12話 シリカとお店
「よいっしょ、と……うん、綺麗になったね」
『巨塔』を中心とした街の一角で、1人の少女が店の前を掃き、掃除をし終える。
彼女――シリカは、ゴミ箱を店の裏に運び、指定された位置に置く。
1日置きにゴミを回収しに来る業者が、ゴミ箱の中身を回収しに来るシステムになっていた。
彼女は店の掃除を終わらせると、中に入って手を洗い身支度を調える。
「今日は新しい娘が来るって話だし、汚れた恰好のままじゃ不味いから、早く着替えないと」
シリカは汚れた手を洗い、私室へと戻り掃除で汚れた衣服を脱いで、洗濯をした綺麗な物へと着替える。
彼女――シリカはモヒカン達に『巨塔』近くで助けられた少女だ。
彼女は、両親共々行商人として人種王国内部を行き来していた。
その途中、モンスターに襲われ両親が死亡。
シリカだけは運良く生き残ったが、人種の少女1人では生きていくのが難しく、奴隷に堕ちてしまう。
紆余曲折あり彼女はエルフ種に奴隷として買われ、先導役兼モンスターのエサとして原生森林を歩かされた。
しかし途中でエルフ種がモンスターに襲われて周りの人種は死亡。『自分も食べられる』と怯えたが、モンスターは無視して森へと消えてしまった。
その後、モヒカン達に助けられて森を出ると、人種商人に彼女の所有権が移動。
そのまま奴隷として生きて、死ぬのかと思っていたら――『巨塔の魔女』と名乗る人種女性が、エルフ女王国を陥落。
『巨塔の魔女』はエルフ女王に『人種絶対独立主義』を認めさせ、国に正式な法律として布告、人種を奴隷にすることを禁止させた。
お陰で原生森林出入口近くで商売をしていた商人が抱える奴隷――シリカ自身達もこの法に引っかかることになり、『巨塔』に引き取られることになったのだ。
以後も人種の元奴隷などが集められ、人口が加速度的に増加。
『巨塔』周辺も最初の頃は100m前後の木々を伐採、整地していたが……現在は数kmに渡って開発された。
住宅、畑、井戸、商店なども次々建てられている。
一番の目玉は孤児院兼学校だ。
『巨塔の魔女』の指示で、まだ幼い子供は学校へ入れられる。
学校では子供達がなかば強制的に集められ読み書き、計算、運動、教養などを学ばされることになった。
孤児院の運営、子供達の世話などは元奴隷人種女性が。
学校の教師は妖精メイド達が務めていた。
シリカも年齢で言えば、学校に通っていてもおかしくないのだが……。
「はぁ……まさか文字の読み書き、計算、礼儀作法が出来るから、今更入っても無意味だから入学出来ないなんて……」
着替え中に思い出し、溜息を漏らす。
シリカは元行商人の娘ということで、読み書き、計算、礼儀作法の基礎は出来ていた。
学校はこれらの最低限の基礎を教えるために存在するのだ。
既に習得している者が通っても意味はない。
むしろ、『巨塔』側は元行商人の娘であるシリカに別のことを求めた。
それは――商店の運営である。
「まさかお父さん達の夢をわたしが叶えることになるなんて……人生って本当に分からないな」
簡素なワンピースに袖を通しながら、少女が大人びた台詞を溜息混じりで漏らす。
人種行商人にとって店を持つことは代表的な夢である。
外を行き来する行商人に比べて圧倒的に危険は少なく、安定した生活を送れる等が人気の理由だ。
だが簡単に店を構えることは出来ない。
理由は莫大な資金が必要になるからだ。
故に親子代々で貯蓄するか、冒険者として一山当てるか、運良くパトロンを得るしか方法が無い。
シリカはある意味、運良く『巨塔の魔女』というパトロンを引き当て、店を構えることが出来たのだ。
ではなぜ『巨塔』はシリカに商店を一つ任せるようなことをしたのか?
『獣人種大虐殺』――『巨塔の街』ではそうとは呼ばれず、『人種人質救出事件』と呼ばれている。
この『人種人質救出事件』によって、『巨塔』周辺の人口が1万人を超えた。
『巨塔の魔女』に仕える妖精メイド、ドラゴン達の力で人口を許容できるほど土地や建物、インフラは十分あったが……特殊技能を持つ人材は足りなかったのだ。
人口に対して商人経験を持つ者が少なく、元行商人の娘で商売人として一定のレベルを超えるシリカに白羽の矢が立ったのは必然である。
(わたし1人じゃ大変だから、あと数人……せめて1人人手が欲しいって妖精メイド様に訴えていたけど……男の人しかいなかったんだよね)
商人経験のある成人男性はシリカ同様、店を持たされ運営させられていた。
結果、補助を担当できるのは男性しかいなかったのだ。
シリカは反射的に体を震わせる。
エルフ種男性に奴隷として買われ、先導役兼モンスターのエサとして原生森林を歩かされた。
その後、エルフ種がモンスター……『スネークヘルハウンド』に頭から喰われ、モヒカン達に救助。
人種商人に売り払われるも丁寧な扱いを受けた。
モヒカンや人種商人のお陰でそこまでの男性恐怖症ではないが、シリカとしてはやはり男性よりは女性の方が気が楽だ。
正直、見ず知らずの男性と一つ屋根の下で暮らす度胸はシリカに無かった。
しかし、少女1人で店の運営は体力的に厳しい。
なので妖精メイド達に、『歳の近い少女か、女性の従業員を増員して欲しい』と嘆願したが、基本元奴隷か、ただの村人で、商売に必要な計算、礼儀作法、読み書きを身に付けている女性は少なかった。
居ても他の重要な施設へ優先的に配置されてしまう。
(この際、わたしがメインで動いて、物覚えの良い女性を補佐して教えて育てた方がいいかも。最初はわたしへの負担が大きいけど、成長してくれたら一気に楽になるし……)
あまりに適切な人材が居ないため、そんな事を考えるようにもなってしまった。
だが、天はシリカを見捨てていなかった。
妖精メイドから、シリカの要望に沿った人材が見つかったと告げられる。
彼女同様に両親が行商人で、モンスターに殺害された少女らしい。
一通り読み書き、計算、礼儀作法も出来るため学校に通う必要はなく、本人も商売に関わることを希望しているとか。
この連絡を受けたシリカは、モヒカン達に助けられたレベルで感動を覚える。
「これでもう1人で品物の受け取り、品出し、掃除、開店準備、接客、帳簿、報告、商品の購入手続きなどなど、全部やらなくていいんだ!」
妖精メイドから報告を聞いた後、二階の自室の部屋で狂喜乱舞してしまう。
そんな彼女の救世主である少女が、今日、この店に訪れることになっていた。
故に彼女は店を閉めて、周りを念入りに掃除して、良い印象を持ってもらおうと一番綺麗な衣服に袖を通したのである。
『すみません』
「!? 来た!」
シリカが一通りの準備を終えると、一階の店前から声が聞こえてくる。
彼女は階段を下りて、扉の前で一端立ち止まり髪の毛を直し、呼吸を整え、衣服の乱れをチェックした。
問題が無いことを確認すると、彼女は扉を開く。
目の前に、シリカと苦労を分かちあってくれる美少女が立っていた。
「初めまして、今日からこちらのお店にお世話になるミキィです」
やや媚びた笑顔だったが、妖精メイドにも負けない美貌を持った美少女が目の前に立っていたのだった。
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