術』のため、人種でも力を持っていれば受け入れるようだし、そういう意味では素直な性格をしているとも言える。
だからと言って僕が公国魔術学園に入学する訳にはいかない。
僕には復讐や殺されそうになった真実を知ることなど、やるべきことが多いのだ。
正直、公国魔術学園入学は難しい。
とはいえ素直にそれを口にする訳にはいかず、丁寧にお断りする。
「申し訳ありませんドマスさん。お誘い頂き非常に嬉しいのですが、僕には冒険者稼業が合っていますので……。それに現在は人種王族の護衛任務中ですので、流石に投げ出してお話を受けるわけには参りませんから」
「むむむ、勿体ないが……本人にやる気がないのに入学しても、それこそ本人のためにならないからな」
僕の才能は非常に買っているが、教員として本人が望まないことを無理矢理やらせても学習意欲が下がり、逆に才能を潰すと考えているらしい。
ドマスは非常に残念がっていたが、それ以上無理強いはしなかった。
「ダーク殿、気が変わったらいつでも構わぬから声をかけて欲しい。私を含めた公国魔術学園は歓迎するので」
「ありがとうございます」
「本当に気が変わったらいつでも訪ねて来てくれ。歓迎するから。……しかしダーク殿といい、聖女ミヤといい人種の中でも注目すべき魔術師が台頭してきているな。もしかしたら魔術は新しいステージへと向かっているのかもしれないな」
「聖女ミヤですか?」
ドマスの口から意外な人物の名前が出て驚く。
彼は隠すことなく素直に答える。
「私の趣味は実力ある魔術師の情報を収集することだが、昨今は戦術級詠唱破棄のダーク殿だけではなく、あらゆる傷を癒す聖女ミヤという名の人種魔術師も名前を上げているのだよ。是非一度会ってどのような魔術を使うか見てみたいものだ」
ドマスがその場面を想像し、楽しげに頷き出す。
本当に魔術が好きらしいな……。
(しかし実力ある魔術師の情報を集めるのが趣味とはいえ……ミヤちゃんの名前がこんな所まで届いているなんて驚きだな)
だがこれはエリオ、ギムラ、ワーディの夢――『ミヤを公国の魔術師学園に通わせる』を叶えるチャンスだ。
僕はここぞとばかりにミヤを推す。
「僕達『黒の道化師』パーティーもミヤちゃんと顔を会わせた事がありますよ。非常に良い娘で、魔術の腕も確かでした」
「なんと! ダーク殿がそこまで褒める逸材なのか。むむむ……情報では公国からそこまで距離が離れていない村に滞在中だと言うし……近いうちに行くべきか?」
「是非、一度訪ねることをお勧めしますよ。きっとドマスさんを後悔させないと思います」
迷うドマスの背中を押す。
シックス公国魔術学園見学そっちのけで、僕はミヤのためにも彼女の素晴らしさをドマスに伝え続けたのだった。
☆ ☆ ☆
――ライトがシックス公国魔術学園教員にミヤを推しまくっている頃。
「……くちゅん!」
「なんだミヤ、風邪か?」
時間を見繕い兄妹2人で畑を見ている最中、妹ミヤがくしゃみをする。
彼女は両手で体を擦りつつ、困惑した。
「ううん、風邪じゃない。風邪じゃないんだけど……なんかこう背筋が寒くなったっていうか……。クオーネちゃんのように善意なんだけど、逆にこっちが酷い目に遭いそうになっているというか……そんな感じがしたの」
妹の言い分が分からない兄エリオが首を傾げる。
ミヤは自身の直感が正しかったと知るまで若干の時間を要するのだった。
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