32話 マスター
「もちろん! スズちゃんとのぐちょぐちょ濡れ濡れガチンコ生○○○○よ! それでとりあえずは手を打つわ!」
ミキの新たな要求に僕とメイは頭が痛そうに表情を作り、エリーは顔を真っ赤に、メラとアイスヒートは呆れた態度を取って、ナズナは意味が分からず『?』を頭上に浮かべて首を傾げていた。
最後に当事者のスズは心底嫌そうに青い顔で、ロックを掴む手に力が篭もり、『いっそ、気持ち悪い要求をしてくるミキをこの場で射殺すれば、全て丸く収まる……』と言いたげな雰囲気を漏らす。
(止めないと本当にやりかねないな……)
折角、相手が妥協してきたのだ。
出来るなら情報は欲しい。
ミキを殺すだけならいつでも出来るのだから。
僕は軽く手を上げ、皆を落ち着かせた。
改めて拘束され、椅子に座らされているミキへと向き直る。
「却下だ。スズが嫌がることは出来ないと言っただろ」
「嫌がっている? ふふふ……その固まった心をいつか溶かし、ミキィ無しでいられない体と心にしてあげたいわぁ。そしていつかナメクジや蛇のようにヌルヌルぐちょぐちょに絡み合いたいわぁ」
ミキはうっとりとした声音で怖い台詞を漏らす。
メイが言い淀んだのもミキが性的な事を遠慮無く口にするため、僕に聞かせるのを躊躇ったのだろう。
その気持ちは理解できるが、不快感を抱く発言を耳にする程度のことは、情報を得るためなら我慢出来るというものだ。
僕はミキから情報を得るため、交渉を開始する。
「とりあえず、スズとのぐちょぐちょ濡れ濡れ――ごほん、そういうのも却下だ。もっと現実的に実現できる要求をしてくれないと、こちらも対応できないよ」
僕が『ぐちょぐちょ濡れ濡れ』と口にすると、ナズナ以外が『ライト様に何を言わせる!』と顔を赤くしたり、気まずそうにしたり、怒りを込めた視線をミキへと向けた。
彼女達の攻撃的意識を向けられているにもかかわらず、ミキは動じた様子も見せず僕の指摘に答える。
「えぇ~ミキィとしては十分実現可能な妥協を示したつもりなのにぃ。もっと要求を下げないと駄目なのぉ? う~んと、なら……肉体的接触を避けて、スズちゃんの履いている黒タイツを頂戴」
(今までの要求に比べて『軽い』と思ってしまうのは間違いなのだろうか……)
僕だけではなく、当事者のスズも『結婚や体を重ねるのに比べれば……』と乗り気だった。
一応、スズに確認を取ると、『それぐらいなら』と了承を得られたので、ミキに許可。
彼女は喜々として要求を告げてくる。
「なら脱ぐところを確認するから目隠しを取ってちょうだい。あとで別の人のや新品を渡されて誤魔化されたら困るものぉ! それタ・イ・ツ! タ・イ・ツ! タ・イ・ツ!」
ノリの良い掛け声を上げ、今すぐスズのタイツを脱いで渡すよう要求してくる。
あまりにノリが良いためナズナまで掛け声を出そうとして、側にいたエリーに頭を叩かれ小声で説教を受け始めた。
僕は彼女達のやりとりを聞かなかったことにして、ミキに釘を刺す。
「今すぐ渡しても、拘束されている以上、所持することは出来ないだろ。僕の名前においてちゃんとスズのタイツを渡すから、まず最初に質問に答えてもらうぞ」
「……まぁいいわぁ。誠意として、答えてあげるぅ。でも質問はタイツ程度が対価だからひとつだけよぉ。もしそれ以上を望むなら、別の対価を要求するわぁ」
「……了解した、とりあえずは一つだな」
彼女の言葉に僕は頷く。
ミキが素直に引いてくれた誠意に対して、僕も行動で示すためだ。
……スズのタイツでこれ以上、押し問答するのは彼女自身に対して申し訳ないという感情が無いとは言わないが。
(さて、どんな質問をする?)
聞きたい事は沢山ある。
一つの問いでより多くの、僕達にとって有益な情報を得るためにはどうすれば良いか考え込む。
考えを纏め口を開く。
「ミキやダイゴ、ヒソミ……オマエ達はいったい何者なんだ?」
「うひゃぁ、面倒な質問してくるのねぇ」
口調こそ陽気だったが、声音の裏に『どう説明すればよいのか』という困惑も感じ取る。
ミキが僅かに逡巡、口を開く。
「ミキィ達は貴方達も口にしていたように『マスター』よ」
「それじゃ何の説明にもなっていないよ」
「もぉ~、めんどくさい!」
僕の指摘にミキが唇を不満そうに尖らせる。
狙い通り、一つの問いで複数の疑問が解けそうだ。
彼女は言葉を選び、再び切り出す。
「『マスター』っていうのは、『C』様が連れてきた特別な魂――前世の記憶を持った魂のことよ」
「……? 前世? 魂?」
「前世は以前生きていた人生のこと。ミキィ達『マスター』は例外無く、以前生きた人生の記憶を持っているのぉ。魂は魂のことよぉ」
さらにミキは続ける。
「『マスター』は大きく2つに分けられるのぉ。『C』様を敵視するか、崇拝するかねぇ。竜人種に組みするヒソミ達は『C』様を敵視する『マスター』側よ。そしてミキィ達は魔人種に組みする『C』様を崇拝する側よぉ。互いに目的が違うせいでミキィ達『マスター』同士で争ったりするのぉ。今回の『巨塔』調査も『C』様が居るかどうか、竜人種側マスター達が何を企んでいるのか、もしそうなら邪魔するためだったのよぉ。あと崇拝と言っても別に宗教の信者の如く崇めるって訳じゃなくて、ミキィ達はあくまで『C』様側について、色々お願いを叶えて欲しいと思っている『マスター』の集まりねぇ」
新しい情報がもたらすものに僕は脳内で考えを巡らせる。
彼ら彼女らは『ますたー』同士で争っている。それは『C』とやらに対するスタンスの問題が大きいらしい。
ミキは説明口調から一転、幸せそうな忍び笑いを漏らす。
「ミキィは最初、『C』様にミキィが理想とする相手とハーレムをお願いする予定だったけど、理想以上の相手スズちゃんと出会えたから、もういいかなってぇ。だから亡命したのよぉ」
「ッッッ!」
ミキの台詞にスズが気持ち悪そうに息を呑み、全身に鳥肌を立てる。
「竜人種側は『C』様を敵視しているけど、絶対に勝てないと理解しているから『C』様から逃げる計画を立てているらしいわぁ。たしか……『P・A』だったかしらぁ? 『P』はプロジェクトの略称だろうけど、『A』が何を指しているのかミキィ達の間でも議論されたけど結局よく分からなかったのよねぇ……。あとはミキィ達『マスター』は魔人種側に5人、竜人種5人の計10人でダイゴちゃんは殺されちゃったんでしょ? だからミキィが知る限りではこの世に9人しか『マスター』は居ないかなぁ? 他に復活してなければだけどぉ」
謎を解明するための質問だったが、情報の洪水に謎が深まる。
前世、魂、『C』に連れてこられた、P・A、竜人種側と魔人種側、それぞれの『ますたー』の能力、復活――。
僕が質問するより先に、ミキが釘を刺してくる。
「これ以上は追加の対価を払ってもらわないと、ねぇ」
「…………」
相手は亡命してきた元敵とはいえ、誠意を以て対応してくれた。
ならば今日のところはこちらも引くしかない。
人の誠意を踏みにじる『種族の集い』のような恥知らずなマネなど、絶対にしたくないからだ。
故に僕は先程と同じように彼女へ対価を尋ねた。
「では次はどんな対価を支払えば、先程の続きの情報を話してくれる?」
「そうね……」
ミキはすぐに答えず、僅かに考えて口を開く。
「生○○○○は拒否されたけど、確かに最初から生○○○○は急ぎ過ぎたわよねぇ。だからスズちゃんとの濃厚な百合○○○○なんてどうかしたらぁ? もしくはスズちゃんの○○○をミキィが開発して雌○○させる権利を得られるとかぁ。あとはスズちゃんに○○○を感じたいから授乳○○○でもいいわよぉ。他にしてもらえるならお風呂場で○○○○○○とかどうかしらぁ? 最初はいくらなんでも知らないだろうから、ミキィが手取り足取り教えちゃうぞぉ☆ あとあとスズちゃんとやりたいことは――」
ミキが話し始めたと同時に、エリーがナズナの両耳を全力で押さえる。
いつも楽しそうに笑っているメラが真顔になり、アイスヒートの顔から表情が抜け落ちた。
僕とメイは頭が痛み、片手でこめかみを押さえる。
対象者であるスズはミキの発言に耐えきれず、両耳を押さえて涙目で訓練場の端まで移動し距離を取ってしまう。
……これ以上の情報は欲しいが、スズのため、ユメやナズナの教育的にもこの場でミキを始末した方が良いのでは、という気すらしてくる。
とりあえず後日、ちゃんと対価であるスズのタイツを渡すことにし、ミキの第一回尋問は無事に終えた。
彼女は『奈落』最下層地下の牢屋に逃げられないように首輪をつけ、見張り付きで入れられたのだった。
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