25話 誓約蜂
「2人とも、来てもらって悪いが彼女の相手はアイスヒートに任せてくれ」
アイスヒートがメラとスズに声をかける。
「ケケケケケケケ! おいおい、自分1人で手柄を独占するつもりか?」
「(こくこく!)」
「……有体にいえばそうだ」
アイスヒートが臆面もなく断言する。
「今回、ご主人様の要望で彼女をこの場所までアイスヒートが連れだし、取り押さえるため戦ってきた。だから最後までアイスヒートにやらせて欲しいんだ」
『言イタイ事ハ分カルガ、らいと様ノゴ指示ヲ無視スルツモリカ』
「ロック、誤解しないでくれ。アイスヒートにそんな意思は無い。ただ……」
『タダ?』
「エルフ巨塔討伐以降ろくに活躍の場が無かったアイスヒートに、ドワーフ王国と獣人連合国関係で活躍したメラとスズに、ご主人様に忠義を示す場を譲ってもらいたいのだ」
「…………」
『エー……』
予想外の申し出にスズとロックは微妙な表情になる。
唯一、以前アイスヒートの悩み、相談を聞かされたメラはどこか楽しげに笑い出す。
「ケケケケケケケ! アイスヒートは以前から自分の活躍の場、ご主人さまに忠義を示す場が無いことに悩んでいたな。だからスズ、今回だけはアタシの顔に免じてアイスヒートにこの戦いを譲ってやってくれないか?」
「……(こく)」
『おいらモ相方モ問題無イゾ。タダ危ナクナッタリ、取リ逃ガスヨウナ事態ニナッタラ介入スルカラナ』
「ケケケケケケケ! 当然だな。そういうことでアタシらは手を出さない。アイスヒート、『奈落』に戻ったら一杯奢れよ」
「スズ、ロック感謝する! メラ、一杯と言わず浴びるほど飲め!」
スズ、ロック、メラがアイスヒートに声をかけて後ろに下がる。
アイスヒートは彼女達に感謝の声をあげると、拳を握り直す。
アイスヒートの入れ直した気合に反応するかのように右手ガントレットからは炎が、左手ガントレットからは空気が凍り付きキラキラと光り、白い靄が発生する。
炎と氷の扱いに関しては、『禁忌の魔女』エリーすらアイスヒートに一目を置いている。
蜂モンスターを炎で迎撃するため、先程アイスヒートは『ファイアーストーム』と声に出したが、あくまでライトに『どんな攻撃をするか』分かりやすく伝えるために声に出していたに過ぎない。本気なら声に出さず、動かなくても同等の攻撃が可能だ。
それだけ炎、氷系の扱いに長けているのである。
そんなアイスヒートが気合を入れて、『ガツン、ガツン』と両手ガントレットをぶつけ合って鳴らし、構える。
右手を前に、左手を後ろに交差して胸の前でクロスさせる。
アイスヒートが本気になった際の構えだ。
彼女はミキを睨みつけると厳かに告げる。
「『UR、炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』、推して参る!」
「!?」
「ケケケケケ!」
アイスヒートの気迫に味方である筈のスズ、メラが押され一歩さらに距離を取った。
恐らくレベル9999クラスでも、侮らず構えてしまう程の迫力すらあるだろう。
にもかかわらずレベル6000前後しかないミキは、アイスヒートに目もくれず、一点を――スズを凝視し続けていた。
ミキが口を開く。
「貴女、スズちゃんっていうのぉ?」
「…………」
「……一目惚れよぉ! どうか、お願い! ミキィの夫でお嫁さんでママになってちょうだい!!」
――一瞬、確かに時が止まった。
そしてその止まった時をぶち破ったのも、興奮で顔を赤くし、瞳をねっとりと潤ませたミキだ。
「黒い神秘的な髪色に宝石のような菫色の瞳! 幼さを残した顔立ちにもかかわらず、着やせして分かり辛いけど思ったよりも大きい胸がアンバランスさと可愛らしさと淫靡さの二律背反でより魅力を掻き立てて、薔薇より赤い艶やかな唇に、遠目で見ても分かるほど白くてすべすべの肌! なのに短いスカートから伸びる黒タイツとの対比が最高で、さらにその下には男性と女性を示すモノが同時に存在するなんて! ミキィの理想を――いえ、それ以上の存在をこの世に具現化したような娘じゃない! こんなの一目惚れしないほうが無理なお話だわぁ! だからミキィと結婚を前提に夫でお嫁さんでママになってください!」
後半は先程告げたプロポーズ台詞を再び叫ぶ。
このプロポーズに当事者のスズはというと……。
「……………………………………ッ!?」
魂が抜けたように呆然とすると、意味をようやく理解し、全身鳥肌を立ててメラの影に隠れてしまう。
ミキの声音、態度、雰囲気からこの場を切り抜けるための嘘ではなく、本心で告げているのを理解したのだ。
故にスズはガクガクと震えながら、ロックを通してお断りする。
『アー……敵ノ嬢チャン、相方ハオ断リスルソウダ。ダカラ、諦メテクレ』
「そのお断りをお断りするわぁ。ミキィの理想が目の前に存在するのよぉ。諦めるなんて絶対に出来ないわぁ!」
『言イタイ事ハ分カルガ……あんたハ敵デ、捕獲スル対象ダカラ、結婚モ何モ無イダロウ』
「(こくこくこくこくこく!)」
メラを盾に隠れながら、スズがレベル7777の身体能力を駆使して高速で頷く。
ロックの指摘にミキは……。
「ミキィは敵で捕獲対象なのよね……逆に言えば捕獲されたらスズちゃんの側にずっと居られるってことなのね?」
『おまえハ何ヲ言ッテイルンダ?』
「ケケケケケケケ! やべぇ……こいつアタシよりやばいぞ」
ミキの言動を前にロックはツッコミを入れ、メラは殺気、怒気、威圧でもないミキから発する空気感に珍しく冷や汗を流す。
スズに至っては極寒に全裸で放り出されたかのようにガクガクと震え続けていた。
そんな彼女達の反応など気にせずミキが召喚陣を展開する。
「召喚! 『誓約蜂』!」
召喚陣から1匹の蜂が飛び出るが、今までと比べてまったく強さを感じない。
薄い墨汁で描いたように儚さを漂わせている。
『誓約蜂』はスズ達に行かず、召喚したミキの顔へ向かう。
『誓約蜂』がミキの右顔に張り付くと、体温に溶けるように皮膚へと入り込む。
「誓約蜂に誓いますぅ……ミキィ、亡命しますぅ!」
彼女の言葉に反応し僅かに頬が発光すると、数秒もかからずその光は消え、ミキの右顔に『誓約蜂』の入れ墨のような痕が残った。
『誓約蜂』が消滅すると、ミキは笑顔で叫ぶ。
「スズちゃん、まずはお友達から始めましょうぉ」
ねっとりと絡みつくような視線をスズに向けつつ、ミキは降伏した。
この降伏にメラは『ケケケケケケケ』と呆れるように笑い。
スズは青い顔でガクガクと震え続け。
アイスヒートは今回も活躍の場も無く、腕を胸の前で交差したまま放置されてしまったのだった。
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