14話 外苑部
午後、シリカは宣言通り、ミキを外に連れ出し『巨塔街』の案内をする。
「食事をするならここがお勧めだよ。さっきの食堂は外で体を動かしている男性のお客さんがメインだから、量が多くて味が濃いの。わたしだと半分も食べたらお腹いっぱいになっちゃうよ。だから、個人的にはここが量もちょうど良くて、味も良いからお勧め」
年齢的にはシリカの方が年下だが、『巨塔街』の住む先輩としてお勧めのお店や井戸の場所、市場、飲食や衣服のお勧めの店を教えていく。
ただ人口規模に対してお店が少ないのは、商人のなり手が少ないためだ。
故にお勧めする店はそう多くない。
こればっかりは孤児院の子供達が育ち、その道に進むか、外部から商人を連れてくるしか方法はなかった。
『妖精メイドが店番をすればいい』という意見もあったが却下された。
妖精メイド達は『巨塔街』を運営する役人や官僚のような立場だ。
学校の教師役などはともかく、商店の運営をするほど暇ではないし、自立を促すべき立場だ。
それは保護された人種の領分である。
またもう一つ、妖精メイド達が手を出さない、不干渉な活動があった。
その活動とは……
「それじゃ次は――あっ」
「どうしたの、シリカちゃん? あれって……」
シリカが店の角を曲がると、道を行き交う人々に声をかける一団を目撃する。
彼女はその一団に気付くと、微妙そうな表情で短く声を漏らしてしまう。
ミキはシリカに首を捻りつつ、彼女が声を漏らした原因の一団へと目を向ける。
集まっている集団は、人種で金髪を縦ロールに巻いた釣り目の美少女が中心となって、積極的に声をあげていた。
「『巨塔教』、『巨塔教』に是非入信し、皆で『巨塔の魔女』様、妖精メイド様、聖女ミヤ様へ感謝の言葉、気持ちを伝えていきましょう!」
彼女の周りに居る大人達も彼らの主張を書いた板を持ちながら、似たような声をあげる。
金髪縦ロールは白と赤を基調にした神官風の衣装を身に纏い使命感に燃えた表情で、再度勧誘の声を高々とあげる。
ミキは興味深そうにシリカへと問う。
「シリカちゃん、あれって何ぃ? 『巨塔教』なんて初めて聞いたんだけどぉ」
「あーうん……ここじゃなんだし、場所を移動しながら話すね」
シリカはミキの手を掴むとやや足早に『巨塔教』の前を通り過ぎる。
彼女達のように人種が足早に通り過ぎる者がちらほらといるが、『巨塔教』神官を自称するクオーネ、他信者達は負けずに勧誘のための声をあげ続けた。
シリカは街の案内を切り上げ、郊外へと向かいつつ話をする。
人通りが多い街中でする話ではないからだ。
外縁部に向かっているため、周囲に人気が無いのを確認してからシリカが説明を始める。
「あれは最近できた『巨塔教』なの」
『巨塔教』を簡単に説明すると『巨塔の魔女』、妖精メイド、聖女ミヤを崇める宗教だ。
「『巨塔の魔女』様、妖精メイド様は分かるけど聖女ミヤ様ってぇ?」
「『人種人質救出事件』で活躍した魔術師のミヤっていう女の子だよ。『巨塔の魔女』様、妖精メイド様もだけど、そのミヤっていう女の子のお陰で多くの人種が助かったから、『聖女ミヤ』として『巨塔の魔女』様、妖精メイド様と同じように崇めているの」
シリカは溜息混じりに肩をすくめる。
「『人種人質救出事件』で実際、聖女ミヤに助けられた人達の多くが入信しているけど……わたしのように前から居る人達は良く分からないという理由であまり入信していないの。だって『巨塔の魔女』様、妖精メイド様を崇めるのは分かるけど、ただの魔術師の人種を聖女として、魔女様達と一緒に並べるのは抵抗があるんだよね……」
正確には――『巨塔の魔女』が神に近しい存在、妖精メイド達が使徒、ミヤが聖女と定められている。
順列的には『巨塔の魔女』が一番上で、次に妖精メイド、最後が聖女ミヤになる。
だがシリカのように初期から居る人種は突然聖女と言われても本物なのか、と思う者もいる。
以前など、『取り締まるべきだ』と主張を妖精メイド達に直訴した者もいた。
しかし妖精メイド達はこの直訴を却下。
むしろ、『巨塔教』を容認する発言をしたのだ。そのためか『巨塔教』が勧誘行動を取っても妖精メイド達は注意などせず不干渉を貫いている。
もちろん迷惑行為をおこなった場合、ちゃんと注意するが。
「つまり、『巨塔教』って魔女様、妖精メイド様の公認ってことなのぉ?」
「それがいまいち分からないの。『巨塔教』を容認したけど、積極的に広めるような発言もしていないから……。だから、わたし達も入るべきか、入らないべきか分からず距離を取っている状態なんだよね……」
ライト的には街の統治、人種関係の問題にかかわる大義名分的にも有効で、実際ミヤの行動が聖女的だっため黙認した形だ。
『奈落』最下層の絶対的主であるライトが黙認したのなら、『巨塔の魔女』エリー、妖精メイド達に否は無い。
彼女達も積極的に援助はしないが、邪魔もしない黙認状態となったのだ。
そうこう話をしていると『巨塔街』の一番外、外縁部が見えてくる。
「これは……凄い光景だねぇ」
「でしょ? わたしも最初見た時は驚いちゃったよ」
驚くミキに、シリカが楽しげに返事をする。
彼女達の目の前でドラゴンが妖精メイド達の指示の元、木々を倒し根っこを引っこ抜いている。
人種男性達が、木々の根っこの処理する作業に取り掛かり、空いた穴を土で埋める。
その際の指示出しも妖精メイド達がおこなっていた。
見て分かる通り未だに『巨塔街』は拡張を続けている。
現在でも十分だが、将来に備えて広げているのだ。
シリカがなぜここに連れてきたのか、話を始めた。
「一応、ドラゴンさん達が森の外から侵入しようとしてくるモンスターを防いでくれているけど、普段は危ないから近付かないようにね。迷って外縁部まで来ちゃったら、妖精メイド様やドラゴンさん達に声をかけて帰る道を聞くこと。ドラゴンさん達も見た目はちょっと厳ついけど、襲ってくることはないし、わたし達の言葉も理解できるから怖がらず話しかけてね」
「うん、わかったわ、シリカちゃん」
シリカの言葉にミキは素直に同意した。
同時に、
(妖精メイドがレベル500、ドラゴン達もレベル500から1000を超えるモノまで居るなんて……ダイゴが見たら、狂気乱舞して襲いかかりそう。ミキィ的にはレベルアップより、妖精メイドさん達がどれも噂以上に好み過ぎて今すぐにでも食べちゃいたいィ。あぁぁぁ……あんな可愛くて綺麗な娘達は、お腹に生きたままミキィの手を入れたら、どんな声をあげるんだろうぉ。想像しただけで濡れてきちゃったぁ)
『!?』
外縁部で仕事をしていた妖精メイド、ドラゴン達が怖気を感じて振り返る。
視線の先には仲良く手を繋いだ少女達が立っていた。
シリカが首を傾げつつも、自分達を見てくる妖精メイド、ドラゴン達に好意的な笑みを浮かべ一礼する。
ミキも彼女同様、邪心など一欠片も無いと言いたげな無垢な笑顔で頭を下げた。
妖精メイド、ドラゴン達は、怖気の正体が分からず、首を傾げる。
暫く、きょろきょろと辺りを見回し、原因を探ったが見つけることが出来ず『気のせい?』と考え、再び開発作業に戻る。
彼女達は最後までミキの正体に気付くことはなかった。
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