14話 ディアブロの苦悩
(あの仮面の少年ダークはやはりミーの勘違いで、ライトではなかったのですかー?)
シックス公国、中心会議場の魔人国屋敷。
魔人国の将来を背負って立つ若手エリートのため、ディアブロ達は個室を与えられていた。
ディアブロはその個室ベッドの端に座りながら自問自答する。
彼は自身の考えを即座に否定する。
(いえ! あれは絶対にライトですー!)
ディアブロは確信を持って断言した。
声は仮面のせいかくぐもって違っていたが、喋り方や歩き方、扉を開く癖などどう考えてもライト本人だった。
(恐らくあの火傷は『奈落』から抜け出す際、負った傷なのでしょうねー。もしかしたら声が変わって聞こえるのも、火傷のように『奈落』から抜け出す際、負った傷が原因なのかもしれないですねー)
ディアブロが推理する。
「もしミーの考えが正しかったならー……ッ」
ディアブロは頭を抱え、丁寧に整えられていた髪をくしゃくしゃと乱す。
彼の顔は断崖絶壁に追いつめられたように醜く歪んだ。
「不味い、不味いですー。もしライトが生きていたと知られたら、ミーは破滅ですよー!」
嘘でも冗談でもなく、ライトが『生きている』と上に知られたらディアブロは破滅する。
――元々、ディアブロは魔人国男爵家の次男として産まれた。
実兄との仲は良くなかった。
自分が家に残るために兄は邪魔な存在だった。血が繋がっている分、他人より憎い相手だったかもしれない。
兄もディアブロを実弟ではなく、自分が家督を継ぐのに邪魔な存在だと認識し毛嫌いしていた。
ディアブロは色々と裏で動き、なんとか兄を排除しようとしたが失敗。
兄に子供が出来た事で、家にとってスペアであったディアブロは兄の強権によってその権限を剥奪されてしまう。
貴族だったディアブロは、見下していた一般市民へと堕ちてしまったのだ。
一般市民に堕ちたが生きて行くには金銭を得なければならない。
魔人種は総じてプライドが高い。
ディアブロは元貴族だけあり余計プライドは高いが、生きていくために冒険者として自身の生活をスタートさせる。
元貴族だけあり、魔術、剣術、体術、知識などの習得度が高く、さして苦労なく冒険者としての級を上げることが出来た。
しかし、ディアブロにとって一般市民でごろつきのような存在である冒険者級がいくら上がろうが、何の喜びにもならない。
むしろ『どうしてこれだけ優秀なミーが冒険者などしなければならないのですかー!』と怒りさえ湧いていた。
しかしディアブロに転機が訪れる。
『ますたー』調査依頼が舞い込んできたのだ。
『ますたー』の存在など彼にはどうでもよかったが、報酬に目が眩み即決した。
結果的に『ますたー』を発見することは出来なかったが、ライトというハズレ『ますたー』候補の処分を無事に終えることが出来た。
お陰で『ますたー』を発見した場合の報酬である『ディアブロ本人に対して領と爵位を与える』という事は得られなかったが、元実家が陞爵し男爵から子爵へ。
さらに実兄達を追い出し、ディアブロが当主へと据えられた。
魔人国国王が陞爵を理由にディアブロを当主としてねじ込んだのだ。
本来、貴族の跡継ぎ争いに介入するなど言語道断だが、それだけハズレとはいえ『ますたー』候補の始末の功績が大きかったのだろう。
現在、実兄とその息子は嫁の実家に身を寄せているらしい。
実家で威張り散らしていた兄が、嫁実家で借りてきた猫のように縮こまって生活している姿を想像するだけで、ディアブロの心は躍った。
その光景を思い浮かべるだけで、飲むワインがいつもの100倍以上美味しく感じるほどだ。
しかし、ライトが生きているのなら話は変わってくる。
任務失敗が上に知られたら当然、陞爵は取り消され兄が再び当主となる。
そうなったら、『実弟だから』と一般人堕ち程度で放っていたディアブロを、今度は二度と邪魔されないように殺害しに来るだろう。
金に糸目を付けず、プロの暗殺者を雇ってでも確実に殺しに来る。
同じ血を引く兄弟故に、ディアブロは確信を持って断言できた。
「そうなる前に先に兄を殺すべきですかねー?」
だが、それも難しい。
兄は自分と同じく自身を鍛えている実力派だ。
また嫁実家で事件を起こせば、あちらのメンツが潰れて争いに発展する可能性が非常に高い。
そうなったら国も黙っておらず、追求され、『実兄暗殺』という醜聞が表沙汰になってしまう。
「クソ! せめて兄だけでも一般人になって居れば、問答無用で殺害できたのにですー!」
もしかしたら兄はその可能性を予想して、プライドが傷ついても嫁実家に身を寄せたのかもしれない。
『自身の兄ならやりかねない』とディアブロが臍を噛む。
「本当にあのクソ兄は忌々しいですねー! どうしてミーが先に産まれなかったかー! 先に産まれてさえいればこんな目にも、苦労もせず全て丸く収まっていたのに……どうしてー! ライトもライトですー! どうして死んでいてくれなかったんですかー! ヒューマンなんて死んでも後からぼこぼこ産まれてくる虫のような存在ではないですかー! どうしてミーのために死んでいてくれなかったんですかぁー!」
血が出そうなほど奥歯を噛みしめてしまう。
だが悔しがってもいられなかった。
このままでは本当に自分は負け犬として殺されかねない!
ディアブロは青白い顔で、
「とにかくあの『黒の道化師』パーティー、特にリーダーの道化師仮面を被った者の情報を集めさせましょうー! 情報を集めてより詳しく現状を把握しなければー」
それが自分の唯一生き残る道だと言い聞かせつつ、ディアブロはぐしゃぐしゃになった髪も整えず、割り当てられた個室から出て行ってしまった。
ディアブロは最後まで気付くことが出来なかったが、苦しむ彼を遠くから監視している存在が居た。
ダーク改めライトだ。
彼は苦悩し悶えるディアブロを目にして魂の奥底から楽しげな笑みを浮かべる。
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