7話 一部『奈落』メンバー達の意見
「――主、あの女、リリスの非礼。命を以て贖うべきと愚考しますが」
『巨塔』での会議後、『奈落』最下層、執務室に移動。
席に座ると、目の前に立つアオユキが、パーカーで視線を隠しつつ直訴してくる。
彼女の言葉に、エリーまで同意の声をあげた。
「わたくしもアオユキさんに同意しますわ。あの女、リリスは確かにライト神様の妹ユメ様のお命を救った功労者ですが、それに対する褒美は十分与えていますわ。にもかかわらず、ライト神様をまるで何でも願いを叶えてくださる道具のように扱うマネをして……ッ。ライト神様を便利屋扱いするなんて不敬ですわ!」
アオユキとエリー的には、リリスの態度や要望が我慢の限界を超えたらしい。
故に僕へと直訴しに来たのだ。
僕は2人と向き合い声をかける。
「2人とも落ち着いて。確かに最近、リリスからの要望は多いけど、どれもたいした手間や問題じゃない。僕達からすれば誤差のようなモノだ。それに人種王国第一王女という彼女の地位と、人種を救いたいという彼女の意思は何者にも代えがたい。当然利用価値もあるし、彼女の父すらも廃して、今までの王女という守られていた地位を捨ててでも自らの手で理想を成し遂げたいという気持ちには、共感をも抱くよ。……さらにはユメの命を救ったという彼女の功績を僕は高く評価している。アオユキとエリーはもう十分恩は返したと考えているようだけど、僕はまだ全ては返しきれてはいないと思う。だから今回程度のお願いなら許容範囲だよ」
これは僕の本音だ。
彼女の立場――人種王国の第一王女で女王となり得る存在、というものは他では代わりが利かない。
さらには実妹であるユメの命を救い、仕事と安全を確保してくれていたのだ。
アオユキ達と違って、今まで程度の要求で恩返し出来たとは考えていない。
もちろん、声をあげてくれたアオユキとエリーへのフォローも忘れない。
「けど、2人が僕や『奈落』のことを考えて、声を上げてくれたことは理解しているよ。だからリリスが、増長して過度な要望を僕達にしてきたら、例えユメの命の恩人だとしても釘を刺す。釘を刺して止まらなければ……その時はきちんと対処するつもりだ」
僕の声音に冷たい意思が混じっているのが、アオユキとエリーの表情変化からしっかり伝わっていると理解する。
2人は僕が甘くなっておらず、しっかりと一線を引いていることを理解し、言葉を収めた。
「――是、主のご意志に従います」
「わたくしもアオユキさん同様、今回はライト神様のご意志に従いますわ。ですが、もしリリスが、一線を越えたとお考えになったらわたくしに仰ってくださいませ! すぐに対処させて頂きますわ!」
収めてはくれたが、完全に納得しているようではなくリリスに対して反発する空気は消えていない。
2人とも僕に対する忠誠心が高いため、リリスに対して少なくない敵意を抱いてしまったようだ。
彼女達の忠誠心の高さは嬉しいが、こういう時はやや困りものである。
(彼女達だけではなく、他の子達も忠誠心の暴走からリリスと口論になったり襲ったりしないよう注意しないと)
無いとは思うが絶対ではない。
相手はユメの恩人であり、人種王国第一王女だ。
無為に死なせるのはしのびないし、そうなれば今後の政治的な面でも彼女を手伝ってきた僕らの苦労が無駄になる。
その辺り、しっかり注意しないとと心のメモに書き込んだのだった。
☆ ☆ ☆
――ライトへの直訴後、アオユキ、エリーは執務室を退出したが、すぐには解散せず『奈落』最下層の一部屋に2人で入る。
『奈落』最下層は改造された際、多数の部屋が作られた。
この部屋のように使われていないのがあるため、魔術で盗聴防止を施し扉を閉めて鍵をかければ、密談するには打って付けの場所となる。
『奈落』内部であまり仲が良くはないアオユキ、エリーが珍しく2人っきりで密談をする。
まずエリーが愚痴をこぼす。
「ライト神様は本当にお優しい方です! 妹君のユメ様をお救いした命の恩人とはいえ、あそこまで慈悲をかけるとは……。ライト神様のお優しさは天を突き、海底より深すぎますわ!」
「にゃ~」
アオユキがネコ語で同意の声をあげる。
「しかしその優しさに付け入るとは、あのリリスさんという女、調子に乗り過ぎですわ! ライト神様はお許しになりましたが、まるでライト神様を僕のように扱うなんてェェェッ! 許されることではありませんわよ!?」
「――是、今回主はお許しになった。なら、今回は許すべき。しかしこれ以上、あちらの都合で主を振り回す心積もりなら……あの女には消えてもらう」
「……今回は許す、ということですわね。確かにあの女は人種王国第一王女で、現国王、兄と違って人種の未来のため汚泥にまみれる覚悟がありますわ。人種の未来を考えるなら、生かしておくほうが何かと都合が良いですが……」
「――既に『UR、2つ目の影』で代わりは作られている。消しても代役が居る以上、問題無い」
アオユキが冷たい声音で断言する。
もしライトの許可があれば、今すぐにでもリリスを殺しに向かう気配が立ちこめていた。
エリーも頷き同意する。
アオユキ同様の殺意に濡れた声音を漏らす。
「ですわ。ですがライト神様が否定なされた以上、手出しは厳禁ですわよ?」
「……にゃぁ~」
分かっていると言いたげにアオユキはそっぽを向いて鳴く。
エリー自身、『アオユキさんの気持ちは理解できますわ』と言いたげに肩をすくめる。
「とはいえ、ライト神様から許可が出ればその限りではありませんから。本来ならライト神様を己の欲望のまま振り回した罪として苦しみ抜いて殺すところですが、妹君ユメ様を救った功績を讃え、楽に殺してあげましょう」
「にゃ!」
アオユキが同意するように短く、声をあげる。
以後、アオユキとエリーは話題を変えて『リリスはライトにどの程度恋慕の情を抱いているか』について議論を重ね始めた。
リリスの知らない場所で、彼女はアオユキやエリーなど一部の『奈落』メンバー達からヘイトを稼いでいたのだった。
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