22話 小さな奇跡
今日は21話を昼12時、22話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は22話)。
「はっはっはっはっ……」
息を切り走り続ける。
肺が痛み、体力はとっくに限界を迎えているが足を止めることは出来ない。
追いつかれたら殺される恐怖。
兄達が作り出してくれた貴重な時間を無駄には出来ないという使命感がミヤの足を動かし続けていた。
(早く、早く誰かに『冒険者殺し』のことを伝えないと! 早く伝えることが出来ればお兄ちゃんが助かるかもしれない!)
ほぼありえないとミヤ自身、頭の隅で理解しているが、希望を抱かずにはいられなかった。
しかし、希望を終わらせる絶望の声が響く。
「兄妹そろって僕様をコケにしやがって……将来の英雄、勇者である僕様に対する態度の取り方も知らないなんて、だからヒューマンは嫌なんだッ!」
「そ、そんな……」
肩で息を切り、ミヤは進行方向に浮かぶカイトの姿に絶望の声音を漏らす。
カイトの持つ幻想級『グランディウス』の剣身に似た幅広い刃が空中に浮き彼はその上に乗っていたのだ。
カイトがグランディウスを空中に振るう。
『シャラン』と楽器のような音を鳴らし、グランディウスの剣身がぶれて複数の刃を生み出す。
カイトはその刃を操作して、地面まで続く階段を作り出した。
彼がミヤの先回りを出来たのも、3階層沼地で人種とはいえベテラン冒険者に気付かれず接近し奇襲を仕掛けられたのも、全てグランディウスの力だ。
グランディウスは、意思を持ち振るうと、剣身が分裂する。
分裂した剣身はグランディウス使用者の意思によって操作可能だった。
カイトはその幅広い剣身の上に乗って、空を飛ぶことでミヤに追いついたのだ。
さらに分裂した剣身にはランダムで攻撃魔術が込められている。
また剣身の数はグランディウスを手にする者の技量によって、左右される仕組みだ。
先日、煙幕に紛れて逃げる冒険者の背中を貫いたのも、カイトが複数の剣身を生み出し逃げた方向にあたりをつけて、『下手な鉄砲も数撃てば当たる』理論で剣身を放ったお陰である。
カイトは地面に降り立つと、ミヤを冷たい苛立った表情で睨みつける。
「兄妹揃って、将来の英雄で勇者の僕様の手を煩わせやがって。とくに兄は僕様の邪魔をしただけじゃなくて、恥までかかせてくれたんだ。クソ兄の責任は妹のオマエが取れよッ。処理道具としてタップリと使った後、いたぶり抜いてから殺してやるからな!」
「…………」
カイトに追いつかれ絶望したミヤは、自身の死を覚悟する。
この世界はモンスターが存在し、人種が他種に差別されていることもあり、非常に『死』が身近に存在した。
故にミヤ自身、冒険者として兄達と一緒に身を立てると決めた際、『死ぬ』覚悟は固めていた。
未だ絶望、恐怖が心を支配しているが、ずっと前に覚悟は決まっているのだ。
だからこそ最後まで足掻くのをやめない!
「――魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」
ミヤが自身最大の切り札を切る。
彼女を中心に3本の氷の刃が作られ、浮かび上がった。
これが彼女の持つ切り札の攻撃魔術だ。
奇しくもミヤ、カイト、互いの周囲に剣身が浮かぶ。
「アイスソードよ! 敵を討って!」
「最後まで無駄な足掻きを……」
ミヤの声に合わせて一本のアイスソードがカイトへと襲いかかる。
しかし、彼は動きもせず周囲に浮かぶグランディウスの剣身によって阻まれるが、その隙に再びミヤは逃げるため駆け出す。
(お兄ちゃん達が命懸けでわたしを逃がしたんだ。わたしも最後まで諦めず、『冒険者殺し』のことを伝えないと!)
「チッ、本当にヒューマンは面倒だな……。もういい、逃げられないよう足の一本でも切り落とせば大人しくなるだろう」
「こ、来ないで!」
2本目のアイスソードが空中を疾駆するが、カイトは楽々その一撃も防いで見せた。
(伝えないと! 伝えればきっとこの『冒険者殺し』を倒してくれる。人種にもかかわらず、わたしより年下なのに戦術級魔術を詠唱破棄で使えるダークさんならきっと、こんな『冒険者殺し』なんて――ッゥ!)
カイトの剣身がミヤの足を切り落とすため走る。
最後のアイスソードを本能的に動かし、運良く一撃を逸らすことに成功し、足は切断されず、斬られる程度で済む。
出血し、走るどころか歩くことも出来なくなってしまったが。
地面に倒れたミヤは、それでも諦めずカイトを睨む。
最大の手札を切った以上、もう手は何も残っていないにもかかわらずだ。
「足を切り落とすつもりだったが、運良くアイスソードで逸らされたか。まぁもうその足じゃ逃げることは出来ないからいいけど。さぁいい加減大人しく将来の英雄で、勇者である僕様に足を開けヒューマン」
「……あ、貴方は英雄でも、勇者でもない」
ミヤは絶対に勝てないと理解しつつも、ナイフを抜き両手で構える。
恐怖で涙を浮かべながらも、必死に足掻き続けた。
「将来の英雄、勇者って言うのはわたしよりも年下で人種なのに、戦術級魔術を詠唱破棄で使えるダークさんのことを言うの。貴方はただ弱い者イジメをして喜んでいる――負け犬。絶対に将来の英雄、勇者なんかじゃない!」
「――――」
カイトからすればミヤ自身、この絶望的状況を覆す手は無く、後は殺されるだけと理解している筈だった。
にもかかわらず命乞いの台詞を一言も漏らさず、自身の最も痛いところを突かれたせいで、カイトは一瞬何も言えず黙り込んでしまった。
もし彼女の指摘が間違っているのなら、カイトはここまで見事に黙ることはなかっただろう。
黙る、沈黙したのは彼自身、内心で自身を『エリート街道から落後した敗北者、負け犬』だと認識していたせいだ。
結果、図星を指されて黙ってしまったのである。
カイトは一度ならず二度までも、この短い間に兄エリオからだけでなく、妹ミヤにも大きくプライドを傷つけられてしまう。
「――だ、黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! ヒューマンの癖にヒューマンの癖にヒューマンの癖にぃいいいいぃぃぃッ!」
火山が噴火するかの如くカイトは激昂し、宝剣『グランディウス』を両手に握り締め大地を蹴る。
足を怪我しまともに動けない人種の小さなナイフを握る少女に、全力で剣を振るった。
「死ね! もういい、死ねよ! クソ虫けらが!」
「ッゥ!」
ミヤも覚悟し目を瞑る。
最後に彼女は強く願った。
(ダークさんに、将来の英雄で、勇者になる人種の希望のダークさんに、『冒険者殺し』の情報を伝えることができればこんなエルフ種、きっと倒してくれるのに――ダークさん!)
剣身がミヤの脳天目掛け振り下ろされる――が、彼女に剣が届くことは永遠になかった。
小さな奇跡が起こる。
ミヤが左手に身に付けていた『SSR、祈りのミサンガ』が強く発光すると、彼女の姿がその場から瞬時に消失してしまったからだ。
「なッ!? はぁ、ぇ?」
ミヤに痛い所を突かれ激昂したエルフ種、カイトはあまりに理不尽な光景に怒りを引っ込めて戸惑ってしまう。
『冒険者殺し』をしていたレベル1500のカイトが、人相、種族、攻撃手段などあらゆる情報を手にしたミヤをなぜか取り逃がしたのだ。
状況が分からず、混乱した表情を浮かべてカイトが数分立ち尽くしてしまうのは当然だった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
また今日も2話を連続でアップする予定です。
21話を12時に、22話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は22話です)。
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