21話 化けの皮
「こんにちは――いや、『朝だからおはようございます』かな。ミキさん。ようこそ『巨塔』へ」
どこか見覚えのある黒髪の少年に、ミキは声をかけられる。
黒髪の少年はミキ好みの美少年だが、彼に対して妄想をする余裕は今のところ無かった。
ミキは自分が頭から爪先までずっぽり罠にかかった事実に気付いたからだ。
動揺を表に出さず切り抜けるための努力をする。
「……おはようございますぅ。アイスヒート様、これはどういうことですかぁ? ミキィ、着替えるためお部屋に入ったのにまだ子供とはいえ男の子がいるなんて。着替えのお手伝いに呼んだんですかぁ? でもミキィは乙女で恥ずかしがり屋だから、男の子の前で着替えなんて出来ませんよぉ」
「いや、分かっていると思うけれど、僕は別に着替えを手伝いに来たわけではないよ。ミキさんの身柄を押さえ込むために来たんだ」
アイスヒートは答えず、黒髪の少年ライトが微笑みを浮かべて告げた。
ミキも友好的な微笑みを浮かべつつ返答する。
「ミキィの身柄を押さえるってこわーいぃ。もしかしてミキィお姉さんに惚れちゃって、こんな強引な方法をとったのかなぁ~? 気持ちは嬉しいけど、女の子は繊細なんだからもっと優しくしないと駄目だぞぉ!」
「貴様……ッ」
「あたい、こいつ嫌い!」
彼女の発言にアイスヒート、ナズナが苛立ちを覚え牙を剥く。
ライトが『ミキに惚れ込んで、会うためにこんな手の込んだマネをした』という発言に苛立っているのだ。
ライトは軽くて手を上げ、2人を落ち着かせつつ話を進める。
「誤魔化しても無駄だよ。貴女の発言のお陰で再度、奴隷になるまでの裏を取らせて貰ったし、鑑定で擬装の一部を看破、確認済みだから」
「…………」
「発言に説得力を持たせる目的なのかもしれないけど、『行商人で、胡散臭い細目のパパが~』なんて口にするべきではなかったね。頭が悪いのかな? まあ僕達側からすれば『胡散臭い細目の行商人』ヒソミには色々迷惑を掛けられているので、貴女を疑うきっかけになって助かったけど」
リリスの要望で2回目のレベルアップ作業後、『巨塔街』の視察に向かった。
冒険者として案内する最中、クエストでシリカが営む商店に荷物を卸す。
その際、リリスが2人に質問したのだ。
『この街――「巨塔街」の生活はどうかしら? 私が見る限り急速に発展しているようだけど辛かったり、苦しかったり、不満があったりはない?』と。
この質問にミキが真実味を持たせるため、竜人種側マスターであるヒソミを父としてイメージして返答。
結果、ライトに疑念を抱かせる切っ掛けになったのだ。
「あの後、改めて貴女が『巨塔』に来るまでの経緯を再調査させて、本気で調べ上げようやく齟齬を発見し、そこを辿って確証を得ることができた。むしろ逆によくあそこまで経歴を誤魔化せたと感心したほどだよ。さらにそれに加えてもう一つ、鑑定で貴女を確認させて貰ったんだ」
もちろんただの鑑定を使ってもミキの擬装したステータスは看破できない。
彼女の擬装を突破するほどの鑑定を使えば、ミキに気付かれる可能性が高かった。
しかし、ライト達には恩恵『無限ガチャ』がある。
鑑定が得意な『SUR、探求者メイドのメイ レベル9999』が、『SSR、存在隠蔽』を使用。さらに『無限ガチャ』から出た使い捨てブーストアイテムを使用し、ミキにばれないギリギリの距離から鑑定をおこなった。
気付かれないためギリギリの距離から鑑定をおこなったせいで、完全に確認することはできなかったが『レベル???? ??歳、人種、女性、召喚術師、ミキ』まで鑑定することが出来た。
レベルは不明だが、職業と名前は判明したため『巨塔』最大戦力のライト、ナズナを投入し、戦場となる大広間までアイスヒートに案内させたのだ。
完全に追いつめられたミキは、冷や汗を流しつつ、怯えた演技をしながら背後へと後退る。
出入口に少しでも近付こうとしていた。
「か、鑑定? 職業? レベルってなんのことですかぁ。ミキィはモンスターに両親を殺された可哀相なただの女の子ですよぉ」
「……まぁそう簡単に認めないよね。アイスヒート、やれ」
「了解しました、ライト様!」
ライトに命令されたアイスヒートが喜々として左腕のガントレットに力を込める。
「化けの皮を剥がしてやる、召喚術師! アイスバレット!」
アイスヒートが左腕のガントレットを振るうと、周囲の空気が凍結。こぶし大の氷塊が数十個精製され高速で発射される。
ただの人種少女なら、攻撃に反応も出来ずぐちゃぐちゃのミンチ状態となるが――。
「このクソガキ! 頭おかしいんじゃない!? ミキィのような可愛い女の子にする攻撃じゃないでしょ!」
先程まで弱々しい少女の演技をしていたミキだが、アイスヒートの遠慮のない攻撃に仮面を脱ぎ捨て全力で回避する。
「ッ、アイスバレットのせいで扉が凍って……!」
扉前から高速で離脱したせいで出入口から距離が出来てしまったのと、アイスヒートの『アイスバレット』によって扉が凍結されてしまった。
『アイスバレット』は氷塊による物理攻撃だけではなく、触れたモノを凍結させる追加効果もあるのだ。
だがミキにはまだ保険が残っている。
(念のために用意しておいたけど、まさかこんなに早く使う嵌めになるなんて! もう最悪!)
お気に入りのシリカや妖精メイド達をお持ち帰り出来ないのは非常に残念だが、命あっての物種だ。
「あいつらを刺し殺せ! 召喚『キラービー』!」
ミキの周囲に召喚陣が展開し、大きさ約30cmのスズメバチが大量に吐き出される。
この程度でライト達を倒せるとは考えていない。
(ミキィは他の召喚術師より『蜂』に特化して縛りをかけている分、強いけどそれほど戦闘が得意な訳じゃない! むしろ、直接戦闘は苦手で補助がメインなのに、あんなあからさまに強そうな奴らとなんか戦ってられないわよ!)
大量の『キラービー』を召喚し、足止めしている最中にさっさと離脱するため保険の切り札を切る!
「『マジックカード、空を駆ける翼』! ミキィをこのクソ塔から連れ出してぇ!」
ミキが手にした札が燃え出し、彼女を光が包み込む――が、それ以上の変化は無かった。
ミキが長距離転移アイテムが不発に終わった事実に、悲鳴のような声をあげる。
「う、嘘でしょ!? どうして『マジックカード、空を駆ける翼』が使えないのよぉ!?」
「この『巨塔』には転移阻害がかけられているので、当然の結果だよ」
「……ッ!?」
大量の『キラービー』に襲われているにもかかわらず、その向こう側から落ち着いた声音で事実を聞かされる。
「摂理をねじ曲げろ! プロメテウス!」
「深紅に燃えろ! ファイアーストーム!」
ナズナが大剣プロメテウスで複数の斬撃を発生させて、『キラービー』を切断。
アイスヒートが右手のガントレットから炎の嵐を発生させて蜂達を呑み込み、焼却していく。
ライトは2人に守られながら無傷で、衣服に汚れすら付けず歩きながらミキとの距離を縮めていく。
「さて、貴女を捕らえて『巨塔』に来た目的、組織的犯行ならその構成やメンバー、他知っている内容全てを吐いてもらおうか」
「ひぃッ!」
ミキはライトの迫力に、思わず一般的な少女のような悲鳴を上げてしまった。
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