10話 冒険者ランクアップ手続き
無事、1回目のリリスレベル上げが終わった。
今回でリリスはレベル100に到達したが、精神的に限界そうだったため中断。
レベル100越えは後日に持ち越される。
本人的には明日にでもレベルアップ作業を再開したいそうだが、精神的ダメージの回復に勤めてもらうべきだろう。
何より彼女自身、忙しい身だ。
いくら『UR、2つ目の影』で完璧な代役が居るとはいえ、記憶を移し替えられる訳ではないため、公務をさぼっていい理由にはならない。
さぼり過ぎて、本人が復帰できなくなってしまったら意味がない。
故に明日すぐにではなく、リリスにまた余裕が出来た際、レベルアップ作業を再開することになった。彼女の装備品に関しては、一旦『巨塔』で預かることになる。
また、その間に僕達もただ遊んでいるだけではなく、やるべきことをやるつもりだ。
では、『やるべきこと』とは?
僕ら、つまり冒険者『ダーク』達の冒険者ランクをA級に上げることだ。
リリス曰く、『シックス公国会議に王族の護衛として参加するためには冒険者ランクA級が必要ですが、ライト様のお力なら会議までに得ることが出来るでしょうから』とのことだ。
以前から、僕は『ダーク』という冒険者を作って、地上で情報収集をしていた。
各国に根回し出来て、ちゃんと実績もあるため冒険者ランクA級を取るのは難しくないが……。
もしも以前から『ダーク』という冒険者を作っていなかったら、危ういところだった。
リリスのレベルアップ作業、翌日。
僕とネムム、ゴールドが冒険者『黒の道化師』パーティーとして、冒険者ランクA級を取るため地上へと出る。
向かう先は――僕達が初めて滞在し、エルフ種カイトとやり合ったエルフ女王国の国境に近いドワーフ王国領内の街だ。
「……さすがに街並みは変わっていないね」
「まぁ、我輩達が出て数ヶ月しか経っておらぬからな」
「ですが、お陰で冒険者ギルドの場所に迷わず行けますね」
僕の感想にゴールド、ネムムが続けて口を開く。
相変わらずこの街は有用なダンジョンが存在するため、多数の冒険者が存在した。
エルフ女王国の国境線に近すぎて、長年に渡ってドワーフ王国と揉めているためエルフ種は少なく、ドワーフ種が多く目に付く。
次いで以前来た時は獣人種の冒険者を良く見かけたが、現在はまばらにしかいなかった。
むしろ、今は人種冒険者の方が多いぐらいである。
ちなみになぜこの街を冒険者A級アップに選んだかというと……エルフ女王国やドワーフ王国首都だとギルド側から色々と質問される可能性が高く、獣人連合国の場合、大虐殺があったばかりのため内部でのごたごたが落ち着いていないので、手続きに時間がかかってしまう。
その点、この街は僕達『黒の道化師』パーティーに縁があり、冒険者ギルドとも顔見知りで話がスムーズに進む。
そのためこの街を選んだのだ。
数ヶ月前まで1冒険者として活動していた場所のため、迷うことなく冒険者ギルドに向かって移動する。
移動中、僕達に見覚えがある屋台の人達、一部冒険者が声をかけて来たので軽く手を振り応えつつ、冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルド内部も以前とまったく変わっていない。
壁にはボードがあり、クエスト依頼の紙が貼られてある。昼過ぎのためボードを確認する冒険者の姿はほぼ無く、閑散としていた。
夕方近くになると、ダンジョンから帰還した冒険者が列を作るため僕達は一番余裕があるこの時間にギルドに来たのである。
僕達は掲示板の反対側にある受付嬢が居る窓口へと向かう。
衝立で区切られ、冒険者ギルドの受付嬢が各窓口に立っていた。
ドワーフ王国にあるギルドのため、基本受付嬢はドワーフ種の女性が担当している。
そのウチの1人が、僕達の姿に気付くと瞳を輝かせて喜びに満ちた甲高い声を上げる。
「ダーク様達ではありませんか!? 何時いらっしゃたんですか!?」
「ご無沙汰しています、今日、着いたばかりですよ」
ドワーフ種受付嬢の1人が、非常に友好的な態度で声をかけてきた。
僕達は慣れた様子で彼女の窓口へと向かう。
最初こそ彼女は『ヒューマンの癖に生意気よ……ッ』と僕達を見下していたが、需要の高い氷魔石を大量に確保、ギルドに卸すようになると態度が急変。
以前とは180度違って、歓迎してくれるようになったのだ。
そんなドワーフ種受付嬢が、キラキラとした瞳で尋ねてくる。
「もしかしてこの街のダンジョンに復帰してくださるのですか? もしそうなら我がギルドを上げてダーク様達をバックアップ致します!」
「あははは、ありがとうございます。ですが、ダンジョンに復帰ではなく冒険者A級に上がる手続きに来たんですよ」
『SSR、道化師の仮面』の仮面を着け、その下で思わず彼女の態度に微苦笑を漏らしつつ今回の用件について伝えた。
受付嬢があからさまに肩を落とす。
「そ、そうなんですか……ダーク様達が復帰してくださるなら氷魔石の需要が少しは満たせるのですが……って、え? 冒険者A級にランクアップですか?」
「はい、こちらが各国からの推薦状です」
氷魔石が得られないと落胆したが、彼女はすぐに違和感に気付く。
僕達が冒険者A級に上がると聞いて目を白黒させた。
現在、僕達はランクはC級だ。
C級は本来であれば冒険者を3、4年やってようやくランクアップが認められる熟練の冒険者がなるランクだ。
しかし僕達は『冒険者殺し』――カイトの情報を得て、伝えた事が評価されてC級に上がることが出来た。
冒険者の資格を得て、僅かの期間でC級まで上がるなどとんでもない名誉である。
にも関わらず、それに加えて数ヶ月で冒険者のある種到達点とも言えるA級に上がろうというのだ。
受付嬢も驚愕するより、混乱してしまうのは仕方がない。
受付嬢が混乱しつつも、渡された推薦状を確認する。
「エルフ女王国、ドワーフ王国に獣人連合国……どの推薦状も本物!? えぇぇ!? たった数ヶ月で冒険者A級に上がるなんて……だ、ダーク様達は一体何をなさったのですか?」
「一応国家機密に触れますが、受付嬢さんが知りたいのなら、特別に教えて差し上げますが……」
「いえ、すみません、わたしが軽率でした。だから教えないでください、まだ死にたくありませんから……ッ」
『獣人連合国が違法行為で人種を監禁し人質にして「巨塔」を脅迫。その際、僕達は「巨塔の魔女」と協力して人質を救出した。その功績を大とする』ということに建前上なっていた。
この『獣人連合国が違法行為で人種を監禁、人質にしていた』という事実は、一応口止めされ国家機密扱いされている。
とはいえ、違法な手段で捕まり人質にされ解放された人種の口を止めることは難しいが……。
これ以上、下手に獣人連合国の地位を下げる必要がないため、この事は一応国家機密扱いされているのだ。
ドワーフ種受付嬢は、短期間で冒険者A級に上がった冒険者パーティから『国家機密扱いの危ないネタ』を聞かされては『自分の身が危ない』と考え、丁寧に謝罪してきた。
僕もこれ以上、彼女を虐めるつもりはないため、素直に流す。
受付嬢は『ギルド長にお伝えしますので少々お待ち下さい』と離席。
数分後、僕達はギルド長に呼ばれ、冒険者ギルド奥へと移動した。
冒険者ギルド奥へと移動後、推薦状の中身を確認され、正式な手続きを踏み冒険者A級へとランクアップした。
とはいえ諸々手続きが必要なため、今すぐ『冒険者A級』を名乗れるわけではない。
その手続きのため暫く街に滞在することになる。
「2人とも、当分滞在する宿は以前泊まっていた宿でいいかな? あそこなら勝手も分かってくれているから色々楽なんだけど」
仮面で顔を隠しているため、どうしても食事等や他の宿泊客への説明などがある。
1から新しい所に泊まるより、以前宿泊した所の方が互いに分かっているため色々生活が楽なのだ。
「我輩は構わぬぞ」
「自分も問題ありません。食事はあまり美味しくありませんが、我慢できるレベルですから」
ゴールドは素直に了承し、ネムムは了承しつつも宿の食事に不満を表明する。
どうしても『奈落』最下層で食べる料理の方が美味しい。
なのでネムムの評価は妥当なため、僕自身何も言えず仮面の下で思わず笑ってしまう。
2人から泊まる宿の許可をもらい、早速移動しようとすると――懐かしい声に呼び止められた。
「兄貴! 姐さん、坊ちゃんじゃありませんか!? 戻って来てくださっていたんですね!」
声に振り返ると、以前僕らに絡んできた後に、ゴールドに倒されて改心したクマ獣人達が立っていたのだった。
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