番外編1 天国と地獄1
――時間をミキを捕らえる作戦前まで戻す。
「アイスヒートに作戦協力して欲しい、ですか?」
『奈落』最下層執務室で、僕はアイスヒートと向き合う。
彼女の返答に僕は軽く頷いた。
「気づけたのは偶然だけど、どうやらスパイが一匹紛れ込んだようなんだ。近々そのスパイを釣り出すため作戦をおこなうつもりなんだけど……アイスヒートにはそのスパイを釣り上げる役をやってもらいたいんだ」
作戦としては避難訓練を実施すると『巨塔街』に通知。
一般市民共々、スパイを『巨塔』内部に招き入れる。
『巨塔』内部に入ればエリーの力で転移も使えなくなるため、後は逃げられないよう閉じこめ鎮圧するだけだ。
その際、スパイであるミキを『巨塔』二階の大広間まで誘導する必要がある。
その役目をアイスヒートにお願いしているのだ。
相手はどうやら『ますたー』っぽく、相手が違和感を感じて途中で襲いかかってくる可能性もある。
かなり危険度が高い任務だ。
「危険度は高いけど、普段からメイドを頑張ってくれていて、慎重で実力も高いアイスヒートが一番適任だと考えているんだ。だから、どうか引き受けてくれないかな?」
「もちろんです! ご主人様はアイスヒートの身など気にせずどうぞご命令してください! 必ずやご主人様の期待に応えて見せます!」
「ありがとうアイスヒート。詳しい作戦内容が決まり次第、関係者を集めて話し合いをおこなう予定だから。それまで待っていてね」
「畏まりました!」
アイスヒートが一礼し、気合の入った声で返事をした。
僕はその返事に満足して頷いた。
☆ ☆ ☆
アイスヒートはライトから作戦の承諾を取った後、普段見せないほど上機嫌で本日の仕事を終わらせた。
仕事終わりに親友であるメラと出会ったので、アイスヒートが食事に誘う。
アイスヒートとメラは長椅子に座り、長テーブルを挟み食事をしながら会話をする。
「ケケケケケケ! 珍しいなアイスヒートから食事に誘うなんて。何か良いことでもあったのか?」
「ふふふ、分かるか?」
「ケケケケケケ! それだけ上機嫌に笑っていたら誰だって分かるわ」
メラからのツッコミを受けるほど、普段は真面目顔のアイスヒートが、現在は嬉しさを堪えているかのように口元を緩ませていた。
彼女はパスタにサラダ、飲み物を笑みを浮かべながら食べつつ返答する。
「実は内容は守秘義務で話せないが、ライト様から直々に作戦参加要請を頂けたんだ」
「ケケケケケケ! ライト様直々とは豪儀な話だな」
メラはステーキ……と呼ぶには少々豪快過ぎる料理、ほぼ生焼けの肉の塊を裾から伸びた口でむしゃむしゃと食べながら驚く。
彼女の反応にアイスヒートは承認欲求を刺激され、より笑みを深めた。
「『白の騎士団』以来、何かと縁が無く、ドワーフ地下施設やナーノとヒソミ捕獲、獣人種大虐殺のお手伝い……と、ライト様のお役に立つことが出来なかった。しかしようやくアイスヒートの忠誠心をライト様に捧げることが出来るのだ! 今から腕が鳴るというものだ!」
「ケケケケケケ! おいおい今からそんなに張り切って、変なミスをするなよ。もしミスしたら指さして腹から笑って、当分ネタにしてやるからな」
「安心しろ。折角の機会なんだ。そんなミスはしないさ」
得意気な顔でアイスヒートは答えつつ、音も立てず丁寧な所作でパスタをフォークで巻いて食べる。
その態度をメラが羨ましそうな視線を向けた。
「作戦内容を聞くつもりはないが……本当に羨ましい話だな。アタシにもアイスヒートのようにライト様からお呼びがかからないかね」
メラとしても主であるライトに自身の忠誠心を見せる意味で、可能な限り作戦に参加したい。
ライトが『敵を皆殺しにしろ』と命令すれば喜々として皆殺しにする。
あり得ない仮定だが、仲間を殺せと命令されても、メラは僅かな躊躇いもなく全ての能力を用いて殺害する覚悟だ。
さらに『死ね』と言われれば、当然喜んで自死するだろう。
後半の2つはライトの性格的に絶対にありえないが、それだけメラは彼に絶対的忠誠心を捧げているのだ。
同僚がそんな機会に恵まれたと知って『羨ましい』と思わないはずがない。
メラの羨ましそうな視線をアイスヒートは受けて、得意気に笑う。
「まだ詳しい話は受けていないが、例えメラが参加しても今回ばかりはアイスヒートがもっともご主人様に貢献してみせるさ」
「ケケケケケケ! 言うね」
「当然だ! メラと違ってアイスヒートは最近、本当に活躍の場が無かったからな!」
「ケケケケケケ! それを言われると弱いぜ……」
アイスヒートと違って、メラはそこそこライトと一緒に戦った回数が多い。
親友からその点を指摘されると何も言えなくなってしまう。
アイスヒートはメラの反応を前に笑い出す。
「詳しい作戦内容が分からない段階で、あーだこーだ言っても仕方ないがな」
「ケケケケケケ! 確かに確かに」
「とりあえずアイスヒートはご主人様のためにも、自身の能力全てを捧げて結果を出すぞ!」
アイスヒートが心底本気で今回の作戦に入れ込んでいることをメラは感じ取った。
その本気が吉と出るか凶と出るかは、まだこの段階では分からない。
しかしアイスヒートの表情は、まるで天国に居るように輝いていたのだった。
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