21話 兄の意地
今日は21話を昼12時、22話を17時にアップする予定です(本話は21話)。
幻想級『グランディウス』を持つレベル1500のエルフ種と駆け出し冒険者達が戦った場合、どちらが勝利するかなど火を見るより明らかだ。
数分もかからずミヤを守るため剣を抜いた仲間達が胴体を深く切りつけられるなどして地面に倒れる。
「ひぃ、ひぃひぃ……ッ」
妹ミヤは杖を抱えて絶望に涙をこぼし、短い悲鳴を漏らす。
返り血すら浴びず兄達を斬って捨てたエルフ種、カイトが自身のステータスを確認する。
「チッ、やはりこの程度の小物じゃレベルは上がらないか。まぁいい、経験値の足しぐらいにはなるだろう。それに――」
「ひぃッ!」
カイトはゆっくりとミヤへと振り返る。
エルフ種特有の整った顔立ちに尖った耳、新緑色の瞳をゲスに歪め独り言を漏らす。
「不細工だが何日もダンジョンに篭もって溜まっていたんだ。ヒューマンにも時には役立ってもらわないとな、処理ぐらいには使えるだろう」
「い、いや、こ、こないで……」
「?」
ミヤは杖を抱えたまま後退る。
そんな彼女にカイトは心底『意味が分からない』と言いたげに首を傾げた。
「将来の英雄で、勇者の僕様が『使ってやる』って言ってるんだぞ? 何よりヒューマンの女が望む最も名誉なことはエルフ種の男に抱かれることだろう? なのにどうしてそんなに怯えて逃げるんだ。むしろ、喜んで涙を流すところだろ?」
カイトの言う『将来の英雄で、勇者』はともかく、『ヒューマンの女が望む最も名誉なことはエルフ種の男に抱かれること云々』はエルフ種男性が抱く典型的な誤解、人種差別の一つである。
いくら見た目が良くても明らかに自身を馬鹿にしている相手に喜んで付いて行く人種女性など居ない。
にも関わらず、エルフ種男性は『自分達が声をかければ、人種女性は速攻で落ちて抱いて欲しいと懇願してくる』と勘違いしているのだ。
それだけエルフ種は自身の美貌に自信があるのだろう。
「ミ、ヤ、逃げ、ろ……ッ」
「お兄ちゃん!」
カイトが首を捻っていると、背後でミヤの兄、赤髪のエリオが剣を杖代わりに立ち上がる。
彼はカイトとの一戦で深く腹を割かれていた。
血が腹の傷から流れ、床に血だまりを作る。普通の人種ならば動くことなど出来ない程の傷だ。
しかし真面目にダンジョンで鍛え、レベルを上げたお陰で人種の一般男性とは比べられない耐久力、体力、精神力を身に付けていた。
お陰で立ち上がることが出来たのである。
とはいえギムラやワーディのように胴を斬られた上に足を切り落とされていれば、立つことなど出来ないだろうが。
「げほッ、ごほッ!」
エリオが咳をすると血の塊を吐き出す。
彼は『自分は助からないだろう』と本能で理解していた。
再度たちあがれたのが奇跡の類である。
目の前の敵は遙か格上。残された命で出来ることは最後まで妹を護ることだ。
剣と盾を構え直し、叫ぶ。
「ミヤ、逃げろ! げほぉ……ッ」
「お兄ちゃん――ッ」
兄エリオに迫る死を感じ取りながらも、ミヤはその覚悟に涙を引っ込めて駆け出す。
「チッ、何を逃げてやがるヒューマンが! 虫けらの分際で僕様に手間をかけさせるんじゃねぇよ!」
カイトは妹の逃走に思わず舌打ちする。
元々姿を見られた以上、生かしておくつもりはない。
ダンジョン出入口まで逃がさない自信はあったが、途中で他冒険者に出会って自身の種族、特徴、武器、言動などを伝えられたら厄介だ。
故にすぐさま追いかけようとするが、死兵状態になった兄エリオが剣を振る。
「死に損ないが! 僕様の邪魔をするなッ!」
宝剣『グランディウス』を使うまでもない。
レベル差があり過ぎて、エリオが持つ剣では皮膚に傷一つ付けることは敵わず片手で弾かれるが、足止めにはなった。
「チッ……」
死に損ないを放置して妹ミヤを追いかけてもいいが、死ぬ間際に偶然通りかかった他冒険者にカイト自身のことを伝えられても厄介だった。
最善は兄エリオをさっさと殺害し、逃げた妹を追いかけることだ。
最善手を取るため、カイトはグランディウスを両手で握り構えて最速で首を刎ねようとするが、兄エリオの様子がおかしい。
彼は大量に出血し、意識を失いかけていたが、ブツブツと繰り返し何かを呟き続けていた。
「盾は護りに、剣は攻撃に絶対使わなければならないルールはない。護るだけが盾の役目ではない。剣もただ振り回すのではない。頭を使って敵の嫌がること、意表を突くことを考えて振るう――」
「な、なんだこいつ気持ち悪い」
半ば意識を失いブツブツと繰り返し何か『ゴールドの教え』を繰り返すエリオをカイトは気味悪がり、端正な顔を気持ち悪い物でも見たかのように歪めた。
……それが隙となる。
「!?」
兄エリオが手にしていた剣を投擲!
カイトも流石に剣を投げてくるとは想定していなかったのと、彼を気持ち悪がっていたせいでワンテンポ遅れてしまう。
剣で弾くのでもなく、腕で受けるでもなく、騎士団時代に染みこんだ訓練から反射的に体を動かし回避する。
そのタイミングに合わせて兄エリオが手にした盾でカイトの顔を打つ!
「ぐぅッ!」
極々基本的なシールドバッシュを顔面に受けてしまった。
ダメージはゼロだったが、回避に合わせて受けたため尻餅をついてしまう。
レベル1500のエルフ種が、レベル20にも届かない人種少年に土を付けられた形になる。
大金星と言ってよい偉業だ。
自身を見下ろす少年が、『してやったぜ』と言いたげにニヤリと笑ったのは決してカイトの見た幻なんかではない。
「~~~~~~~~~~~ッ! ちょ、調子に乗るなよヒューマンが!」
カイトは自身のミス、恥を誤魔化すように激昂し、跳ね起きグランディウスを振るう。
既に大量の血を失っているエリオに深く剣を刺し地面に縫い付けると、意識を残したまま痛みを与えいたぶるためにやたらめったら足で蹴る。
「楽に死ねると思うなよ! このヒューマン風情がッ! 僕様の高貴な顔に傷をつけたことを痛みの中で後悔しろッ!」
思わぬ反撃に激高し、劣等種、と叫びながらカイトはエリオをいたぶる。
そして、カイトが妹ミヤの逃走を許した事実を思い出すまで数分の時間を要したのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
兄エリオの戦闘シーンは書いて、本来さっくりと流す予定でした。
しかし妹を護るために立ち上がった兄、ゴールドの教えを忠実にこなす姿に熱が入り予想以上に長くなってしまいました。
こういう誰かを護るシーンは格好良いですよね。
また今日も2話を連続でアップする予定です。
21話を12時に、22話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は21話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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