20話 着替え?
朝、避難訓練で街の人々の一部が『巨塔』一階に集められると、褒美として朝食が振る舞われた。
その際、オタクっぽい妖精メイドのミスで、ミキの服にコーンスープがかかってしまう。
ギャルっぽい妖精メイドに連れられて、ミキは衣服を着替えて洗濯してもらうため『巨塔』一階奥へと向かう。
(奥に扉があるのねぇ)
『巨塔』一階奥に行くと、壁と同じ材質の扉があり塞がれていた。
扉を開くと階段があり、これも壁と同じ材質でシミ一つないほど真っ白だった。
そのまま妖精メイドの先導で階段を上がり2階へと上がる。
ミキは遠慮無くきょろきょろと興味深そうに内部を見渡す。
だが、一般的少女っぽい行動のため妖精メイドも特に注意しない。
廊下の角を曲がると、妖精メイドの足が止まる。
同時にミキの足も止まった。
「ッ!?」
彼女が驚きで息を呑む。
別に危険に遭遇したからではない。
目の前に妖精メイド達より美しい女性が立っていたからだ。
身長は約170cmで、女性としては高い。身長が高い分、胸もあり腰もくびれて足も長く非常にメイド服が似合っていた。
大きな目は切れ長で、鼻筋も通っている。
妖精メイド以上に整った容姿だが、可愛いや美しいと表現するより『凛々しい』という方がイメージとして近かった。
また彼女の最も特徴的な点は髪だ。
髪の毛の右半分が炎のように赤く、左半分が氷のように青いのである。
その美しさに、初めて見たミキは見惚れてしまうほどだった。
(な、何このメイド様は!? ちょーかっこいい美人なんですけど!?)
彼女もメイド服を着ているが、妖精の羽根が生えていない。
妖精メイドが慌てたように挨拶をする。
「おはようございますメイド長補佐様、どうしてここに?」
「手が空いたので、一階の様子を確認しに向かおうとしたのですが……そちらは?」
美女メイド――アイスヒートの視線が、妖精メイドの後ろに居るミキへと向けられる。
ミキは黒い欲望が出るのを必死に抑えつつ、笑顔を向けた。
その間に、妖精メイドが説明する。
「彼女の衣服を誤って汚してしまって……。洗濯と着替えて頂くために移動中なんですよ~」
「……貴女達は何をしているのですか。ご協力してくださっている住民の皆様に迷惑をかけるなど。魔女様のメンツを潰すつもりですか。まったく……」
「す、すみません~」
ギャルっぽい妖精メイドが恐縮し、謝罪の言葉を口にする。
ミキがフォローの言葉を告げるかどうか迷っていると、先んじてアイスヒートが口を開く。
「妖精メイド達が失礼をしました。ではアイスヒートが案内を替わりますから、貴女はお客様の着替えを取りに向かいなさい」
「ありがとうございます、メイド長補佐様。ではあーしは着替えを取りに向かいますね」
妖精メイドが挨拶をすると、ミキを置いてもと来た道を戻る。
どうやら着替えが置かれた部屋は別の場所にあるらしい。
ミキがその背中を見送っていると、アイスヒートが改めてミキに向き直り、案内を再開する。
「では、改めてここからはアイスヒートが案内させて頂きます」
「えっ、はい、お願いしますぅ?」
ミキが戸惑いながら挨拶を返すと、音もなくアイスヒートが歩き出す。
彼女はアイスヒートの背後をねっとりとした視線で見つめてしまう。
(まさかこんな美女が『巨塔』内部に居たなんて! 『C』様調査のため来たけど、美少女、美女、美少年が多くてちょー最高だよ! 『巨塔』に来てよかったぁ~。調査が終わったらこのアイスヒートちゃんもお持ち帰りしよう。絶対しよう! そしてミキィ無しじゃいられない体にしてあげないとぉ!)
ミキは胸中で『巨塔』に来れたことを感謝しつつ、アイスヒートを蹂躙する妄想をし続ける。
そうこうしていると、彼女の歩みが止まった。
どうやら目的地に着いたらしい。
アイスヒートは恥ずかしそうに目尻を下げつつ、ミキへと伝える。
「申し訳ありません。現在、空き部屋が大広間しか無く、こちらで替えの衣服が届くまでおくつろぎください。衣服が届き次第、着替えをお手伝いし、洗濯させて頂きますので」
「いえいえ、お気になさらずぅ。ミキィは魔女様達にいっぱいお世話になっているので、どこでも良いですし、いくらでも待ちますよぉ」
「ミキ様の寛大なご配慮に感謝いたします」
アイスヒートが深々と一礼する。
彼女が頭を上げると、扉を開き中へと促す。
「では、中でお待ち下さい」
「ありがとうございますぅ」
ミキはお礼を言いつつ大広間へと入った。
中は朝にもかかわらず暗い。
暗いが大広間だけあり、大きな空間が広がっているのは認識できた。
暗くて中へ進めず、困っているとアイスヒートが声をかけてくる。
「申し訳ありません。すぐに明かりを付けますので」
彼女が扉を閉めて鍵を『がちゃり』とかけると、明かりを探しにミキの側から離れる。
離れた時間は数秒だ。
突然、一瞬で夜から昼間に変わるように明かりがつく。
あまりに一瞬の切り替わりのため、ミキが明暗についていけず目を閉じてしまう。
ゆっくり、瞼を開き瞳を明かりにならすと――部屋の中心に3人ほど立っていた。
「こんにちは――いや、『朝だからおはようございます』かな。ミキさん。ようこそ『巨塔』へ」
部屋の中心に黒いフード付きマントに杖を握った少年――ライトが敵意をたっぷりと練り込んだ笑顔で声をかける。
その横に立っている甲冑に大剣を背負ったナズナが、腕組みして真剣な表情をミキに向ける。
最後に今まで案内していたアイスヒートが、先程まであったメイドらしい友好的な態度を変え、いつのまにか軽鎧に大きなごついガントレットを装着していたのだ。
ミキはようやく自分がどっぷりと罠に嵌ったことに気付いた。
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