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30話 切断

「全てを飲み込め! 神葬(しんそう)! グングニールゥゥゥッ!」


 投擲された『神葬(しんそう)グングニール』は槍ではなく一つの光となり、敵であるダイゴが放った小型太陽へ直進する!


「クソゴミがァッ! そんな槍一本で何が出来る! (おのれ)が持つ精霊双剣こそ最強の神話級(ミトロジー・クラス)! この世で最も強い、その精霊の全てを注いだ太陽に飲み込まれよ、ゴミクズがぁあああッッ!」


 ダイゴはさらに小型太陽に力を注いでいく。

 輝く熱球はさらに膨れあがり高熱を放ち、辺りに光を放っていく。


(おのれ)は最強になる! この顔の傷をつけた、(ヘイ)の命を奪うまでは負けん! 絶対に取り返す! 全てを(おのれ)のレベルに変えて、全てを奪ってやるぅぅぅッッ!」


 ――だが、


「……最強の神話級(ミトロジー・クラス)? この世で最も強い、だって?」


 僕は神葬(しんそう)グングニールを防ぐためにダイゴが力を注ぐ小型太陽を見つめる。

 白い光を放ち、辺りを圧倒する熱量を放出する物体。精霊双剣が創りあげた、彼の最後の切り札。

 確かに、その力はそこそこには強い。

 だが、所詮神話級(ミトロジー・クラス)の中ではだ。

 僕が投擲した槍は神話級(ミトロジー・クラス)をさえ超える創世級(ジェネシス・クラス)

 神話級(ミトロジー・クラス)程度の精霊双剣で抗おうなど不可能である。


「――全てを終わらせろ! 神葬(しんそう)! グングニールッ!」


 投擲した黒い光を放つ神葬(しんそう)グングニールが、小型太陽に衝突する。


 そして燃え尽きることなく黒い光が、太陽を呑み込み――その先に居るダイゴに襲いかかり、彼は精霊双剣を交差し防ごうとするが、


「ば、馬鹿なぁぁあッッ! そ、そんな……(おのれ)の太陽がぁああぁあああぁああッッッ! (おのれ)の最強の精霊双剣ごと体を貫くなんてッ!?」


 異形の姿に変わり全ての力を小型太陽に注いでいたダイゴは、神葬(しんそう)グングニールに貫かれた小型太陽が飲み込まれ消えたのを見て、悲鳴をあげる。

 そして数瞬の後――神葬(しんそう)グングニールに貫かれたダイゴは黒い光の軌跡に飲み込まれるように、身体の中心部が消え去る。


「ま、まさかぁぁああッッ……その武器は……ッ!」

「ああ、そうだ。創世級(ジェネシス・クラス)、『EX、神葬グングニール』。お前の自慢の武器よりも、遙か高みにいる存在だよ」

「あ、あぁぁあぁぁあッッ! まさか……ッ、まさかぁあぁああッッッ!」


 ダイゴが激しく身体を震わせ、僕の方に近付こうとする。

 だが、神葬(しんそう)グングニールに貫かれたその身体は、その中心から黒く染まり、ぼろぼろと崩れていく。


「寄越せ……寄越せぇぇえぇえぇッッ! その武器を寄越せぇえぇッッ! (ヘイ)につけられたこの傷を! あの男を超えるために! この顔の十字傷を癒やすためにも! 寄こせ! 寄こせよ! その槍を寄越せぇぇえええぇぇえッッ!」

「断る。第一、僕でも『神葬グングニール』で難儀しているんだ。貴様程度で扱える代物じゃないよ。その両手にある精霊双剣の残骸のように、魂ごと消え失せるがいい」

(おのれ)が消える、だと? 精霊双剣のように……?」


 ダイゴは自らの手に握った精霊双剣を見る。

『神葬グングニール』に貫かれた精霊双剣は破損部分から黒い炭のように変色していく。精霊双剣だけではない。同じように貫かれたダイゴ自身もだ。

 腹から広がった黒い炭化に似た現象は、肩を浸食し、太股、手、喉、顔まで迫る。

 神話級(ミトロジー・クラス)である精霊双剣までも、ただの炭に似た何かへと姿を変えていった。


「ひ、ひぃぃぃぃいっッッ! (おのれ)の精霊双剣がぁああぁああッッ! (おのれ)の体がぁあああぁぁああッッ! ひいっ、ひいぃぃぃぃッッ!」


 ぼろぼろと崩れていく精霊双剣。

 同時に彼の足も崩れ、地面へと音も無くボロボロ崩れていく。

 空気に溶け、消えていく炭となった自分と双剣を見詰め、ダイゴは小さく呟く。


「き、消えていくっ……(おのれ)が消えていく……。(ヘイ)を殺すまでは絶対に死なないと誓った(おのれ)が……魂ごと消えていくぅぅ……っ」


 彼は最後に微かに残った右手を空に向け、手を伸ばす。

 そして何か最後に小さな呟きを残し、ぼろぼろと崩れ空気に溶けるように消滅していった。


神葬(しんそう)グングニール』は小型太陽、恐らく『ますたー』のダイゴだけでは飽きたらず、蒼天の雲まで切り裂き、呑み込み青い空に黒い光が突き刺さるかのように伸びて消えていった。


 後に残されたのは巨塔、巨塔街、ナズナ、50%の力を解放した神葬(しんそう)グングニールと、右半身を浸食され続ける僕だけだった。



 ☆ ☆ ☆


「ほ、本当にやらないとだ、駄目なのか……」

「長い時間をかければ呪いを祓らすことも出来るかもしれませんが……その間、右腕が使えないのも事実。なのでライト神様(しんさま)のご判断が合理的で、正しいのですわ」


『奈落』最下層、一室。


 涙目のナズナに問われ、エリーも口では納得しているように返答するがその顔色は非常に悪い。

 僕の我が儘で負担をかける2人、特に一番負担をかけるナズナには申し訳ない気持ちになる。


「……嫌な役を押しつけてごめんね、2人とも。でも、長時間かけて右腕の呪いを祓っている暇はないから。これが一番、早い治癒方法なんだよ」

「ううぅ……ご主人様……」


 なぜここまでナズナが嫌がっているのか?

 ダイゴの小型太陽を消滅させるため、僕は神葬(しんそう)グングニールの封印を第2段階まで外した。

 神葬(しんそう)グングニールは本来の半分、50%の力を取り戻し、無事にダイゴ、小型太陽もろとも呑み込み、消滅させることが出来た。

 お陰で『巨塔』、『巨塔街(きょとうがい)』にも被害が出ずに済む。


 代償として、僕の右腕が重度の呪いに汚染されてしまった。


 エリーの第2封印を外した際、右手ではなく頭部周りに意識を集中し、防御能力を高めた。結果、防御が疎かになった右腕を重度の呪いに汚染されてしまったのだ。恐らく文字通り骨の髄までもだ。

 お陰で痛みは無いが、感覚や指一本動かせず、魔力を通すことも出来ない。


 こうなると『SSSR 高位呪術祓い』を何枚使っても呪いを完全に祓うことが出来なかった。

 恐らく数年間、定期的に『SSSR 高位呪術祓い』を根気よく使えば回復するだろうが……。

 僕にはやらなければならない復讐や、真実を明らかにする使命がある。

 そんな時間をかけている暇は無い。


 よって、ナズナの大剣プロメテウスで右腕を切断。

 エリーの極限級アルティメット・クラスの回復魔術で新たに右腕を生やそうというのだ。


 レベル9999だけあり、下手なクラスの刃物では僕に傷を付けるのは難しいが、大剣プロメテウスなら話は別である。

 とはいえ、慕ってくれるナズナからすれば、僕の腕を切り落とすのは抵抗が強い。

 それを目にするエリーもだ。


 だがこの後、亡命してきたミキの尋問もある。

 僕から彼女に問い質したいことが多数あるため、さっさと治療を終わらせたい。


「ナズナ、エリー、迷惑をかけてごめんね。でも、右腕が動かないのは辛いから、早く治癒して欲しいな。あと何度も斬りつけられるのは痛いだろうから、すぱっとやってね」

「ううぅ……」


 僕が笑顔で催促すると、ナズナが瞳に涙を溜めつつ小さく頷く。

 彼女は何度も呼吸を繰り返し、覚悟をようやく固めた。


「え、エリー、いくぞ!」

「こちらはいつでもよろしいですわよ!」


 ナズナは再度、呼吸を繰り返すと大剣プロメテウスを手に摂理を曲げる。


「摂理をねじ曲げて鋭さを強化しろ! プロメテウス!」


 鋭さを強化された大剣プロメテウスを手にナズナは、台に乗せられた右腕を肩辺りからすっぱり断ち切る。

 まるで最初からその部分が切断されていたかのように、綺麗に切り離す。


 すぐさまエリーが魔導書を手に極限級アルティメット・クラスの回復魔術を唱える。


「魔力よ、死に逝く命に救済を。仮初めの命の施しを。終わり逝く旅路は小さき別れ、されど理想郷はまだ遠く、闇を晴らす光を与え癒したまえ――極限回復アルティメット・リーフ!」

「うがぁぁぁッ!」


 エリーの極限回復アルティメット・リーフによって、ナズナに切断された右腕が肩からメリメリと高速再生していく。

 激しい痛みと違和感に襲われるが、その苦痛も数秒で終わる。

 骨、神経、血管、筋肉、皮膚、脂肪などが高速で再生し、墨汁で作り出されたような呪われた右腕とはまったく違う、健康的な皮膚の色をした腕が生える。


 全身から脂汗がにじみ気持ち悪いが、右腕の感触が戻ってきた喜びの方が強い。

 僕はベッドから体を起こし、縁に腰掛け右手の感触を確かめる。


「ありがとう2人とも、お陰で無事、右腕が戻ったよ」

「ご主人様、まだ痛いところは無いか?」

「大丈夫だよ、ナズナ。心配してくれてありがとう」


 新しく生えた右手で涙目のナズナを励ますように頬を撫でた。

 彼女も僕の右腕を切り落とした罪悪感を癒すため、僕の手に自身の手を重ねて頬を擦りつける。

 甘えるナズナを羨ましそうな目で見つめるエリーだったが、同時に安堵した表情で切り落とした右腕の扱いを尋ねた。


「ライト神様(しんさま)、切り落とした右腕はいかがいたしましょうか。もし差し支えなければわたくしが研究材料として所持してもよろしいでしょうか?」

「エリーに任せるよ。その呪いも、神葬(しんそう)グングニールも色々謎が多いからね」

「たしか鑑定の文字化けが一部読めるようになったのですわね?」

「うん、僕も確認した時は驚いちゃったよ」


 以前なら鑑定をするとなぜか文字化けして『神■■り■を■■し槍』としか読めなかった。

 しかし、第2封印を解き、小型太陽、ダイゴを滅ぼすと『神■葬り■を■みし槍』まで読めるようになっていたのだ。


「第2封印まで解放して攻撃に使用したからなのか、それとも『ますたー』のダイゴを滅ぼしたから、もしくは神話級(ミトロジー・クラス)『精霊双剣』を一緒に呑み込んだから読めるようになったのか……本当に謎が多い武器だよ」


 そうなのだ。

 ダイゴが所持していた神話級(ミトロジー・クラス)『精霊双剣』も第2封印まで解放した神葬(しんそう)グングニールの一撃によって消滅してしまう。

 もし得られれば非常に強力な武器になったのだが……。

 あの時、器用に精霊双剣だけを残すような攻撃など出来なかったから致し方ない。


 僕の指摘にエリーが同意する。


「ですわね……」

「だから、何か分かったら教えてくれ」

「かしこまりましたわ」


 エリーが一礼。

 彼女が顔を上げると、無言でこちらへ来るよううながす。

 彼女は首を傾げながら、近づく。

 近付いたエリーの頬を空いた左手で撫でる。


「エリーもありがとう。お陰で右腕を元に戻すことが出来たよ」

「ら、ライト神様(しんさま)!? わ、わたくしは自身の責務を務めただけですわ! で、ですが、ライト神様(しんさま)のお手を拒絶することは出来ませんの!」


 ナズナの手前、子供っぽい甘えるような態度は取れずに見栄を張っていたようだが、僕から伸ばされた手のため拒絶できないという理由でエリーも嬉しそうに甘えてくる。

 今回は2人に負担を掛けてしまったため、彼女達が満足するまで甘えさせてあげた。


 2人が満足した後は、汗を流し、着替えて、いよいよ亡命してきたミキへの尋問を開始する予定だ。


 彼女の口から一体どのような重要な情報を聞き出せるのか……今から非常に楽しみであり、同時に真実を知ることへの少しの恐怖心と好奇心を抱いてしまった。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!


また最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
神葬グングニール行ったっきり?所有者と認めているのであれば帰ってくる? それともたまには散歩もありか?
あれ?槍って戻ってこないの 前に帰還能力あるってあったような 距離によっては帰ってこなくて 槍を探す旅に?
[一言] 殺したんか… ナズナが摂理を曲げて殺さなかった努力が…
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