15話 『SSR 千里眼』の有効性
「『SSR 千里眼』は僕が想像していたより便利だな。欲を言えば声も聞こえるといいんだけど……」
ディアブロと接触した後に、中心会議場から出て人種屋敷に戻ると、僕達は自室へと引き上げた。
僕は『SSR 千里眼』でディアブロを観察。
彼は自室へと戻りベッドの端に座ると、きっちり整えていた髪を掻きむしる。
目は充血し、指先は震え、体全体で『絶望しています』と表現しているようだった。
その姿を目にして僕は、心底楽しくて笑み以外の表情を作ることが出来なくなってしまう。
途中、ディアブロが立ち上がり従者を呼びつける。
音声は聞こえてこないが、視点を動かすと唇の動きからおおよそ『道化師仮面を被った者の情報をとにかく集めろ』と指示を出しているようだ。
ディアブロの従者が部屋を出ると、彼は再びベッド端に座る。内心の不安を誤魔化すように貧乏揺すりを始めた。
彼の苦しむ様子は心の底から楽しいが、自重しないといつまでも見入ってしまう。
この辺りで止めておこう。
『SSR 千里眼』の効果を消すと、ネムムが嬉しそうにニコニコ笑って僕を見守っていた。
僕はソファーに座り、彼女はその横に腰掛けている。
テーブルの前にはネムムが淹れてくれたお茶が並ぶ。
「ネムム、どうかした?」
「ダーク様が嬉しそうだったのが、自分としても非常に嬉しかったのです」
「……ネムムよ、気持ちは理解できるが、あまりじろじろ見るのは主に失礼だぞ」
1人用ソファーに鎧姿のまま座るゴールドが注意を飛ばす。
ゴールドの指摘は彼女にとって鬱陶しいが、ネムム的にも『不敬だったかも?』と気付きあわあわと慌てて謝罪してくる。
「も、申し訳ございません、ダーク様! ご不快な思いをさせてしまって!」
「気にしてないから大丈夫だよ」
本当に気にしていないので、青い顔で頭を下げるネムムを笑顔で宥める。
『奈落』最下層に居る時は、考え事をしている際、当番の妖精メイドから視線を向けられているためもう慣れてしまった面もあるからだ。
ネムムが僕の許しを得て安堵の溜息を漏らしている間に、ゴールドが空気を変えるため話題を振ってくる。
「それで主よ、あの忘八の畜生をこれからどうするつもりなのだ? 今なら容易に近づき『奈落』最下層に連れ去ることも可能ではないか?」
「ダーク様! その重要な任務は是非、このネムムにお任せください!」
ゴールドの話を聞いて、名誉挽回と言いたげな勢いでネムムが声をあげる。
僕は彼らの提案に首を振って否定する。
「今すぐディアブロに手を出すつもりはないよ。むしろ、単純に『奈落』最下層に連れ去るだけなんてつまらないじゃないか」
僕は仮面の下で無垢な笑みを浮かべた。
「ディアブロは、今回のシックス公国会議に若手エリートとして参加している。つまり彼らが将来の魔人国を担うということだ。しかもあまり若手同士の仲は良くないらしい」
もし仲が良ければ、ネムムに声をかけたフリードの失敗を失笑せず、怒りを表に出していただろう。
「国の威信がかかった会議という大切な舞台で、ディアブロがミスをしたら彼らは見逃すだろうか? むしろライバルのミスを喜々としてあげつらうだろうね。その状況にプライドの高いディアブロはどう思うだろうね?」
当然、今回の会議でミスを誘発させて、経歴に傷を付けるだけではない。
「最終的にはディアブロが望んだ将来の栄光、地位、名誉、周囲からの羨望も全て奪う。当然、彼の家も潰す。僕が味わった絶望に少しでも到達できるように、彼の大切なモノ全てを徹底的に潰してあげないと」
僕は復讐劇を想像してうっとりとした声音で漏らす。
そのためにもまずは、彼の輝かしいエリートコースの将来を潰してあげないと。
「だが主よ、ミスをさせるというが一体どうするつもりなのだ?」
ゴールドの疑問に僕は笑顔で答える。
「エリー、つまり『巨塔の魔女』を使ってミスを誘発させようと思うんだ。例えば魔人国が危険視する『巨塔の魔女』とディアブロが繋がりがあるように周りに見せたら、彼はどんな苦しむ表情をするんだろうね? ふふふふ……今から楽しみだな。彼にはしっかりと苦しんでもらわないと!」
そう、せめて僕の絶望の数十分の一ぐらいは苦しんで欲しい。
苦しませずにすぐに終わらせるなど、絶対にありえない。
「そのためにも早速エリーと連絡を取って色々指示を出さないとね」
僕は恩恵『無限ガチャ』カード『SR、念話』を取り出し、エリーへと連絡を取る。
彼女と相談をしつつ、どうやって致命的なミスをディアブロにさせるか話し合った。
☆ ☆ ☆
――数日後、簡単ながら『黒の道化師』パーティーの情報がディアブロの元へ集まる。
彼は情報が記された書類をテーブルに広げて椅子に座り、頭を抱えた。
『黒の道化師』パーティーは、道化師の仮面の少年に黄金騎士、妖精姫と呼ばれる3名で構成されている。
道化師の仮面を被った少年が、黄金の甲冑を纏った騎士とお伽話に出てくる『妖精の御姫様』のように美しい女性を従えている。
少年の道化師の仮面と黒い髪にフードから、彼らの事を『黒の道化師』といつの間にか呼ぶようになったようだ。
冒険者A級で有名なことや彼らが行動を隠している様子もないため、情報は楽に入手可能だった。
さらに問題は……。
『黒の道化師』パーティーが『巨塔街』に出入りし、『獣人種大虐殺』で人種救助に参加したためか、『巨塔の魔女』の覚えがめでたいらしい。
特に仮面の少年がお気に入りらしく、『巨塔の魔女』が直接声をかけたこともあるという報告もあった。
「つまり『黒の道化師』、ライトに手を出したら最悪、『巨塔の魔女』が動く可能性があるということですねー……」
エルフ女王国を落とし、獣人種を大量虐殺した『巨塔の魔女』がだ。
「うぷっ……ッ」
ディアブロがあまりに絶望的状況に気分を悪くし吐き気を催す。
手で口を押さえて吐くのは我慢できたが、気分は非常に悪いままだ。
このままライトを放置すれば恥辱の死が待つ。
だがライトに手を出しても『巨塔の魔女』が動けば祖国を巻き込み、『人種絶対独立主義』を掲げる魔女に大義名分を与えて全面戦争を引き起こし、最終的な落としどころとして自分の首を魔人国が差し出す可能性すらあった。
「あ、ありえないです……こんな事あってはならないですよー!」
ディアブロがあまりに絶望的状況に頭を抱えて、その場で蹲る。
涙がぼろぼろ溢れて落ち、提出された書類へと落ち、濡らす。
「ようやく苦労して本来の正道に戻ったミーが、どうしてこんな目に遭わなければならないのですかー! ヒューマンなど虫のようにわんさかいるのに、どうしてライトはミーのためにそのまま死んでいてくれなかったのですー!」
ぼろぼろと涙を止められず零し続ける。
ディアブロは下手に動けない状況に、ライトの望むとおり苦悶し続けたのだった。
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