13話 疑惑
「そ、そこの仮面! ちょ、ちょっと待ちなさいーッ!」
魔人国子爵家当主であるディアブロが、声をあげて仮面を被った少年を引き留める。
彼の行動に、同僚である魔人種若手エリート達が目を開いて驚く。
突然仮面の少年を呼び止めるディアブロの意味不明な行動に、戸惑っているのだ。
ディアブロは同僚の驚きなど一切気にせず、黒髪にフード付き旅マント、道化師の仮面を被った少年を食い入るように見つめる。
(い、今の癖はミーが昔見た、女性をエスコートする際に扉の開け方がなっていなかったライトの悪癖そっくり――否、そのものですー!)
記憶力には自信があり、『種族の集い』時代の事もはっきりと覚えていた。
『種族の集い』時代、ライトにマナーを教えた際、扉の開け方がスマートではなかったので、ディアブロが修正させたのだ。
テーブルマナーは予想より楽に学ばせることが出来たが、なぜか扉を開く癖だけはなかなか修正できなかったことを思い出す。
その修正に苦労した癖と同じものを持つ人種少年が、目の前に居るのだ。
しかも約3年前殺したライト同様の黒髪、背丈で。
(馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! ありえませんよー! ヒューマンのライトは『奈落』で死んだはずー! 生きているなんてありませんよー!)
『しかし』という疑念がディアブロの脳裏を過ぎる。
約3年前、『奈落』でライトは殺されることが決定し、彼はサーシャに足を射抜かれて転倒。這いずって逃げた際、転移陣が発動し、ダンジョン内部のどこかへと姿を消した。
ライトが姿を消した後、ディアブロ達は『奈落』内部を自分達の限界まで探査したが、彼の姿を発見することが出来なかった。
結果、『人種が怪我を負った状態で奈落にいつまでも生存など出来ない。モンスターに殺されている筈。故にライトは死亡した』と上に報告。
上もその報告に納得して、元『種族の集い』メンバーはそれぞれ褒美を与えられたのだ。
ライトが死亡したから与えられた褒美――もし彼が生きていたならば、それが取り消されるのは当然。むしろ虚偽の報告をしたということで、厳罰が下される可能性が高い。そうなれば、彼が魔人種の中で得てきた地位は当然消え去る。
(もし運悪く『奈落』でライトが生き残っていたとしたら、ミーはおしまいだ……ッ!)
蛇のように細かった目を限界まで広げ、焦燥感に駆られてしまう。
声を掛けられた仮面の少年がゆっくりと振り返る。
彼は小首を傾げ、仮面のせいでくぐもった声音を漏らす。
「なんでしょうか?」
昔、覚えているライトの声音と違う気がするが……。
仮面越しでくぐもっているため、早計な判断は出来ない。
「ユーの名前は何ですかー? それとその仮面を外して素顔を晒しなさいねー!」
「あ、あの私の護衛のダークさんが何か粗相をしてしまったでしょうか? でしたら雇い主として私が謝罪いたします。なのでどうかご容赦を」
リリスが驚きつつ、割って入ってライトを庇う。
彼女はライトとディアブロの確執を知っているが、この場でライトが正体をばらすと聞いていないため、雇い主として間に入って守ろうとしているのだ。
ディアブロはリリスの登場に声を飲み込む。
相手は見下しているヒューマンとはいえ、王族。
ライバルである同僚達の前で、リリスを感情的に排除した場合、ディアブロの汚点になる。
ライバル達の前でわざわざ彼自身の足を引っ張る材料を提供してやる理由はない。
彼は一度、軽く呼吸をして気持ちを整える。
「……シックス公国会議には現在、各国のトップが集まっていますー。その中で怪しい仮面を着けた者が居れば、その正体を確認しておきたいと思うのは自然な事だとミーは思いますよー」
「ならご安心を。先程もお伝えした通り、彼らは冒険者ギルドが認めたA級の『黒の道化師』パーティーです。怪しい者達ではありませんよ」
リリスの言葉に『はい、そうですか』と引き下がる訳にはいかない。
ディアブロは踏み込む。
「冒険者ギルドや姫様を疑う訳ではありませんが、念のため顔を確認させて頂いてもよろしいですかー? あくまで念のためですし、後ろめたい事がなければ仮面を取ってもいいですよねー?」
「……もちろん構いませんが」
仮面少年が言いにくそうに仮面を撫でつつ告げる。
「僕は火事で酷い火傷を負ったので仮面で顔を隠しているんです。正直、人様に見せるようなモノではないのですが、それでもいいんですか? 耐性の無い方が見るのは少々刺激が強いのですが……」
「構いませんよー。ミーはこう見えて過去色々修羅場を潜っていますから、耐性はあるのでー」
ディアブロは鎌を掛けるが、仮面を被っているせいで表情が読めず、態度も自然で怪しいところは無い。
ディアブロの言葉に、フリードを含めた他魔人種達が仮面を取るように囃し立てる。
どうやらダークの『耐性の無い方が見るのは少々刺激が強いのですが』という発言が彼ら若手にとって度胸試し的な挑発になってしまったようだ。
ディアブロの必死さとは正反対に、一種のエンターテイメントとしてダークに仮面を取るよう囃し立ててくる。
ここまで騒がれたらダークも拒否する訳にはいかないという雰囲気が出来上がる。
「分かりました。本当に酷いので覚悟してくださいね?」
「姫様、失礼します」
偽ユメがリリスの視界を遮るように前に立つ。
体で隠すには身長が足りないため、彼女は手で目元を遮った。
ダークはそれを確認した後、両手を仮面に伸ばす。
『……ッ!?』
面白半分に囃し立てていた魔人種若手達が息を飲む。
一部など顔色が悪くなり今にも倒れそうになる。
その姿を見てゴールドは内心で『これがエリートとか、モヤシ過ぎるではないか(笑)』と彼らの軟弱さを馬鹿にした。
元冒険者でグロに耐性があるディアブロでさえ、ダークの火傷は酷すぎて視線を逸らすレベルだ。
温室育ちの若手達を非難するのはやや可哀相なおこないではある。
――実際は『SSR、道化師の仮面』の力、幻影で作った火傷で、ダークの本来の顔には傷一つついていないが。
ダークは『もう良いだろう』と言いたげに仮面を被り直す。
「……そちらが望んだとは言え、お見苦しいものをお見せしてしまい失礼しました。では我々はこれで。姫様」
ダークが大人の対応で一礼すると、リリスを促し会議場を後にする。
火傷のショックから立ち直っていない魔人種若手達は誰も止めることが出来ず、ダーク達を見送る。
唯一、ディアブロだけが、頭を動かし考察していた。
(火傷で顔を判別することが出来ませんでしたが、あれはやはり別人ー? ですが、もしあの火傷が『奈落』から生きて脱出できた代償だとしたら――)
ディアブロ含めて、魔人種若手達がまともに動き出すまでもう暫く時間を必要とした。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
昨日の後書きにコメント&ご心配頂きまして誠にありがとうございます!
歯ブラシや歯間ブラシ、歯の隙間を掃除する糸ようじも2種類使って磨いて注意しているんですけどねー。
虫歯はなるときはなるものなんですかね……。歯質なのか、もっと別の良い方法を探すべきか……。
では引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!




