23話 『冒険者殺し』狩り1
今日は23話を昼12時、24話を17時にアップする予定です(本話は23話)。
「――なるほど、フードを被ったエルフ種が『冒険者殺し』の犯人という訳か」
僕達が宿泊している宿屋スイートルームに突然、火傷薬をプレゼントしてくれた赤髪のミヤが空中から姿を現し、床に倒れた。
彼女の左腕に結ばれたミサンガが同時にぷつりと切れた。
彼女が部屋に突然、姿を現した原因はどう考えても火傷薬のお礼として僕が手渡した『SSR、祈りのミサンガ』が原因だろう。
ミヤの衣服汚れ、足の傷から『何か緊急事態が起きた』とすぐに気付く。
汚れと傷を恩恵『洗浄』カードで落とし、癒した後、同じガチャカード『SR、催眠』で彼女から詳しく事情を聞く。
『SR、催眠』は、相手に催眠をかけて意のままに操ったり、情報を引き出すことが出来るカードだ。しかし、レベルが高い相手には効き辛く、催眠中はぼんやりとした表情のためそれを見ている第三者からは一目で異常を察知されてしまう。決して万能ではない。
だが低レベルのミヤから情報を聞き出すのには非常に有効なため、使用したのだ。
ソファーに寝かされた彼女から何があったか情報を引き出し終える。
『僕様』と自分を呼ぶフードを被ったエルフ種が、冒険者を襲撃し殺していた。
彼女達もフードを被ったエルフ種に襲われ、兄達は瀕死、彼女は必死に情報を伝えるため逃げていた。
しかし結局、追いつかれ殺されそうになり――そこで『SSR、祈りのミサンガ』が発動し、彼女はこの場に先程転移し、助かった。
兄達はその後どうなったのか分からない。
彼女から必要な情報を抜き取ると、『SR、睡眠』のカードで眠らせる。
『SR、睡眠』もレベルが高い相手には効き辛く、特別使い勝手の良いカードではない。
だが、これで24時間目を覚ますことはない。
僕は一通り彼女から話を聞き終えると、軽く溜息を漏らす。
「僕達の部屋にミヤちゃんが姿を現したのも確実に『SSR、祈りのミサンガ』の力だろうね。命の危機中に僕へ『情報を伝えないと』と強く願ったのが原因だろうな。まさかこんな形で『SSR、祈りのミサンガ』の効果が判明するとは……」
『奈落』地下でも『SSR、祈りのミサンガ』の性能実験はおこなったが、どれも不発だった。
鑑定による説明も『強い願いによって小さな奇跡を起こすアイテム』という微妙なモノだった。
この『強い願い』とは、ミヤの話から推測する限りそれこそ『命の危険が迫っているレベル』で強く願わないといけないらしい。
使い勝手が悪いにもほどがあるだろう……。
だが、その力は非常に強い。
僕に情報を伝えたいがために、一度も彼女達に伝えていない宿に空間を飛び越えて姿を現したのだ。
伊達にガチャランクがSSRで、小さいとは言え『奇跡を起こす』と説明文に書かれているだけのことはある。
「それで主よ、これからどうする?」
「……それは決まっている。元々ランクアップのために『冒険者殺し』を探そうとしていたところに、手がかりがもたらされた訳だからね」
僕達の冒険者ランクは1人前だが、現状これ以上のランクアップは難しい。
別に冒険者ギルドが差別から上げない訳ではなく、僕達は冒険者登録されてからまだ日が浅くこれ以上ランクを上げるのが難しいのだ。
そんな僕達がランクを上げる条件として1年以上冒険者を続けるか、後は『周囲が認めるような功績をあげる』必要があるらしい。
今回懸賞金が懸けられるであろう『冒険者殺し』は、その功績に適していた。
「それに……エリオやギムラ、ワーディはこんな理不尽な目に遭っていい人達じゃない。彼らと顔を合わせたのは片手で数えられるほどで、会話だってそこまで多くはなかった。けどエリオ達は人種差別が酷いこの世界で、腐らず妹のためにお金を貯めようと、真面目に冒険者を続け努力していた。この理不尽な世界で、一生懸命生きようとしている人達だったのに……」
ギムラはお調子者で、すぐ思っていること、気になっていることを口に出しているようだったが、実は言動の裏で仲間達を気遣っていることを知っていた。
ワーディは無口で殆ど声を聞いたことがなかったが、ダンジョン中は危機に陥らないよう常に周囲を警戒し続けるほど仲間思いだったことを知っている。
エリオに対しては最も親近感を抱いていた。
同じ妹を持つ兄で、妹に弱いところなど僕と特に似ていた。
ミヤちゃんを大切に想い、彼女の将来のため皆で一致団結し戦う姿には敬意すら払っていた。
そして何より――僕は声量を落とし呟く。
「もしも別の出会い方をしていたならば、僕と友達になれたかもしれないと、そう思っていたのに……」
僕には絶対に成し遂げないとならない復讐と『なぜますたーではないというだけで殺されるのか』という真実を知る使命がある。
だがそのこととは別に、僕は彼らに親しみを覚えていたのだ。
復讐とは関係なく、ただの平民だったあの頃に平穏な日々の中でどこかで出会ったならば。
もしかしたら友達と呼べる存在になっていたかもしれないと、そう思ったのだ。
しかし、その願いははかない泡のようなものでしかない。
「ライト様……」
ネムムが思わず僕の本名を漏らす。
まるで自身の心臓をナイフで抉られているかのように彼女は苦しげに胸を両手で押さえつつ、瞳に涙を浮かべる。
僕が悲しむ姿にネムムが感情移入し、自身の痛みとしているようだ。
僕はネムムの悲しみを払うように、心の底から沸々と湧き上がるマグマのような感情に任せて声音を漏らす。
「捕らえ、冒険者ギルドに突き出し――そしてエルフ種王族の介入を招き無罪放免の可能性を生み出す? ああ、そんなことはしない。ああ、絶対に捕らえてなどやらない。それだけは僕の名前『ライト』において約束しよう」
僕は拳を握りしめる。
人種を自らの欲望のために殺し続ける、その男を。
絶対に許さないという感情を込めて。
「絶対に殺す。証拠を全てそろえて証言をはき出させ、そのままエリオ達が味わったであろう苦しみを味わわせ僕の手で絶対に殺す――そしてその屍を証明として僕達の冒険者ランクを上げる糧にしてやろうじゃないか。エリオ達とミヤちゃん、そして人種冒険者を狙い殺した罪、その報いは絶対に味わわせてやる!」
部屋の空気が『ギシギシ』と物理的に軋むような音が聞こえそうだった。
僕の湧き上がるマグマのような怒り、殺意が、体からも溢れ出て空気に干渉し軋ませているのだ。
仮にミヤちゃんが眠っておらず、直接今の僕を目視したら心臓を止めかねなかっただろう。
それだけフードのエルフ種は僕の逆鱗に触れてしまったのだ。
僕は振り向きもせず名前を呼ぶ。
「ゴールド、ネムム、分かっているな? 他冒険者に押さえられる前に、その『冒険者殺し』は僕達の手で見つけるぞ」
ゴールド、ネムムはその場ですぐさま跪き互いに言葉を仰ぐ。
ネムムは涙を引っ込め、最高峰の暗殺者らしく冷たく、しかし美しい顔立ちと声音で、自身が仰ぐ神に魂を供えるかのように告げる。
「我が絶対的忠誠を捧げる主であるライト様の名に懸けて、『アサシンブレイド』のネムム、地獄の猟犬の如く必ず奴を見つけることをお約束致します!」
騎士の手本のように膝を突き頭を垂れて、自身が心底納得し、惚れ込んだ『主』に改めて忠誠を捧げる。
「『黄金の騎士』ゴールド。黄金の騎士道精神に則り我が主が望み、覇道を阻む障害は我が盾で防ぎ、刃によって叩き伏せようぞ! 絶対なる王に黄金の忠誠を!」
僕は目の前で跪く2人を見下ろしながら、改めて『道化師の仮面』を被り直す。
「では行こうか。驕り高ぶり、人種に手を出しはしゃいでいる愚かなエルフ種――『冒険者殺し』を殺しに」
「ライト様のお望みのままに!」
「主の望むままに!」
僕達はすぐに『冒険者殺し』を取り押さえるべく動く。
装備は一瞬で調えて、ソファーに眠るミヤちゃんは一度『SSR、転移』で『奈落』へと移動。
メイへ簡単に事情を伝えて『客人として扱え』とだけ告げ預けてきた。
『SR、睡眠』で24時間は目を覚まさないが、宿屋に1人残して従業員などが入ってきて彼女の姿を見られるのは不味い。
故に『奈落』へと預けたのだ。
全ての準備を終えると、ダンジョンへと向かう。
ダンジョンは24時間解放されている。
夜遅くに出入りする冒険者は少ないが、ゼロではないためだ。
僕達はいつも通りダンジョン内部へと入る。
まるで外と連動しているかのように、ダンジョン内部まで星々が綺麗に浮かぶ夜だった。
僕達は人目がつかない場所まで移動する。
「――『SSR 千里眼』」
『SSR 千里眼』――使用者が望む遠くのモノを発見し、見ることが出来るカード。しかし条件が不明だったり、使用者が知らないモノ、遠すぎた場合などを見ることは出来ない。
ミヤから聞いた情報を思い浮かべつつ、彼女達を襲ったフードエルフ種の姿を『SSR 千里眼』で探す。
「――居た。エリオ達が倒れている場所まで戻って何かを探しているようだ。恐らくミヤちゃんが戻ってくるかもと考えて移動したんだろうな」
姿形を捕らえれば取り逃がす心配はない。
僕は改めて宣告するように告げる。
「獲物は見つけた。さあ、『冒険者殺し』狩りを始めようか」
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
さぁ! いよいよここからライト達の反撃になります!
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
23話を12時に、24話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は23話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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