20話 撤退と遭遇
今日は19話を昼12時、20話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は20話)。
――時間が少しだけ戻る。
「おい、オマエ達、ここに残るつもりか?」
赤髪冒険者エリオ達が、今夜もダンジョン1階層で野営の準備をし終えると、遠くからベテランっぽい壮年の人種冒険者パーティーが声を掛けてくる。
冒険者の1人が『こちらに交戦の意思はない』と言いたげに両手を広げ、声が十分届く距離まで近付き話しかけてきたのだ。
エリオ達は初めての事に『何事か』と警戒し、落ち着きを失う。
声をかけてきた冒険者は、なるべく刺激しないよう落ち着いた声音で話しかけてくる。
「悪い。俺達は別にそっちに因縁を付けたり、絡むつもりはないんだ。その様子だとまだ知らないようだったから、同じ冒険者のよしみで一応声をかけておこうと思ってな」
壮年の冒険者曰く、2階層以降で冒険者達が多数殺害されているらしい。
冒険者がダンジョン内部で命を落とすことは珍しくないが、問題はモンスター相手ではなく同じ冒険者によって殺されている、ということだ。
冒険者ギルドから内密で依頼を受けたドワーフ種と獣人種の混合冒険者パーティーが、報告にあった現場を調査。
調査結果から『冒険者を殺して回る冒険者が居ることが確定』した。
つまり同じダンジョン内部でモンスターではなく『冒険者殺し』をおこなっている者が居るのだ。
「俺達は偶然近くに居て知ったんだが、直ぐに獣人種が単独で走って地上に戻って調査の報告をギルドにしているはずだ。十中八九『冒険者殺し』には懸賞金がかかる。その内、捕まるか始末されるだろうな。だが、時間はかかるだろう。それまで同じ冒険者を殺して回る異常者が居るダンジョンで夜を明かす気にはなれず、戻って来たんだ。悪いことは言わないから、オマエ達も今夜はダンジョンを出た方がいいぞ」
「お、教えてくださってありがとうございます」
「あー、だから獣人種の冒険者が1人、急いでダンジョン出入口に向かって走っていったんッスね」
お調子者のギムラが野営のテント設営中、疾風のように駆ける1人の獣人冒険者を思い出す。
こちらを一瞥した後、すぐ興味を失ったかのように走り抜けたので彼らも気にしなかったのだ。
その話を聞いて、壮年の冒険者が舌打ちする。
「人種差別かよ、注意勧告もせずに素通りとは……クソがッ。冒険者の仁義ぐらい守れよ。最近の人種差別はいくらなんでも目に余るだろ」
「で、でもどうして冒険者が殺したと分かるんですか? モンスターに殺されたかもしれませんよね」
心底気分悪そうに吐き捨てる壮年冒険者にエリオは気後れしながらも疑問を尋ねる。
『良い質問だ』と言いたげに壮年冒険者は渋く笑った。
「簡単だ。殺された冒険者の遺体を目にしたが、焦げていたり凍り付いたりと複数の攻撃魔術が使われた形跡があったんだ。複数攻撃魔術を使う魔物が2、3階層に居ると思うか? それに殺された冒険者以外の足跡も無かった。これは調査したドワーフと獣人種のパーティーも同意している。つまり、複数の魔術が使えて、空も飛べる戦術級魔術師が徒党を組んで襲っている可能性があるんだ。俺達がさっさと尻尾を巻いて逃げ出す理由は分かっただろ?」
「お、兄ちゃん……ッ」
元魔術師学校に通っていた妹ミヤは、冒険者の言葉がその通りならばどれほどの脅威か心底理解する。
顔色を青くした。
彼の発言が本当なら戦術級上位、飛行の魔術が使える一流の魔術師が最低でも1人は居るのだ。
とてもじゃないが、自分達が束になっても勝てない。
空を飛びながら攻撃魔術を使用されたら、文字通り手も足も出ないのだ。
「魔術師の嬢ちゃんは状況をよく理解しているらしいな。悪いことは言わん。今日は野営せずさっさとダンジョンを出た方がいい。あと戻る際、事情を知らない冒険者が居たら種を問わず注意勧告を頼む」
「わ、分かりました!」
年上の冒険者に願い事を頼まれ、エリオは思わず言葉に詰まりながらも返事をした。
壮年冒険者は再度男臭い笑みを零すと、仲間達の下へと戻りダンジョン入り口に向けて移動を再開。
現場に残された少年達は、その背中を見送った後、相談を開始する。
「……んでどうするッス、リーダー。今回は2階層に潜るためここまで来たけど、おっさん達の忠告通り引き返すッスか?」
今回エリオ達は、2階層に潜るため極力戦闘を避けてとにかく奥へと進んでいた。現在は1階層最奥の手前あたりだ。
夜を明かし、朝移動を開始すれば予定通りお昼頃には2階層へと到達できる。
このまま戻った場合、確実に赤字だ。
パーティーメンバーの視線がリーダーのエリオに集まる。
「……忠告通り、ダンジョン入り口まで戻ろう。今回の赤字は痛いが、命には代えられない」
「わ、わたしもお兄ちゃんに賛成」
「もちろん俺ッチもリーダーに賛成ッス。ワーディもッスよね?」
「(こくこく)」
無口なワーディが黙って頷く。
これで全員が賛成に回った。
誰1人反対されず、スムーズに撤退の決断が出来てエリオが安堵の溜息を漏らす。
「なら早速、撤退の準備をしよう。ギムラとワーディはテントの片づけ、俺とミヤで荷物を纏め直す。日が完全に暮れるまで時間が無いから急ごう」
エリオの指示に皆が返事をすると、テキパキと動き出す。
同じ村で育った幼馴染み同士だけあり、息がピッタリと合う。
いつもの1.5倍は早く片づけを済ませて、ダンジョン1階層出口に向かって歩き出す。
「とにかく2階層の出入口から距離を取ろう。犯行は2階層以下でおこなわれているなら、出入口から距離を取ればそれだけ犯人と遭遇することはないはずだ」
エリオの言葉に皆が同意して、兎に角ダンジョン1階層出入口を目指し歩き続けた。
運良くモンスターと遭遇することなく、引き返すことが出来たが……やはり昼間の疲労が溜まっており、想定した半分も戻れなかった。
周囲は完全に暗くなり、このまま疲労を押して進んだ場合、モンスターの奇襲を受けたら体が疲れて即対応できるか怪しい。
「リーダーどうするッス? このまま戻るッスか? それとも安全を考えて野営するッス?」
「…………」
エリオはどちらが良いか迷い沈黙する。
どちらが安全か分からず判断に迷ってしまう。
「君達、こんな所で何をしているんだい?」
『ッ!?』
突然、背後から声をかけられる。
モンスターの奇襲を警戒して、周囲を見回していたはずなのに、いつまにかフードを被った冒険者が1人立っていて声を掛けてきたのだ。
まるで突然、降って湧いたかのように現れた冒険者にエリオ達は驚きで思わず息を呑む。
声からして男性らしい冒険者が気にせず再度問いかける。
「こんな中途半端な所で立ち止まって、何かトラブルでも起きたのかい?」
「い、いえそういう訳ではなくて……ただ移動に疲れて足を止めていただけなんです」
「お、お兄ちゃん、ほら……」
「? あっ」
妹に背中を突っつかれ兄エリオは首を傾げたが、すぐに壮年冒険者の言葉を思い出す。
『戻る際、事情を知らない冒険者が居たら種を問わず注意勧告を頼む』と。
早速、彼は目の前に立つ冒険者に伝える。
「あの、『冒険者殺し』について知っていますか?」
「『冒険者殺し』?」
フードの男は首を傾げる。
彼が知らないと理解すると、エリオ達が丁寧に事情を伝えた。
現在、2階層以降で同業者を狙った『冒険者殺し』が居る。複数人数の可能性もあり、実力は戦術級魔術師レベル。
懸賞金を懸けられ、討伐されるまでダンジョンで夜を明かすのは危険だと律儀に教える。
相手は感心したように数度頷いた。
「――なるほど、だから身の危険を感じて引き返している最中だったのか」
「はい、そうなんです。そちらは?」
「僕様は獲物を探していたら、ちょうど君達に気付いて様子がおかしかったから一応声をかけたんだよ」
「なるほど、心配をかけて申し訳ありません」
『相手はごく一般的な冒険者らしい』とエリオ達の警戒心が緩む。
しかし、その安心感もフード男の一言ですぐに覆った。
「まさか冒険者ギルドがこれほど早く対応してくるなんて予想外だよ。存外真面目に運営している組織なんだな。次からはもう少し隠蔽に気を付けるべきだな」
「え?」
フードの男から濃密な殺意を向けられる。
彼はゆっくりと背中に背負った幅広い大剣を抜き、陰惨に嗤う。
「とりあえず、今夜の虫けらを踏み潰してしまおうかな」
エルフ種、カイトは心底楽しげに幻想級『グランディウス』を両手で握り締めたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
エリオ達ではありませんが、事前に入念に準備して対策もして挑んだのに予想外のアクシデントやトラブルが起きて中止させられるというのは経験は自分も多々あります。
なぜこのタイミングで滅多に起きないトラブルとかが起きるんだよ……と。
全くトラブルというのはタイミングを選んでくれないので困ったものですよね。
また今日も2話を連続でアップする予定です。
19話を12時に、20話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は20話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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