4話 護衛試験
「お、お兄様! 何をなさっているのですか!?」
訓練場にリリスが青い顔で姿を現す。
僕の本当の立場を知る彼女の顔には『ライトさんを跪かせるとか!? 勘気に触れたら物理的に人種王国が消えてしまうじゃないですか!』と書いてあった。
(そこまで焦らなくても、僕はこの程度で激怒したりはしないんだけどな……)
一方、リリスの兄であるクローは渋い顔で視線を逸らした。
リリスは最初、僕達に声をかけてから、兄へと向き直る。
「皆様、お立ちください。いっこうに私の元にいらっしゃらないので心配していたら、まさかこんな場所に連れて来られていたなんて……お兄様、ちゃんと説明してくださるのですよね?」
立ち上がった僕達を庇うようにリリスが移動し、兄を見つめる。
クローは最初こそ渋い顔をしていたが、開き直るようにリリスに向き直った。
「オマエの護衛候補を勝手に連れ出したことは謝罪しよう……だが、兄として彼らの腕を心配するのは当然だろ? 可愛い妹の護衛が本当に務まるか試験をするために訓練所に来てもらったのだよ」
「試験など必要ありません。彼らは冒険者A級ですよ。お兄様は冒険者ギルドのランク審査にケチをおつけになるつもりですか?」
「……ケチをつけるつもりなんて無いさ。だが、実際、この目で彼らの実力を確認しない限り護衛を務められるかどうか心配するのは当然の感情ではないか? そしてもし実力が足りなかった場合は、お帰り願うつもりだ」
(なるほど……クローの狙いはリリスが来る前に、圧倒的不利な試験を受けさせて『実力不足で護衛に不適格だ』と評価して追い返す、ということだったのか。浅はかだな)
しかし、途中でネムムの美貌に負けて、ナンパ。
当初の目的を忘れてリリスの介入を許してしまったらしい。
大体、多少不利な条件でどうこうなるほど僕らは弱くない。
もっと何か別の狙いがあるのかと勘違いして、ずっとクローの思惑を考察していたが、この王子は実際はただの考えなしだったという訳だ。
僕が呆れている間も、兄妹の口論が続く。
「彼らの護衛の件はお父様からご了承を得ています! お兄様に口出しされる謂われはございません!」
「兄が妹を心配するのに謂われも何もないだろ? それとも、彼らはボクの科す試験に合格できないとリリスが心配するほど弱いのかい?」
「そんなことはありえません! 第一、彼らの実力は冒険者ギルドがランクという形で保証しているじゃありませんか!」
「先程も言ったが冒険者ギルドのランク審査にケチをつもりはないよ。ただ兄として――」
2人の口論が感情的になり、話題が繰り返しになる。
あくまでクローはシックス公国会議に『巨塔街』に出入りしている僕達を向かわせたくないらしい。
このままでは話が進まないので、片手を上げ許可を求めた。
「進言、よろしいでしょうか?」
「ら――ダークさん! 大丈夫です。私が兄を説得しますので!」
「ですがこのままでは話が進まないかと。この後、リリス様の安全に繋がる護衛に関する摺り合わせもあるため、クロー様がご安心頂けるよう試験とやらを受けた方が話が早いかと思いますが?」
「……チッ!」
「お兄様?」
僕が提案すると、クローはあからさまに機嫌悪く舌打ちする。
ネムムが魂まで捧げている僕が自分に意見すること自体、気に食わないらしい。よほどクローはネムムを気に入ったようだ。
兄の態度に、状況を把握し切れていないリリスが困惑した態度を取る。
だが誰も説明しないため、リリスは僕とクローを何度も繰り返し見た。
話を進めるため、僕は再度リリスを促す。
「リリス様、ご決断を」
「ダークさん……分かりました。試験を受ける許可を出します」
「ありがとう、リリス。これで、妹であるお前の安全を確認することが出来るよ」
「…………」
クローが爽やかな笑顔を作る一方で、リリスは苦みきった表情を作った。
とはいえ僕の提案した通り、時間は有限。
さっさと護衛の摺り合わせをしたいため、リリスは話を進めた。
「私は早くダークさん達と護衛に関するお話し合いがしたいのです。なので試験と言っても、あまり時間がかかるようなモノでしたら拒否させて頂きますからね」
「分かっている。ちゃんと短時間かつ、誰の目にも実力が分かる試験をやるよ。だからこの訓練場にまでわざわざ来てもらったんだ」
「……お兄様、ダークさん達に何をさせるつもりですか?」
リリスが目を細め、実兄に尋ねる。
彼は得意顔で告げた。
「本当にリリスを護衛するだけの実力があるかどうか、うちの兵士達と模擬戦をしてもらうつもりだ。これなら短時間かつ、誰の目にも実力が分かる試験だろ?」
クローの背後に兵士達が居たのも、護衛だけではなく試験のために連れて来ていたらしい。
彼の提案にゴールド、ネムムが同意する。
「確かに分かり易い試験ではあるな」
「分かり易いのもありますが、色々鬱憤が溜まっているのでストレスを発散させるのにちょうど良いですね」
ゴールドは顎を撫でつつ頷き、ネムムは怪しい笑みを浮かべつつ指を鳴らす。
(ゴールドはともかく、ネムムを戦わせたら無駄に被害が出そうだな……。クローにちょっかいをかけられて色々鬱憤が溜まっているのは理解出来るけど、無駄に人的被害を出しても話が拗れるから止めないと)
もし死人など出したら、多少面倒な事になる。
そうなる前にネムムには釘を刺しておかないと。
僕の心配を余所に、クローが得意気に笑みを深める。
「賛同してくれるのは感謝するが、黄金の甲冑を着た君とネムムを参加させるつもりはないよ。試験の相手はそこの子供だけだ」
「……僕だけ?」
意外な提案に思わず返答してしまう。
これに対してリリスが待ったをかけた。
「お待ちください、お兄様! どうしてダークさんだけなのですか!? 彼ら『黒の道化師』パーティー、つまり3人全員が私の護衛に付くのですよ? にも関わらずダークさんだけ試験をするなど認められません!」
「何を言う。むしろ、青年の彼とネムムはともかく、彼のような子供が護衛に付くことこそ不安視するべきだろ。護衛は実力だけではない、見た目も重要だ。彼のような子供がリリスの護衛についたら、周囲から侮られて襲撃を受かるかもしれない。さらに実力が不足していたら、とても大切な妹を任せることなど出来る筈がないだろ?」
「お兄様は勘違いしていらっしゃるようですが、『黒の道化師』パーティーで一番お強い方はダークさんですよ。ゴールドさんとネムムさんが問題無いのならダークさんも必要ないではありませんか」
「はん! 子供が一番強いなど! リリス、試験を避けるため嘘を吐くにも、もっとマシな嘘を吐いてくれ。これでは騙されてやることもできないじゃないか!」
クローが馬鹿にしたように笑いつつ、背後を振り返る。
背後に居る人種兵士達も、彼に従い馬鹿にした忍び笑いを漏らす。
彼らの反応も分からなくはない。
何も知らなければ、成人男性のゴールドと成人女性のネムムが『黒の道化師』パーティー中、最も強い者だと考えるだろう。
実際はゴールドとネムムを含めたこの場に居る全員と同時に戦っても、僕の方が強いのだが……。
リリスは兄クロー達の誤解をとけず頭を抱えてしまう。
当然、僕を軽く見るクローの態度に、ネムムだけではなくゴールドまで不快感を露わにする。
問題が起きるより先に、僕は話をさっさと進めるため、声をあげる。
「了解致しました。では、早速試験を始めましょう。僕は誰と戦えばよろしいのですか?」
「だ、ダークさん!?」
「ふん、殊勝な心構えだ。では早速、試験を始めよう。付いて来い」
クローが馬鹿にしたように笑い、顎だけで僕を促し歩き出す。
僕は彼の後に続いて訓練所中央へと移動した。
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