15話 蜂
一通りミキに『巨塔街』の案内を終えると、商店兼自宅へと帰宅。
シリカはミキと一緒に夕飯を作った。
彼女達のように家があり、台所があって、しっかりと料理できる環境に居る者ばかりではない。
未だに『N、プレハブ』生活を送っている者達も居た。
……『N、プレハブ』でも、人種にとっては他国の街、村などに比べたら圧倒的に過ごし易いが。
また、そういう者達のために『巨塔街』では炊き出しをおこなっていた。
基本的に、炊き出しが必要な者達が優先だが……自分達で作るより美味しいのと、美人で可愛らしい妖精メイド達が料理を振る舞ってくれると評判なため、余った分は必要がない者でも食べて良いことになっている。
その量は多くないため、一部ではプレミアム化しているとか。
――話を戻す。
シリカとミキは、自分達で作った料理を談笑しながら食べた。
日が暮れたら、ランプや魔術によって光るマジックアイテム等で部屋を照らすことも出来るが、勿体ないためさっさと寝るのが一般的だ。
シリカ達も例に漏れず沸かしたお湯で体を拭き、自室ベッドへと潜り込む。
「……んぅ……」
数時間後、シリカの鼻孔を甘い匂いが満たす。
蜂蜜を濃縮したような甘い匂いで、嗅ぎすぎると頭が痛み出してしまいそうだった。
シリカはそんな甘い匂いを嗅いだせいか、頭が上手く回らず未だに夢を視ているようだった。
頭がふわふわしてまともに考えることが出来ない。
「シリカちゃん、起きてベッドの端に座りなさい」
「……はい」
鍵を掛けたシリカの自室になぜか、ミキと約1mもある巨大なスズメバチモンスター『クイーン・フェロモン・ビー』が机の上に乗り、無機質な瞳で見つめていた。
理性があるシリカだったら悲鳴を上げて、逃げ出そうとしていただろう。
しかし、今の彼女は意識が薄い、ぼんやりとした表情でミキの指示通りベッドに座り、逃げようとする素振りすら見せない。
『クイーン・フェロモン・ビー』の下位にいるモンスターである『フェロモン・ビー』は、獲物をフェロモンで誘って襲いかかり仕留める習性を持つ。
『クイーン・フェロモン・ビー』は『フェロモン・ビー』より強いフェロモンで彼らを操り、指示を出したりする。
しかし、一般人とはいえこれほど効果を現すほど『クイーン・フェロモン・ビー』のフェロモンは本来ならば強くない。
ではなぜシリカに効果があるのか?
原因はミキだ。
「どうやらちゃんと効いているようねぇ」
『キキキィ』
ミキの言葉に返事をするように『クイーン・フェロモン・ビー』が鳴く。
彼女は『レベル6000、召喚術師、ミキ』だ。
LVの値は本当は6000よりも少しだけ上だが、キリが良いのでそう自称している。
ミキは虫のなかでも蜂に縛りをかけ能力を特化した召喚術師である。
お陰で『クイーン・フェロモン・ビー』のフェロモンが人に影響を与えるほど強化したり、召喚する際、能力を付与することすら出来た。
レベルが上がれば上がるほど、力を強化、付与できる幅も広がる。
『クイーン・フェロモン・ビー』のフェロモンは密室で、相手が低レベル、無防備な状況でなければ効果は発揮されない。
それほど万能な能力でもないが、効果があれば相手を催眠状態にして相手が知る情報を引き出すことが出来る。
情報収集には打って付けの能力だ。
ミキは笑みを浮かべつつ、シリカに問う。
「それじゃ早速質問するわねぇ。隠さず全て答えるのよぉ」
「……はい、分かりました」
とろりとした瞳でシリカが返事をする。
「今日、『巨塔街』を色々案内してくれたけど、隠している秘密は無いのぉ?」
「……はい、ありません」
「シリカは『巨塔の魔女』に会ったことはあるかしら? もしくは『巨塔の魔女』が何者か知っている?」
「直接会ったことはありません。人種王国の王子様と王女様を連れて案内している時、お声をかけてくださったことはあります。『巨塔の魔女』様は『巨塔の魔女』様です」
「ふ~ん……正体までは知らないようね。なら『巨塔の魔女』は美しかったかしら?」
「はい、顔はフードで見ることは出来ませんでしたが、声や雰囲気、体つきから非常に美しい人だということはわたしでも理解できました」
シリカの返答にミキは笑みを深くする。
『噂はどうやら本当のようね』と、彼女の獣欲を激しく刺激するが、表に出すより尋問を進めた。
「なら『巨塔』内部に入ったことはあるかしらぁ? もし入ったことがあるなら、どんな所か教えてちょうだい」
「『巨塔』1階に入ったことがあります。外と同じ真っ白な色をしていました。1階の中には大きな柱が何本も立っていて、見上げるほど天井も高かったです。1階以外に上がったことはありません」
「2階以上に上がった人で知っている人は誰かいるのかしら? それと『巨塔の魔女』は『巨塔』に住んでいるのぉ?」
「噂では人種王国の王子様とお姫様が2階以上の場所に泊まったらしいです。魔女様はあの『巨塔』に住んでいるらしいです」
「なるほどねぇ……なら次は――」
ミキは次の質問に移る。
質問を開始して1時間以上が経過した。
催眠状態とはいえ、ずっと喋りっぱなしのシリカが疲れを見せ始める。
翌朝の違和感を少しでも減らすため、最後の質問をして終わりにした。
「これは最後の質問だけど、『C』様を知っている? もしくは聞いた事はないかしら?」
「いいえありません」
「……そう。『C』様が本当に『巨塔』に居るとしたら上手く隠れているのか。それとも本当に居ないのか。ちょっと判断つかないわねぇ」
一通り聞きたいことを終えると、シリカをベッドへと寝かせた。
再びベッドに潜り込み、穏やかに眠るシリカの顔にミキは自身の顔を近づけた。
「シリカちゃん、可愛いわぁ。この子のお腹をくちゅくちゅしたらいったいどんな可愛い声をあげてくれるのかしら? あぁぁ! 今すぐミキィのコレクションに加えたい! でも、初日で彼女を襲ったら折角潜入した意味が無くなるしぃ。もう本当に罪な娘ぉ」
ミキは長く赤い舌で、べったりとシリカの頬をゆっくりと味わうように舐める。
「うふふふ……一通り調査を終えたらシリカちゃんを連れていこうかしらぁ。それとも妖精メイドさんを優先しようかしら。悩むわねぇ」
ミキはベッドから体を起こすと、自身の欲望を最も満たすのが何かを考え込む。
考え込みながらも、調査情報を紙に短く纏め、召喚した小さな虫――『シャドー・ビー』の足に縛りつけた。
『シャドー・ビー』は気配が確認され辛く、森などで奇襲をしかけてくる虫モンスターだ。
ミキの力で気配遮断能力をさらに強化したタイプである。
「『巨塔』は入るまで頭が痛くなるほど厳重だけど、内側に対してはけっこう無防備よねぇ。敵意有る存在を確実に排除できる自信の現れかしら。実際、そこらの手練れ、並のマスターじゃ『巨塔』の内側に入り込むのは不可能だしね。自信を持つのは当然ねぇ。でも、今回はその隙を遠慮無く使わせてもらうわぁ」
ミキが部屋の窓をソッと開けると、羽根音も無く『シャドー・ビー』が夜闇へと消える。
ミキは無事に飛び立った『シャドー・ビー』を見届けると、ベッドで眠るシリカを勿体なさそうに見つめつつ『クイーン・フェロモン・ビー』と共に部屋を出て自室へと戻る。
シリカの部屋は最初からシリカしか居なかったかのように、ミキの痕跡一つすら無くなったのだった。
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