4話 相談
「……人手がたりませんわ」
人種王国城内、人種王国第一王女リリスは自室席に座りつつ、溜息を漏らす。
現在、彼女は人種王国内部にどれだけの間者が入り込んでいるか密かに内偵を進めていたが、信用がおける協力者が偽ユメのみのため遅々として進んでいなかった。
長年リリスに仕え、リリスが本当の姉のように慕っていたメイド長ノノでさえ、魔人国の間者だった。
自分に最も近いノノですら間者だった以上、軽々に他者を信用する訳にはいかない。
とはいえ『UR、2つ目の影』カードで作られた偽ユメだけでは根本的に手が足りないのも事実だ。
「…………」
リリスが目を閉じ、考え込む。
そして少しの時間が経ち、目を開くと自身が導き出した結論を呟く。
「……ここはやはりライト様に頼るのが正道でしょうね」
リリスは机の引き出しを開くと、1枚のカード『SR、念話』を取り出す。
慣れない様子で彼女はカードを手にしたまま呟く。
「えっと、確か……『SR、念話』、解放」
カードが消滅すると、人種王国城内に居ながら『奈落』最下層に滞在するライトへと、念話が通じたのだった。
☆ ☆ ☆
『SR、念話』カードで人種王国第一王女リリスから僕は連絡をもらい、相談を持ちかけられた。
後日詳しい話をするため、彼女の都合が良い日時を指定してもらい迎えを出すことが決定した。
当日、約束通りの時間にリリスが『巨塔』4階執務室に顔を出す。
彼女がこの場所を訪ねている現在、人種王国城内に入れ替わりで存在しているのは『UR、2つ目の影』で作られた偽リリスだが、親でも見分けることが不可能なほど瓜二つのため、問題はない。
メイが淹れてくれた紅茶を挟んで、僕達は向かい合ってソファーへと腰を下ろす。
リリスはすぐに本題に入らず、軽い雑談を振って場を温めてくる。
「本日はお時間を作って頂きありがとうございますわ」
「いえ、ユメを助けて頂いた恩義あるリリス様のお話なら、時間ぐらいいくらでも作らせて頂きますよ」
「そう言って頂けると本当に嬉しいですわ。そういえばユメは元気にしていらっしゃる? 城でユメ……えっとカードで作られたユメと毎日顔を会わせているので寂しくはないのですが、本人とは会えていないので気になって……」
「気にかけてくださってありがとうございます。ユメもリリス様と会うことが出来ず寂しがっていますので、いつか時間があったらご挨拶をさせて頂ければと」
「その際は是非、よろしくお願いしますね。私も久しぶりに本物のユメと会って、色々楽しくお喋りをしたいですから」
僕とリリスはニコニコとたわいない会話を重ねる。
十分、場が温まったのを確認すると、リリスが相談内容を口にした。
彼女は眉根を下げ現状を伝えてくる。
「……実は問題がありまして。ライト様が与えてくださったカードのユメ以外、私が信用できる者がいないのです。ですが偽ユメだけでは根本的に手が足りず、間者特定に時間がかかりすぎてしまって……。なのでどうか人手を得るため、図々しいお願いではありますが、またカードを人種の未来のためお恵み頂けないでしょうか?」
リリスは心底申し訳なさそうな声音で尋ねてくる。
本当に苦肉の策として僕に相談をしに来たようだ。
彼女の話を聞いて、僕は困ったように眉根を下げる。
「なるほど……間者調査の手が足りないため、『UR、2つ目の影』で、信頼の置ける部下を作りたいのですね」
「はい、稀少なマジックアイテムなのは重々承知していますが……」
リリスが下手に誤魔化さず、素直に相談内容を口にする。
その態度に好感を持つが、無い袖は振れない。
「頼ってくださったお気持ちは大変嬉しいですが……流石にこれ以上『UR、2つ目の影』を供給するのは難しいです。恩義があるリリス様だからお答えしますが、『UR、2つ目の影』は滅多に出ず実は僕達の手元にも無いのです」
「!? そうだったのですか。むしろ、そのような貴重なマジックアイテムを融通して頂いていたなんて……。改めてなんとお礼を言えば良いのやら」
リリスは僕の返答を聞くと、慌てた様子で頭を下げる。
実際はまだ数枚ほど余裕はあるが、滅多に出ないカードだ。いくらユメに関して恩義があるからと言って、彼女のために湯水のように使うほど余裕はない。
なので僕は恐縮するリリスに提案をする。
「流石に『UR、2つ目の影』を融通することは不可能ですが、まだ顕現させていない人型カードがあるので、そちらはお譲りすることが出来ます。なので少しずつ時間をかけて、人員を入れ替えていくのはどうでしょうか?」
いくら人種王国トップ、次期女王を目指しているからと言って、明日明後日即位する訳ではない。 シックス公国会議までまだ数年時間がある。
時間をやや必要とはするが、リリスの側近でなくても内部で信用できる人物――『カードから顕させた者達を取り立てていくのはどうか?』と提案しているのだ。
『UR、2つ目の影』と違って、モヒカン達のような人型カードは多数輩出されているが、全部を顕現させている訳ではない。
さすがに全てを顕現させてもあまり意味はないし、維持やコントロールに手間を食うからだ。
故に必要人数しか顕現させておらず、余っている状態だ。
そのカード達をリリスに譲り、彼女が少しずつ時間をかけて人員を入れ替えていくのはどうだろうかと提案しているのだ。
正直この辺りが実際現実的な手段だろう。
リリスが頭を上げて考え込む。
数秒後、すぐに返事をした。
「ありがとうございますわ。ライト様の仰る通り、現実的手段として時間をかけ、少しずつ信用できる者達と入れ替えて行きますわ」
「意見を聞いてくださって嬉しく思いますよ」
リリスはこちらの提案を否定せず素直に受け入れてくれる度量があるため、話が早くてありがたい。
そんなことを胸中で考えつつ、僕とリリスはより具体的に人員の入れ替え手段について細かく話をし始めたのだった。
☆ ☆ ☆
――しかし、その具体的な話し合いも全て無駄になる。
原因はこの話し合いの後に起きた戦争――『獣人大虐殺』だ。
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