28話 小型太陽
『ケケケケケケケ! どうやら奴は精霊双剣をまだ完璧に扱うことが出来ないらしいです。あの双剣は強力な分、扱うのがとても難しいとか。精霊双剣の力を100%引き出すには使用者のレベルが足りていない、とダイゴは考えているらしいです』
メラの報告に僕は納得する。
敵であるダイゴがあれだけレベルアップに拘る理由も理解した。
同時に『これ以上、奴にレベルを上げさせることなく確実に捕らえなければ、のちのち非常に厄介な存在になる』とも確信した。
またタネが分かれば対処は難しくない。
「ナズナ! 相手の持つ双剣は精霊を作り出したり、操る力があるらしい。今、ナズナが地面に押しつけられている攻撃も、精霊の力によるものだ!」
「!? どうして己の剣の力を……あの悪趣味ビッチ! 敵に情報を流しやがったな!」
「さ、さすがご主人様! そうと分かれば――摂理をねじ曲げて精霊を視えるようにしろ! プロメテウス!」
ダイゴが驚愕し、すぐ真実に到達する。
ナズナは僕の指示にすぐ大剣プロメテウスの能力を行使する。
「あっ……なんか半透明な人型があたい達を上から押さえつけてる」
「体が重いぃぃぃ」
「こいつの範囲から逃れれば、この重さから解放されるのかな?」
「逃げるよりあの半透明をぶった切った方が早くないか?」
「それだ! さすがあたい! 頭良いな!」
ナズナ自身のアイデアを採用すると、大剣プロメテウスを全力で振るう。
「んぎぎぎぎ……ッ! 摂理をねじ曲げて刃を伸ばせ! プロメテウス!」
ナズナの1人が奥歯を噛み砕く程の全力で大剣プロメテウスを振るう。その際、摂理を曲げて刃を伸ばし、精霊をぶった切ったようだ。
巨人の手で上から押さえつけられていたようなナズナ×5人が、重りを外したように本来の動きを取り戻す。
「ご主人様に恥ずかしい所を見せるはめになっただろうが! 絶対に許さないからな!」
「このクソ雌ガキが! 重力の精霊を力任せに切り払うとか非常識め! 風の精霊、あの雌ガキを切り刻め!」
ダイゴが剣先を向けてナズナ×5人に風の精霊を嗾ける。
だが、大剣プロメテウスの能力で精霊を目視できるナズナの敵ではない。
「遅い!」
「攻撃方法が分かればあたいの敵じゃないぜ!」
「つまり! ご主人様の敵じゃないってことだ×顔男!」
始祖フェンリルの体すら切ることが出来る風精霊の攻撃も、目視できるなら鎧を脱ぎさり速度&攻撃特化になった『SUR、真祖ヴァンパイア騎士ナズナ レベル9999』に触れることさえ出来ない。
風の精霊が攻撃をしかけるより速く、ナズナが接近!
大剣プロメテウスで精霊を切り裂き、無力化してしまう。
ダイゴがここに来て初めて、身に危険を感じた表情を作る。
「!? 重力の精霊、鎖の精霊、盾の精霊! 幻惑の精霊! 己を守り、あの雌クソガキを止めろおおおぉおぉッ!」
「無理だね。あたいを止めるにはオマエ、弱すぎ」
ナズナ×4人がダイゴが叫んだ精霊4体を大剣で切り裂き、最後のナズナが吐き捨て――彼に向けてプロメテウスを神速で振り下ろす。
並の剣士では反応できず、『奈落』内部でもこのナズナの一撃を知覚し防ぐことが出来るのは、アイスヒートやスズと同等以上の実力者だけだ。
にもかかわらず、ダイゴは意地か、奇跡か、
「舐めるな雌ガキがぁ!」
ナズナの一撃の速度に食らいつき、『精霊双剣』で大きく弾く!
ダイゴは『よっしゃ! 見たかこの野郎! オマエの攻撃なんて己が本気を出せば精霊の力を借りなくても防げるんだよ』と言いたげな表情を作っていた。
確かにナズナの一撃を防いだのは見事だが……。
「ばーか、ひっかかってやんの!」
確かに並の剣士、『奈落』内部でも一部の上位者以外には反応できない剣速度だが、ナズナが本気を出した訳ではない。
ダイゴがギリギリ防げる速度で振るったに過ぎなかった。
彼女の狙いは、わざとダイゴに大剣を弾かせることで、『精霊双剣』を握った両腕を大きく広げさせることだ。
彼女は弾かれた勢いに逆らわず体を回転、両腕で弾いて広がった胴体へ向けて大剣プロメテウスを今度こそ本気で振るう。
「摂理をねじ曲げて殺すな! プロメテウス!」
「ぐぼっぅ!?」
神速すら越え、剣身が消えると同時にダイゴのがら空きの胴体へ大剣プロメテウスが叩き込まれる。
本来なら胴体が真っ二つになる所だが、大剣プロメテウスの力によってギリギリ死なず隕石の如く地面へと叩きつけられてしまう。
ナズナは大剣プロメテウスを肩に担ぎながら、空いた手で鼻を擦る。
「ご主人様がオマエを捕らえて情報を引き出すんだから、殺す訳ないだろう」
「わざと一撃防がせたのに気付かず、勝ち誇ってやんの」
「あのわけ分からない神話級の力が分かればあたいの敵じゃないぜ!」
「ご主人様からのご指示がなかったら危なかったけどな」
「つまり、さすがご主人様ってことだな!」
『さすがご主人様!』
最後はナズナ達が揃って声をあげる。
ミキの発言をメラ経由で聞いただけで、ダイゴの『精霊双剣』を独力で見抜いた訳ではないのでやや反応に困ってしまう。
僕は微苦笑を漏らしつつ、ナズナの側まで来る。
地面を見下ろすと、ダイゴが『精霊双剣』を手放し腹部を押さえて胃液、血、唾液などを吐き出しのたうち回っていた。
スネークヘルハウンドの死はこの程度の苦しみでは贖えないが、彼が苦しむ姿を見て少しだけ気分が晴れる。
とはいえ見ている場合ではない。さっさと拘束、無力化して『奈落』最下層に連れて行き情報を引き出さなくては。
……ミキがなぜか亡命して来てしまったため、ダイゴを捕らえても情報が重複して増えない可能性もあるが。
前向きに考えるなら『情報の信頼度が高くなる』と思うべきだろうな。
「……ナズナ、彼の無力化を頼む」
「了解! 気絶させればいいんだよね?」
「うん、頼むよ」
ナズナ×2名がダイゴへ向けて降下する。
最悪、抵抗されて殺されても大剣プロメテウスの力で増えたナズナはすぐに復活させることが出来るため、彼を拘束するのに向いていた。
「――」
だが、拘束に向いているのと、出来るのとは話が違う。
「――殺す! 殺す! 殺す!」
未だ苦しみに悶えるダイゴだが、仇を前にしたような憎悪の声音を上げる。
彼は地面にのたうちながら、『精霊双剣』を拾い握り直す。
刹那、彼を中心に嵐が発生する。
「うぎゃぁ~!」
「ご主人様ぁぁ~!」
ダイゴを拘束するため接近しようとしたナズナ×2名が、突風に吹き飛ばされてしまう。
鎧を脱ぎ捨て、軽量化していたのもあり面白いようにぽんと吹き飛んだ。
距離があった僕達もただでは済まず、吹き飛ばされはしなかったが、両腕で顔を覆い空中に居るにも拘わらず、反射的に地面に立っているかのように足へ力を入れてしまった。
吹き飛ばされたナズナ×2名が、他ナズナ達へ向けて飛んできてぶつかり後方へと転がるように行ってしまう。
僕も彼女達に習って後方へと下がり、距離を取る。
吹き飛ばされぶつかったて来たナズナに、他ナズナが文句を叫ぶ。
「なんでこっちに飛ばされて来るんだよ! ぶつかってメッチャ痛かっただろ!」
「それより、ご主人様にぶつかって怪我させたらどうするつもりだ!」
「例えあたいでも、ご主人様にぶつかって怪我させたら許さないからな!」
「あたいだって、好きでぶっ飛んだ訳じゃないやい!」
「あの×顔の周囲を、風の精霊が発狂したように飛び回って暴風を生み出したのが悪いんだぞ!」
ナズナ×5人が喧々囂々の言い合いをしている間にも状況が動く。
「――殺す! 殺す! 殺す! 己を雑魚扱いするクソ雌ガキがぁあぁぁ! 調子に乗るなよクソがぁぁぁぁぁぁッ!」
痛みから回復したダイゴが怒り心頭で上空へと飛行し、両手の双剣を頭上で交差――その彼の頭上に巨大な火の玉が姿を現す。
ただの火の玉ではない。
その姿はまるでもう一つの太陽だった。
「ご、ご主人様……あれ、不味くないかな?」
レベル9999の攻撃特化のナズナが、冷や汗を流すほど熱いのに寒気を覚えるといった表情をしていた。
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