6話 3つのお願い
『奈落』最下層で、メイ、エリー、アオユキの報告を聞き終えると人種王国第一王女リリスから念話が届く。
彼女には『SR、念話』を渡しているため、僕に念話を送ることが出来るのだ。
なのでリリスから念話が届くのは問題ないのだが……その内容にやや問題があった。
「え? 獣人種を僕らが殲滅したせいで……まだ数年猶予がある筈だったシックス公国会議が近日中に開かれる?」
どうやら僕らが派手に暴れ過ぎたせいで、魔人国が『巨塔』を警戒。
各国に呼び掛け対策会議をするため、急遽シックス公国で6種族会議を開くらしい。
今後の動きについて話がしたいという要望を受ける。
断る理由も無いのと、僕達が動いた結果影響を与えてしまったようなものでもあるので、了承の返事を返す。
念話を通して、日時をリリスと一緒に決めたのだった。
☆ ☆ ☆
数日後、以前と同じようにリリスが『巨塔』4階の執務室に顔を出す。
互いに挨拶を終えた後、テーブルを挟みソファーに座り、メイが静かにお茶を僕達の前に並べた。
メイが壁際にまで下がったのをきっかけに会話を開始する。
「改めてお時間を作ってくださってありがとうございますわ」
「いえ、むしろ今回はリリス様も大変だったようで。まさか獣人種との戦争の余波で、シックス公国会議がこんなに早まるとは」
「ええ、シックス公国会議が早まったのもそうですし、確かに獣人種が大敗北したのには驚きましたが……むしろ、獣人種が人種を戦争の人質にとり尖兵に仕立て上げるという、非人道的で言語道断な行為をおこなったことに激しく怒りを覚えました。なのでその悪を成した獣人種共がしっかり滅びたと知り、むしろ胸がすく思いでしたわ」
リリスの返答に僕は同意の頷きを返す。
人種王国を改革しようとしている彼女なら、当然獣人種の非道さとその後の経緯に理解を示すだろう。
もちろん死者が多数出たことについて心の中では怖れてもいるだろうが、本当に改革を進めたいのであれば、犠牲者が出るのは避けては通れないことでもある。
国を運営し人種の地位を改革するということは、絶対に綺麗事だけで済むものではないのだ。
リリスは話を続ける。
「また獣人種に対する正義の執行の影響で、シックス公国会議が早まったことも天の意思だと思うのです。ライト様、私はこのシックス会議で父を廃し、女王の座に就くつもりです。なのでエルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合に対して根回しをどうかお願い致します」
「…………」
リリスには、僕達『奈落』側に問題無い範囲で、彼女に役立ちそうな情報を提供していた。
故にエルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合が僕達に屈服又は協力関係にあることは知っている。
彼女と初めてこの『巨塔』4階執務室で話をした際に、シックス公国会議について聞かされた。
建前上は、人種王国次期国王が公国会議で世代交代を報告し、他5ヶ国から受諾をうけるのが慣例となっているが、実際は他5種によって国王が決定されているのだ。
現状の関係に不満を持つ者が人種の王座を得ることが無いように、排除するのが狙いの制度である。
しかも人種を除く5ヶ国による多数決制らしい。
だが、僕達は陰からエルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合と関係を持っている。
5票のうち3票をどうとでも出来るのだ。
なので今回早まったシックス公国会議を奇貨にして、彼女は一息に人種王国の女王に即位するつもりのようだ。
だが問題が無い訳ではない。
「虐げられている人種のためにも、僕達としても協力は吝かではありませんが……間者の排除もまだですよね? 時期尚早である可能性は?」
「確かにライト様の仰る通りです……ですが、この機会を逃せば私が女王の座に就くのがかなり先になります。その時間分、多くの同胞達が再び苦しめられることになるでしょう」
彼女は膝の上に乗せた手に力を込める。
「本来なら父である現国王に改革を決意して頂きたかったのですが……あの人にはその気概がありません。兄も同様です」
リリスはつい最近の出来事を思い出すような口調で愚痴のように零す。
「そのため、人種の未来を守るのは私しかいないのです。ですので是非、ライト様に厚顔無恥ではありますが……3つほどお願いを聞いて頂ければと」
「3つ、ですか?」
彼女が国王の座に就く前に、人種王国の間者を排除して欲しいと言われても困る。
制限無く表だって動けば出来なくはないだろうが、各国に気付かれず動くとなると不可能に近いだろう。
しかし彼女の要望はこちらの予想を外す。
「はい、一つはシックス公国会議が始まるまでに、私のレベルアップの手伝いをお願いしたいのです」
リリス曰く――自分が女王に即位後、簡単に死なないようにするためにレベルを上げたいらしい。
「人種王国全土の間者排除は一朝一夕では不可能です。ですからまず私がレベルを上げてそうそう簡単に殺されないようにしている間に改革を進め、時間を掛けて間者を排除できればと考えていますの」
彼女の言葉に、その手があったか、と考える。
普通の王族ならば考えつかないであろうかなり突飛に聞こえる手段だが、レベルを上げることによって暗殺されにくくなったリリスが女王に就任し大鉈を振るえば、人員の入れ替えという名目で人型カードを大量に送り込み彼女の側に置くことが出来るし、その騒ぎに隠れて僕達が動いても気付かれず間者の排除などがおこなえる。
「次のお願いですが、例えレベルを上げても毒殺、暗殺を完全に防ぐのは難しいと思うので、それらを防ぐマジックアイテムや薬をお貸し頂ければと」
いくらリリスがレベルを上げても、毒殺、暗殺は完璧に防ぐのは難しい。
それらを防ぐマジックアイテムは必ず必要だろう。
むしろ、恩恵『無限ガチャ』カードから排出された人型カード達を守るためにもそれらのアイテム、回復薬、マジックアイテムは必要だ。
仲間を守るために必要なアイテム等を僕はけちるつもりはない。
このお願いに当然、同意する。
次のリリスのお願いはやや変わっていた。
「最後は是非、ライト様に私の護衛としてシックス会議に同席して欲しいのです」
「僕がリリス様の護衛に?」
「ライト様がシックス公国会議中、側に居てくださるなら非常に心強いですから。それに――会議には魔人国、竜人種のトップ、またはそれに近しい者達が顔を出します。私にできる事は少ないですが、魔人国、竜人種のトップの顔を目にしておくのはライト様にとって有益なことになるかと」
確かに魔人国、竜人種のトップ、またはそれに近しい者達の顔を確認することは僕にとって有益なことだ。
リリスの護衛なら、乱暴な手を使わずとも堂々と正面から会場に入れる。
「人種とはいえ王族の護衛のため冒険者ランクA級は必要ですが、ライト様のお力なら、シックス公国会議までに得ることが出来るでしょうしね」
リリスはニコニコと断言した。
どうやら王族の護衛には冒険者ランクA級が必要らしい。
この世界には冒険者ギルドが存在して、冒険者を6段階にランク付けしている。
冒険者ランクは以下となる。
A級:トップ
B級:1流
C級:熟練のプロ
D級:1人前
E級:半人前
F級:駆け出し
この上にごく希にS級があるが、それは例外で、基本は以上だ。
(確かに地上で冒険者活動をしている『ダーク』なら、この前の獣人種達に捕らえられた人種人質救出の実績を以て、各国に根回しすればA級を取るのは確実だな……)
いくら僕達が彼女にとっては神のような力を持っている者達と考えていても、本来ならば出来ること出来ないことがある。
冒険者活動をしている『ダーク』を作っていなければ、シックス公国会議までに冒険者A級を取るのは難しかっただろう。そういう意味では幸運だった。
とりあえず、冒険者A級を取るのは可能なため、リリスの申し出をありがたく受け取る。
「護衛の件、了解しました。他の要求も全てお受け致しますね」
「! ありがとうございます! ライト様!」
「いえ、こちらこそ貴重な機会を頂きました。ありがとうございます」
互いに笑顔でお礼を言い合う。
話し合いの場は非常に和やかな雰囲気だった。
――しかし、会議後、このリリスの一件で、一部『奈落』メンバー間で険悪な雰囲気が流れることになるのだった。
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引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
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