17話 質問
リリス王女の2回目のレベルアップも順調におこなわれていた。
だがある程度レベルアップが進むと……モンスターを倒すだけなら順調だったが、レベル100がなかなか突破出来ない、という事態に直面する。
(僕の時も、レベル100を突破するのにメイが予想した以上の経験値を必要としたからな……。原生林に居る程度のモンスターじゃ突破するのは難しいのかも)
僕は胸中で考え込む。
(『悪夢召喚』が使えれば話は早いんだけど……レベル1000も超えていないのに、そんなの使ったら下手すれば敵と相対しただけで心臓麻痺で死ぬ可能性がある。流石にそんなマネさせられないしな)
方法を考えるが良い案は浮かばない。
リリスが即位するまでの課題となる。
一方、こちらが彼女のレベルアップに頭を悩ませている頃、リリスが軽い調子で『巨塔街』を視察したいと申し出てきた。
『獣人種大虐殺』から人数が増えたため、以前と比べてどのような変化があるのか、どれだけ発展したのか人種王国第一王女として気になっているらしい。
断る理由もないため、彼女の希望を了承。
後日、案内することになった。
――後日、約束通りリリスに『巨塔街』を案内した。
過去、リリスの『UR、2つ目の影』が『巨塔』を視察した事があった。当時は人数も現在ほど多くなく、リリスの顔を覚えている者は少ないと思うが、一応髪を染めて、いつもと違う化粧で誤魔化す。
冒険者パーティー『黒の道化師』の臨時メンバーとして街を案内した。
変装して彼女を連れて回るより、自然に見えるためこの方法を採用したのだ。
そんなリリス――偽名でリリアーナが仕事途中で、店の少女達に話しかけたのだ。
僕は慌てて止めようとしたが、遅かった。
ここで強引に遮っても不自然なため、もうリリスの流れに任せるしかない。
リリスはニコニコと笑顔で少女達に質問をする。
「この街――『巨塔街』の生活はどうかしら? 私が見る限り急速に発展しているようだけど辛かったり、苦しかったり、不満があったりはない?」
「…………」
この質問に少女達が答えるより早く、ネムムが機嫌を悪くする。
マフラーで口元を隠しつつ、リリスの背後で眉間に皺を寄せる。
彼女の表情は『ライト様がエリー様を通して統治している街に、不満などあるはずないでしょうが!』と激しく訴えていた。
気持ちは嬉しいが落ち着いて欲しい。
ここでレベル5000のネムムが本気で殺意を露わにしたら、僕とゴールド以外タダではすまない。
『SSR、道化師の仮面』越しに視線で『落ち着いて』と彼女に訴え続けた。
これが功を奏したのか、リリスと少女達にネムムの殺気に気付かれず話が進む。
「えっと……り、両親が行商人で店を持つことが夢でした。両親はモンスターに襲われ、わたしも一度奴隷として命を落としそうになりましたが、『巨塔の魔女』様、妖精メイド様達のお陰で両親の夢を叶えることが出来ました。わたしもこうして五体満足で生活できています。楽しいことばかりではなく苦労も多いですが、やり甲斐は非常にあります」
突然かけられた見慣れない女性冒険者からの質問にも、店を営んでいる少女は素直に答えた。
この辺り、商売をしているというのもあるのだろうが、彼女の人の良さが滲み出ている。
また、エルフ女王国から助けた人種を放置する訳にもいかず、『巨塔』周辺を開発し街にしたが、こうして喜んでもらえると助けてよかったと思う。
次、いつもの店番少女ではない、見慣れない少女が答える。
「ミキィもシリカちゃんと同じで、両親が元行商人でモンスターに襲われて。ミキィも奴隷になっている所を助けられて、『巨塔』に来たんですぅ」
もう1人の少女『ミキ』は随分と甘ったるい喋り方をするな。
美少女ではあるが、『奈落』最下層では見ないタイプだ。
彼女が話を続ける。
「ミキィは昨日来たばかりだから、シリカちゃんのような感想は言えませんけど、魔女様、妖精メイド様には感謝してますぅ。行商人で、胡散臭い細目のパパがいつも口にしていた夢、自分の店――シリカちゃんとだけどこうしてお店の一部を任されたんですからぁ。行商人の娘として感謝してもしきれませんよぉ」
「…………」
行商人にとって自身の店を持つことは一般的な夢だ。
シリカとミキ、どちらの両親も行商人なら決してありえない話ではないが……。
僕は仮面越しにミキに対して目を細める。
リリスは気付かず、話を続けた。
「良くしてもらっているならよかったわ。それじゃ次はこの街のことをどう思っているのかしら?」
彼女はそれから10分ほど2人に対して質問攻めをする。
歳の近い少女達のため話しやすかったのだろう。
さすがにそれ以上は邪魔になるため、無理矢理割って入って、店を出た。
別れ際、シリカはようやく店の準備に取りかかれるとほっとしていた。
一方、ミキはこちら――特に僕、ネムム、リリスに対して興味深そうな視線を向けていた。
ステータスを確認する限り、普通の人種のものだ。
しかし、彼女の先程の発言や独特の口調のせいもあるのかもしれないが、どうしても違和感が拭えない。
――配達も終わり、街の案内も終わってリリスを帰した後、ネムムが僕の側で不満を漏らす。
「リリス様の人種を慈しむお気持ち、努力は認めますが、ライト様がエリー様経由で治める街に不満や問題があるかのような発言をするなんて! ライト様が指揮している以上、『巨塔街』は地上の楽園で、住民達は皆が幸福に決まっているのに! ライト様、エリー様達ではありませんが、やはりリリス様は少々問題なのではありませんか?」
アオユキとエリーがリリスに対して一線を引いていることは、『奈落』最下層では有名な話だ。
ネムムも耳にしたのだろう。
しかし、僕は彼女の発言に首を横に振った。
「『巨塔街』が地上の楽園かはともかく、むしろ彼女のお陰で気になることが出来た」
「気になることですか?」
「うん、僕の勘違いであればいいんだけど……」
『奈落』最下層廊下を歩きながら、今朝寄ったシリカ達の店の一件を思い出したのだった。
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