24話 仲間
「ふふふん、そうよ。あのレベルアップ馬鹿の持つ双剣は最強の神話級よぉ。今のうちに降伏することをお勧めするわぁ。今、大人しく降伏するなら、情状酌量の余地が残るかもしれないわよぉ?」
先程まで追いつめられ動揺していたミキが、虚勢やはったりではなく本心から断言する。
(どうやら本気でその『レベルアップ馬鹿』って呼ぶ仲間の持つ双剣が最強の神話級だと思っているらしいな。ナズナの持つ神話級『大剣プロメテウス』も反則と呼べるほど理不尽だが、それ以上の力を持っているとでもいうのか?)
ナズナが持つ神話級、『大剣プロメテウス』は世界に干渉して『摂理をねじ曲げる』ことが出来る。
大剣プロメテウスの能力を使えば、『同じ武装、同じレベルの本人を複数出現させることが出来る』のである。
つまりどういうことかというと――同じ装備、経験、身体能力、レベルなどを持つナズナを複数人作り出すことが出来るのだ。
非常に強力な神話級だが、『最強』と断言できるほどではない。
にもかかわらず、ミキは『最強の神話級』と言っていた。
『レベルアップ馬鹿の持つ双剣』はどれほど強力なのか正直、想像が付かない。
「あのダイゴが大暴れしたら、いくら貴方達が強い力を持っていてもただですまないし、『巨塔街』に住む人種達は下手すれば全滅……なんてこともありえるわよぉ。でも、ミキィを見逃してシリカちゃんと妖精メイド2、3人譲ってくれるなら、あいつと交渉して、これ以上被害が出ないよう今回は引き下がらせてもいいわよぉ?」
ミキは得意気な笑顔で交渉してくる。
条件を呑めば、要求通り外に居るレベルアップ馬鹿とやらは引き下がる可能性はあるだろうが――。
僕は彼女の要求を一切無視して、ナズナに声をかける。
「ナズナ、外で不法侵入者が暴れているらしい。ここはアイスヒート達に任せて僕と2人で外の不法侵入者を抑えるよ」
「分かったぜ、ご主人様!」
ナズナは元気よく返事をする。
一方、要求を一切無視されたミキが慌てて声をあげた。
「ちょ、ちょっと! 無視って酷くない!? 要求が重すぎたかしらぁ? ならミキィを見逃してシリカちゃんを譲ってくれるだけでいいわぁ!」
「エリー、僕達が外の援護に行く。入れ替わりに彼女を捕らえるため、メラとスズを移動させてくれ」
ミキの言葉を聞き流し、エリーの力で『巨塔』壁が動き廊下に繋がる扉が開く。
「わ、分かったわよぉ! シリカちゃんも諦めるから! ここからミキィを出し――」
彼女の台詞を最後まで聞かず、扉を閉めて廊下へと出る。
扉は閉まると再びエリーの力で壁へと変化した。
「ナズナ、このまま一番近い扉で外へ出て原生林で戦っているフェンリルの援護へ向かうよ」
「分かったぜ、ご主人様! でもわざわざご主人様が出なくてもあたいだけでも大丈夫だぞ? 街も、仲間も、ご主人様もあたいが全部守って見せるぜ!」
「ありがとう、ナズナ。でも、今回は僕も一緒に戦いたいんだ」
僕が握る神葬グングニールに力が篭もる。
「……確かに昔、僕はスネークヘルハウンドには殺されかけたこともある。突然目にすると過去を思い出して、体が一瞬だけど硬直することもある。でも、今は過去は許し、彼らは僕達の、『奈落』の一員に加えているんだ。だから彼らも僕達の大切な仲間なんだ……にもかかわらず殺された。それも僕達の拠点で、僕のすぐ目の前でだ……!」
「……ッ!」
「僕達の仲間を殺され、僕達が造りあげた『巨塔』に攻め込まれているというのに、黙って見ているなんて出来るわけがない! 捕らえたら必要な情報を抜き出した後、ガルーやサーシャ、ナーノが『奈落』最下層のさらに地下で味わっている拷問と同等以上の絶望を与えてやる! 僕達が創りあげた場所を汚し、仲間を殺した罪の深さを魂の奥の奥の奥まで刻みこんでやる……ッ!」
「ご、ご、ご主人様ぁ……」
いつも元気溌剌のナズナが泣き出しそうなほど怯えて表情を浮かべ、か細い声音を上げた。
……どうやら僕は仲間を殺されたことで、自分が考えている以上に怒り心頭で、殺気、怒気を辺りに撒き散らしてしまったらしい。
そのせいでナズナが今にも泣き出しそうなほど怯えてしまったようだ。
スネークヘルハウンドを殺害した相手には怒りを禁じ得ないが、大切な仲間の1人であるナズナを怯えさせるのは本意ではない。
僕は深く息を吸い、吐き出し気持ちを落ち着かせる。
「……ごめん、ナズナ。ナズナに怒っている訳じゃないから、安心してね」
「ご、ご主人様、めちゃくちゃ怖かったぞ……」
「ごめん、ごめん」
僕は笑顔を意識的に作ってナズナの頬を撫でる。カブトを被っているため頬を撫でたのだ。
彼女は恐怖で涙目になっていたが、頬を撫でられ気持ちを落ち着かせようとナズナからも僕の手のひらに自身の頬を擦りつけた。
その仕草が子猫のように甘えてくるアオユキと非常に似ていた。
ナズナも自身の行動が甘えてくるアオユキに似ていると気付き、涙目だった瞳を笑顔に変えて小さく『に~』と彼女のマネをしてくる。
可愛らしく甘えてくるナズナに、僕も笑顔を浮かべた。
そうして彼女が撫でられ落ち着いたのを見計らって、急ぎ『巨塔』の屋上へと繋がる扉へと向かった。
目指すは『巨塔街』の外。
原生林奥地である。
☆ ☆ ☆
「わ、分かったわよぉ! シリカちゃんも諦めるから! ここからミキィを出してよぉ!」
ライト達が廊下に出てると一瞬で扉が消えて、再び壁となる。
ミキの要求をライトは歯牙にもかけず壁の向こうへと消えてしまう。
「ちょっと! 本当にいいのぉ! ダイゴは強いんだからねぇ。ピンチになって泣きついて来ても、ミキィ知らないんだからぁ!」
「ご主人様を侮るな。例えどれほどの強かろうとご主人様、ナズナ様に叶うはずがない。アイスヒート達の優位は揺るがない。むしろ、自身の心配をした方がいいのではないか?」
「……ッ!」
ライトが消えた壁に向かって吼えていたミキは、アイスヒートの言葉に後退る。だが、退路は無くすぐに壁へと背中が当たった。
(本当に不味い、本当に不味いわぁ! まだ切り札はあるけど、アレは本当に最後の最後の手段! 人型になるまでレベルアップ稼ぎにどれほど時間を取られるかぁ! 想像するだけで頭が痛くなるわぁ。できれば使いたくないのよねぇ……!)
「ケケケケケケケ! ライト様に呼ばれて来たぞ。こいつか? 無謀にも『巨塔』にちょっかいを出してきたアホは」
『メラ、初対面デあほ呼バワリハ失礼ジャナイカ?』
「ケケケケケケケ! 侵入してきた敵相手に失礼もクソもないだろう?」
『確カニソウダガ、アマリ品ガ無イ態度ヲトッタラ、らいと様ノ恥ニナルカモシレナイダロ? 部下ノ恥ハ、主ノ恥ッテ言ウシナ』
「(こくこく)」
抜けたライト、ナズナの代わりに『UR、キメラ メラ レベル7777』、『UR、両性具有ガンナー スズ レベル7777』が顔を出す。
戦力の追加に追いつめられたミキはさらに絶望し、顔色を悪くする――はずだったが、
「!?」
ミキは絶望顔どころか、恋する乙女の如く頬を染め瞳を輝かせて新しく現れた少女(?)に視線を固定していた。
まるで彼女と自分しかこの世界に居ないと言わんばかりに、食い入るように見入っていた。
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