13話 注意事項
「本当に来てくれてありがとうだよ、ミキちゃん!」
「ううん、ミキィこそシリカちゃんのような可愛い女の子と一緒に生活出来て、ちょーラッキーだよぉ。ミキィ、『巨塔』に来て不安だったけどシリカちゃんが側に居てくれたら頑張れそぉ」
店舗2階リビング。
シリカと一緒にお店を運営する少女、ミキを無事に迎入れる事が出来た。
彼女もシリカ同様、行商人の娘で両親はモンスターに殺害。他に頼れる身よりも宛ても無く、奴隷へと身を落としたが、運良く『巨塔』に発見されて『人種絶対独立主義』によって解放された。
――だがそれは表向きの素性。
ミキの実際の正体は、魔人国に属するマスターの1人だ。
『巨塔』が救出することになっていた奴隷達の居場所を、事前にミキとその仲間達が入手。『巨塔』に紛れ込むため『両親がモンスターに殺された元行商人の娘』ということにして、奴隷の振りをしていたのだ。
お陰で無事、疑われることなく1人種として紛れ込むことに成功する。
『巨塔』の審査・調査をパスしたミキを、一般人のシリカが見抜ける筈もなく、にこにこ楽しげに話をしながらお茶を飲む。
「ミキちゃん、着いたばかりで疲れているでしょ。今日はお店も定休日だから、午前中はこのままのんびりしよう。そして午後から、『巨塔街』を案内するね」
「わぁい! 『巨塔街』って、今まで見たこともないほど活気があるから、ちょー楽しみぃ」
『巨塔』を中心として発展している街を住人達はいつの間にか『巨塔街』と呼ぶようになった。
ミキの指摘通り、現在の大陸で最も人が増えており活気がある街だろう。
『獣人連大虐殺』で救出した人質、元奴隷が加わり 人口が1万人を突破。
妖精メイド、ドラゴン達が日々協力していたため土地やインフラなどは問題無かったが、彼らが暮らす家、収入を得る仕事、食べるための畑を耕し管理する人手などが圧倒的に足りていなかった。
ライトの恩恵『無限ガチャ』で密かに手を回し賄うことは余裕だが、それでは何時まで経っても『巨塔街』へ来た人種は、自立することが出来ない。
故に時間がかかったとしても、雇用を作るためにも自分達で家を造り、畑を耕し食料を作り出し、元職人達が生活必需品の製造を始めた。
お陰で現在進行形で約1万人の人々が住む街が急ピッチに出来上がっている状態だ。
そのせいで非常に活気がある街になっているのだ。
とはいえ、全てが良い方向に好転している訳ではない。
「街を案内するのは任せて。色々楽しい所やお勧めの美味しいご飯が食べられる所も案内してあげるね。でも――」
笑顔でニコニコ、ミキの正面でお茶を飲んでいたシリカが真顔になる。
「街を案内する前に、『巨塔街』では決してやってはいけないことを今のうちに教えておくね。絶対、外ではやってはいけないことを」
「し、シリカちゃん、なんだか口調がとっても怖いよぉ」
「あははは、ごめんね。でもミキちゃんのためにも本当に気を付けないといけないことだから……」
シリカはカップをテーブルに戻すと、軽く咳払いしてから『巨塔街』では絶対にしてはいけないことを教えた。
「まず犯罪行為は当然しちゃ駄目として、『巨塔の魔女』様と妖精メイドを馬鹿にするような言葉は絶対に使わないで」
「使うとどうなるのぉ?」
「周りの人から睨まれて、怒られるのは当然として、無視されたり、買い物で商品が買えなかったり、距離を取られたりするの」
早い話が、村八分状態である。
だが、これはまだ温い方だ。
「そして例えどれだけ妖精メイド様達が同性のわたし達の目から見ても可愛くて、美しくても、決して口説いたり手を出そうとしちゃ駄目。あと妖精メイド様に怪我をさせようとしたり、まして殺そうとしちゃ駄目だよ」
「もしだけど、したらどうなるのぉ?」
「以前、ある奴隷の人種男性が居たんだけど……」
その人種男性も、『巨塔の魔女』のお陰で不当な扱いをされていたエルフ種から解放され、『巨塔』へ移動。
人の手で『巨塔街』の建設が始まった頃、彼は建設のサポートに来た妖精メイドの1人に、日が暮れた人気の無い場所で襲いかかってしまった。
ミキが不安げに問う。
「ミキィ、こわ~い。妖精メイド様はどうなったのぉ?」
「妖精メイド様はお強いから、人種男性に襲われても全然大丈夫だったらしいよ。でも、男性の方は――」
シリカが声のトーンを落とす。
「妖精メイド様を襲った男性は……最初から居なかったことになったの」
「居なかったこと?」
ミキが『意味が分からない』と言いたげに首を傾げる。
シリカが話を続ける。
「妖精メイド様達が言ったの。『妖精メイド達を襲うような不埒者など居るはずが無い』って」
つまり、『巨塔の魔女』に助けられたにもかかわらず、恩を仇で返すようなマネをする者達など『巨塔街』にはいない。
『巨塔の魔女』の威光を理解しない者など『巨塔街』には存在しない――つまり彼はこの場所から追放され、『自らを奴隷に堕とす様な元の世界』に戻ることになったのだ。
以後、誰もその男の名前も言わないし、子供だって口にしない。
本当に『最初から居ない者』として扱われるようになったのだ。
「だから言い忘れてたけど、そういう人の存在を人前で口にしちゃ駄目だからね。この『巨塔街』には魔女様や妖精メイド様への恩義、威光を忘れて逆らうような人は始めから1人だっていないんだから、ね?」
「…………」
ミキはシリカの言葉にドン引きした表情を造りながらも、無言で頷く。
シリカは彼女の頷きに満足げ笑みを作り、お茶に再度口を付けた。
「お昼ご飯を食べて、少ししたら街を案内するから、それまではのんびりしてて」
「う、うん、ありがとうねシリカちゃん……」
ミキはドン引きした表情のまま彼女へ返事をする。
シリカの言葉通り、お昼を食べた後、少し休憩。
午後過ぎ、ようやくミキを案内するため2人揃って店を出たのだった。
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