33話 それぞれの……
「アアアッ、どうやらヨォ。『巨塔』調査に向かったミキと、レベルアップするため襲いに向かったダイゴ、どちらも消息を絶ったようダァ」
「消息を絶った!? ああぁぁぁッ! なんということでしょうかぁぁぁ!」
「……ドク、うるさい、黙れ」
魔人国のとある部屋に3人の男性達が集まっていた。
全員マスターである。
ドレッドヘアーが特徴的なゴウ。
身長が2mもあるひょろ長いドクが、顔を仮面で隠し、返り血まみれの白衣に袖を通し、ミキとダイゴの消息不明情報に慟哭する。
その彼の叫びを心底うるさそうに叱責するギラが注意した。ギラはドクとは正反対に150cmほどしか身長はなく、ミキよりも背が低い。
だぼだぼの衣服に、口元を髑髏マークが付いたスカーフで隠している。視線だけで人が殺害できそうなほど鋭かった。
ドクはギラの冷めた態度に食いつく。
「ギラさん!? 大切な仲間が消息を絶ったというのですよ! なのに今悲しまずいつ悲しめばいいというのですか!?」
「われ、黙れ、言った? それとも力尽くで言葉、話せなくした方がいいか?」
だぼだぼの服の下で隠しているギラの腕が動き出そうとする。
戦闘向きではないドクとはいえ、マスター同士が戦った場合、この別室はただではすまない。
ソファーに座ったゴウが、片足で床を踏み砕く。
その音が室内一杯に広がり、ドク、ギラの視線を集めた。
「やり合うのは構わねがよ、話はまだ終わっていなイ。話が終わったら好きに殺し合え――続けるゾ。ダイゴとミキが消息を絶ったということは、『巨塔』にはやはり何かあるってことダ。ミキは戦闘向けではないが、ダイゴは違うだロ? あのレベルアップ馬鹿の技量はタカが知れているが、あいつの持つ『精霊双剣』は舐めてかかると痛い目を見ル。にもかかわらず消息を絶った訳ダ」
「相応の実力者が居るってこと。『巨塔の魔女』だったか? 斬りがいがありそう」
ギラがスカーフの下で嗤う。
血を求める殺人鬼のようにだ。
ゴウは気にせず話を進めた。
「『巨塔の魔女』がブラフで、他に強者や手札を隠している可能性は捨てきれないがナ。とりあえず『巨塔』に関しては俺様達が動くゾ。魔人国の雑魚共には荷が重いからナ。声をかけたらいつでも動けるように準備をしておけヨ。話は以上ダ」
「いつでもと言いますが、それは何時頃になりますか? ワタクシ研究がまだ途中で、時間を取られるのは困るのですが……」
ドクの言葉にゴウが応える。
「安心しロ。明日、明後日すぐに動くことはないからナ」
「? なぜ。むしろ、今すぐ動くべきではない? もしかしたらダイゴ、ミキ、助け出すことが出来るかもしれないよ?」
「おおぉ! それは素晴らしいですね! 是非、仲間を助けに動きましょう! もし亡くなったとしても遺体ぐらいは持ち帰れるはず。そして、ダイゴさん、ミキさんの遺体を実験材料にしてあげなくては……ッ。彼らも人種の未来を切り開く材料になれるなら本望でしょうから!」
ドクの言葉に、ゴウとギラは共に『また始まった』と言いたげに眉根を顰める。
一見、仲間思いの発言が多いドクだが、彼は『人種の未来を切り開くため』と称して人種を強化する人体実験を繰り返していた。
その実験は人やモンスター、生物を切り裂く事に快楽、存在意義を見いだすギラですら眉根を顰めるほど凄惨な現場だ。
善意を持って人種を実験材料にするドク、悪意を持って人種を殺害するギラ――どちらがまだしもマシなのか。
判断は難しい。
ドクの発言に眉根を顰めたゴウだったが、しっかりとギラの質問に答える。
「2人とも消息を絶ってから時間が大分経っていル。今慌てて動いても意味がなイ。それと魔人国が音頭を取って近々シックス公国会議が開かれるらしイ。さすがに魔人国が音頭を取っているシックス公国会議中に動いて、メンツを潰すのは不味いからナ。一応、滞在している国の顔ぐらいは立ててやらないとナ」
「何かと思えば、くだらない理由」
「いえいえギラさん。相手のメンツを立てることは非常に重要なことですよ! とくに大国ともなるとメンツをとても気にしますから。ゴウさんの判断は理に適っている、ワタクシは支持します」
ゴウ、ドクが賛成している案件にこれ以上、反対する気はなくギラは軽く肩をすくめて流す。
ギラが流したことで、それ以上の反対意見は出ず、シックス公国会議が終わるまで皆動かないことに同意した。
ゴウが最後に告げる。
「シックス公国会議が終わり次第、対『巨塔』に動ク。ドク、ギラ……ちゃんと予定を空けておけヨ」
ゴウの指示にドク、ギラはそれぞれ返事をする。
こうしてシックス公国会議が終わり次第、対『巨塔』に魔人側マスター達が動くことが決定したのだった。
☆ ☆ ☆
「ミキちゃん……」
魔人国の一室で、マスター達が会議を開いている頃、『巨塔街』でシリカがもぬけの殻になった部屋を眺める。
避難訓練中、同居人であるミキは妖精メイドのミスで衣服を汚してしまった。
着替えるため彼女が妖精メイドと一緒に2階に上がる。
その後、食事をしていると大地が揺れた。
妖精メイド達の説明曰く、原生林奥地から高レベルモンスターが襲撃してきたらしい。
避難訓練が本当になってしまった。
問題が解決するまで『巨塔』内部で、待機していることになる。
暫くして落ち着くと、安全になったので家に帰って問題無いと告げられた。
しかし、ミキは何時まで経っても帰ってこなかった。
近くにいた妖精メイドに尋ねても、
『ミキ? そんな人、知りませんよ?』と言われたのだ。
その瞬間、シリカの背筋に冷たい汗が流れる。
言葉を切って自宅兼店に帰り、ミキの部屋へ入ると――そこは最初から何も置いていないと言わんばかりにもぬけの殻だった。
ミキのベッド、椅子、机、クローゼット、私物などが全て消えていたのだ。
シリカが戻る前に、妖精メイド達が、ミキの荷物を全て持ち出したのだ。
部屋だけではない。
ミキが使っていたコップ、皿、フォーク、ナイフなどすら最初から無かったかのように消失していた。
シリカが悟る。
(ミキちゃんは最初から居なかったことになったんだ……)
でもその理由が分からない。
妖精メイドに性的な意味で襲いかかった男性が、ミキのように最初から『居なかった者』扱いされた。
(でもミキちゃんは女の子だし、最初から釘を刺していたから妖精メイド様に襲いかかるようなマネをするはずないし……)
つまり、『妖精メイドに襲いかかる』と同等、もしくはそれ以上の罪をおかしたため『最初から居ない者』として扱われたのだ。
『妖精メイドに襲いかかる』と同等、もしくはそれ以上の罪などそれほど多くない。
(考えられるとしたら魔女様、『巨塔』を探りにきたスパイ?)
ミキが使用していた衣服がすべて消えたのも、何か証拠を探るためと考えれば辻褄があってしまう。
故にシリカはそれ以上考えるのを止めた。
最初からミキという人物と一緒に暮らしていた事実をこれ以上、考えないようにしようと決めたが……。
「…………」
人はそうそう簡単に忘れるほど器用には出来ていない。
シリカはつい空いた部屋を前にして、消えてしまったミキのことを考えてしまうのだ。
一通り部屋を眺めた後、彼女は店を開くため一階へと下りた。
今日も1人で店を開けるため、これ以上感傷に浸っている暇はなかったのだった。
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