11話 クマ獣人種の事情
「兄貴! 姐さん、坊ちゃんじゃありませんか!? 戻って来てくださっていたんですね!」
冒険者ギルドを出て、以前泊まった宿に向かう途中、聞き覚えのある声に呼ばれる。
振り返ると、僕達に絡み、ゴールドに更生されてから慕ってくるようになったクマ獣人達が立っていたのだ。
彼らは遠目でも分かるほどキラキラした目で、僕達へと駆け寄ってくる。
「兄貴達、戻って来てたんですね! なら俺達に声をかけてくださいよ!」
「すまぬ、すまぬ、我輩達も今日着いたばかりでな。オマエ達も壮健だったか?」
「もちろんですよ、兄貴! それに街で『騎士道精神』が足りなくて悪さをしている輩が居たら、兄貴が俺達にしてくださったように、俺達がそいつらに『騎士道精神』を叩き込んでやったりしましたよ!」
「おお! それは素晴らしい行いをしていたのだな! これからも『騎士道精神』を忘れず精進するのだぞ?」
『ありがとうございます、兄貴!』
クマ獣人、彼の部下達も一斉に声をあげる。
僕とネムムは彼らのよく分からない熱量に少しだけ困惑するが、ゴールドは満足げに腕を組み何度も頷く。
地上に出て活動しているとゴールドやネムムの知らない一面が見られて、ある意味面白い。
「それで兄貴達はまたここで冒険者を?」
「いや、少々所用で寄ったのだ。数日したらまた出立するぞ」
「そうですか……ならある意味タイミングが良かったです。実は俺達、自国……獣人連合国に戻ることになりまして。最後に兄貴達に挨拶が出来て本当によかったですわ」
「獣人連合国に戻るの?」
僕はつい聞き返してしまう。
クマ獣人が頷き話をしてくれた。
「実は俺の父親は獣人クマ種でも上の地位にいて……ここだけの話なんすが、獣人連合国が人種を人質にして『巨塔の魔女』っていう人種に喧嘩を売ったらしいんすよ。そのせいで大勢の獣人種が『巨塔の魔女』に殺されたとか。それで人手が足りないから『戻って来い』と厳命されまして……」
「なるほど……皆さんはこの一件についてどうお考えなんですか?」
『SSR、道化師の仮面』の下、僕は目を細めて思わず問う。
この質問に、クマ獣人達は眉間に皺を寄せて遠慮無く語る。
「そりゃ同種達が沢山死んだ上に、戦争には負けて気持ちは沈みますが……どう考えても獣人連合国が悪いですよ。金銭を払って購入した人種奴隷だけじゃなくて、違法な手段で捕まえた者達も居るって話だし。さらに女子供を人質にとるなんて……そんなの全然『騎士道精神』が足りない行為じゃないですか! 同じ獣人種として恥ずかしい話ですよ」
クマ獣人部下達も、『騎士道精神が足りないっすよ』と彼の言葉に同意して声をあげた。
ゴールドの教育の影響を受けたからか、彼らはまともな獣人種らしい。僕は仮面の下で細めた瞳を戻す。
願わくば他の獣人種も、人質をとって無理矢理他種を尖兵に仕立て上げる非道な行為を是としないようになって欲しいものだ。
クマ獣人が改めてゴールドへと向き直る。
「なので兄貴には是非、獣人連合国に来て頂いて俺達にしたように他獣人種に『騎士道精神』を伝えて欲しいのですが……」
「ゴールド、ら――ダーク様のことは自分に任せて、貴様は彼らに付いて獣人連合国に行くといい!」
ネムムが『ライト』と口に出しそうになり慌てて誤魔化しつつも、地上に出て初めて見るような良い笑顔でゴールドに話しかけた。
ゴールドはフルフェイス越しでも分かるほど、嫌そうにネムムへ顔を向ける。
「ダーク様を残して我輩が別の場所へなど行く訳なかろう。まったく……すまぬな。我輩にも成すべきことがあるのだ」
「いえいえ! あくまで兄貴が来てくれたら嬉しいなと考えていただけですから! むしろ余計なことを口にしてしまって申し訳ないですわ」
ゴールドの謝罪にクマ獣人達がわたわたと慌てて逆に頭を下げ始めた。
互いに謝り合った後、宿を取ってからゴールドとクマ獣人達は合流し、再会を祝う飲み会を開くらしい。
僕は顔に火傷があって仮面を着けている設定のため、人前で飲食がし辛い。飲み会は辞退し、ネムムも護衛として僕に付く。
ゴールドだけ久しぶりの再会を祝う飲み会に参加することになった。
僕とネムムは欠席したが、それでもクマ獣人達は久しぶりに再会出来た喜びから大いに飲み食いし、ゴールドは結局、翌日の午後になるまで帰ってこなかったほどだ。
ネムムはその間ずっと僕と2人っきりだったため、むしろゴールドが帰って来たことに機嫌を損ねた。その姿を見て僕は思わず微苦笑を漏らしてしまった。
そして、冒険者A級手続きが終わるまで街へと滞在。
久しぶりにダンジョンへ潜り日帰りで5階層雪原で大量の氷魔石を確保し、ギルドに卸したり探索を楽しんだ。
その際、ドワーフ受付嬢が歓喜の声を上げ、『あと1年ぐらい滞在しませんか?』と上目遣いで尋ねてきたが、僕はやんわり拒否した。
――こうして、手続きが終わるまで久しぶりに冒険者らしい冒険者をして羽根を伸ばしたのだった。
無事に冒険者A級手続きが終わると、街にいつまでも居る訳にはいかず早々に『奈落』最下層に帰還。
これで近々おこなわれるシックス公国会議で、リリスの護衛として仕事を受ける資格を得た。
今後スムーズにリリスの護衛を受けられるよう『奈落』最下層の事務仕事を片づけていると、執務室にメイが姿を現す。
その手には新たな書類が収まっていた。
レベル9999あるため体力、精神には自信があるが……やはり書類仕事が増えるのには辟易する。
しかし僕の顔色を察したのか、メイが柔らかな声音で否定する。
「ご安心下さい、ライト様。こちらは書類仕事ではなくシックス公国会議に出席する高位の者や護衛などのリストになります。アオユキ経由で先行して情報を入手することが出来ました」
「関係者リストか……先行して情報を入手できるのはありがたいね。時間があればそれだけ色々対策や議論が出来るから」
「仰る通りかと。さらに、ライト様のご興味を引く人物が魔人国から参加するとのことです」
「僕の興味を引く人物?」
メイの言葉に今日の側付きメイド経由で出席者リストを受け取り、魔人国の欄を確認すると……。
「!? ディアブロが参加するのか!?」
元『種族の集い』メンバーで、僕を罠に嵌めて殺そうとした復讐目標の1人だ。
これは確かに僕の興味を引く人物である。
僕は椅子に座ったまま心底楽しげな歓喜の声音をあげた。
「あははははははははははははっ! まさかシックス公国会議にディアブロが出席するなんて! まさかこんな形で彼と顔を合わせることが出来るなんて予想もしてなかったよ! あははははは! こんな形、タイミングで僕にディアブロと引き会わせてくれたリリスには感謝しないと!」
僕は上機嫌で声をあげる。
本当に気分が良い。
ディアブロにこんな形で再会できるだけで、リリスの護衛依頼を受けた甲斐があったというものだ。
「リリス様にはユメの救出だけではなく、また借りが出来てしまったね。今度また機会があったら彼女に借りを返さないとね」
「きっとリリス姫様もお喜びになるでしょう」
「あははははは! ライトとしてより先にダークとしてディアブロと会い、近づくことが出来たなら、どんな嫌がらせをしてやろうか。ただ傷つけるだけじゃなくて、彼の精神、心を蝕み痛み付けるようなことをしてあげたいな。僕が味わった苦痛を少しでも味わわせてあげるためにも!」
「さすがライト様です。どのような方法で愚かな裏切り者を苦しめるのか、私も非常に楽しみです」
上機嫌に声をあげて喜ぶ僕を前に、メイ、側付け妖精メイドはまるで自分自身のことのように喜び笑顔を浮かべていた。
彼女達にとって僕の喜びが自身の喜びなのだろう。
僕は事務仕事を一時中断し、シックス公国会議で会う可能性が高いディアブロに対してどんな復讐、精神・肉体的苦痛を味わわせてやるか心底楽しく考え始めたのだった。
☆ ☆ ☆
――ライトが執務室で楽しげに復讐計画を考えている頃、アオユキは1人自問自答していた。
(――主を良いように利用していたリリスが、まさか偶然とはいえ役立つとは……)
『だが、しかし』という考えがアオユキの意識に入り込む。
(まさかリリスはこうなることを予見し、さらに貸しを作るためわざと護衛の話を持ち込んできた……?)
可能性として考えれば0ではない。
リリスにはライト自身が『ますたー』などについて話をしていた。
当然、元『種族の集い』についても触れているため、復讐相手のディアブロについても知っている。
彼がシックス公国会議に参加すると予想し、ライトに貸しをつくるため護衛話を持ち込んだ可能性も捨てきれない。
実際の所、リリスはそんなことは一切考えていないが……。
アオユキが悔し気に奥歯を強く噛み、鳴らす。
(――相手は人種王国第一王女……アオユキは彼女を軽く見過ぎていたか……)
アオユキは自身がリリスを軽視し過ぎていたことを反省し、彼女の評価を改める。
(――この事実、エリーにも情報を共有すべきか)
そして、エリーとも情報を共有し、リリスを格下と見下さず、改めて見据え協議することを提案する腹積もりになった。
こうしてアオユキのリリスに対する評価が、彼女の知らない所で少しだけ上がったのだった。
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