2話 魔人国第一王子
「貴殿ら正気か!?」
魔人国マスター達――リーダー格であるドレッドヘアーのゴウ、顔に十字の傷を持ち双剣を掲げレベルアップにこだわるダイゴ、そして長い金髪をアップにした見た目は可愛らしいが快楽殺人者の少女ミキ――が話し合い、ミキが『巨塔』へ調査しに向かうことが決定した。
直後、部屋で強者3人の様子を窺っていた男性――魔人種の1人が大声を上げて制止する。
男は伸びた角に口から覗く牙を持ち、身長もそこそこ高く170cm後半はありそうだ。
胸元が開いた貴族服に袖を通し、部屋の隅で様子を窺い立ち続けた姿にブレはなく、武術の経験を持ち腕も立つことが分かる。
とはいえ、彼の目の前にいる3人にとって彼の実力など、高が知れているが。
もしこの3人……この場に居ない2人を足して合計5人の魔人国マスターが本気を出せば、魔人国丸ごと潰すことが可能だ。
そんな相手に魔人種男性が声をあげた。
彼は一目で分かるほど動揺した顔で3人に問い質す。
「相手は戦場に立った獣人種を文字通り皆殺しにした、頭のイカレた集まりだぞ!? そんな奴ら、『巨塔の魔女』達に本気でちょっかいをかけるつもりか!?」
「なぁーにぃー、ミキィ達のやることに口を出すつもりィ? それって契約違反だよぉ、契約違反」
「それはこちらの台詞だ! 我々は互いに協力する関係を結んでいる。にもかかわらず、自国を危険に陥れるようなマネを見過ごす訳ないだろうが!」
魔人国は5人のマスターに力を貸したり便宜を図ったりする代わりに、彼、彼女達も必要に求められれば魔人国に力を貸す関係だ。
マスターであるゴウ達の強さは理解しているが、もし彼らが魔人国に居ると知られ、『巨塔』の矛先が向けられてはたまらない。
故に獣人種を皆殺しにするような危ない国にちょっかいをかけるのは止めて欲しかった。
しかし彼ら――特にミキが納得しない。
「だいじょうぶ、ミキィが相手に正体がバレたり、魔人国の関係者なんて悟られるヘマはしないから。大船に乗ったつもりで任せてよぉ」
「……貴殿らの実力は信じているが、無駄に危険に手を出す意味はないだろう。ミキ殿好みの人種奴隷を連れてくるから、『巨塔』にちょっかいを出すのは取りやめて貰えないだろうか?」
「いーやー! ミキ、『巨塔の魔女』やメイドさん達とイチャイチャしたいのぉ!」
普段なら大抵この提案でミキは要求を承諾する。
だが、余程『「巨塔の魔女」はとんでもない美少女らしい。さらに「巨塔」の魔女に従うメイド達は、全員がこの世の者とは思えないほど見目麗しいらしイ』というゴウの言葉にやられてしまったようだ。
頑なにミキは『巨塔』への侵入調査を撤回しない。
むしろ、彼女は反論する。
「第一、魔人国側にとってもこれは大切なお話でしょぉ。もしかしたら『巨塔』に『C』様がいるかもしれないんだよぉ! もし居たら、ミキィ達のお願いや魔人種の願い――『C』様のお力で『竜人種を越える種族になる』ことが叶うかもしれないんだよ? いくら『巨塔』が頭のおかしい集団でも、調査する価値は十分あるわよねぇ? 魔人国王子様☆」
「くぅ……ッ」
マスター達3人に反対していた彼――魔人国第一王子ヴォロスはこの指摘に歯ぎしりしてしまう。
ミキの指摘通り、魔人種の悲願『竜人種を超える種族になる』が叶う可能性が、『巨塔』にあるかもしれないのだ。
『竜人種を超える』というのは、魔人種にとってまさに悲願であり、生ける目標である。裏返せば、強烈なコンプレックスと言ってもいい。
相手が戦場に立った獣人種を文字通り皆殺しにするほど頭の壊れた集団だとしても、悲願を達成できる可能性があるならば、王族としては見逃すのは惜しいはずだ。
魔人国王子のヴォロスは僅かに逡巡し、答えを吐き出す。
「……勝手にしろ! だが得た情報は必ずこちらにも渡してもらうからな! 絶対に正体がバレてもこちらに被害が出ないようしてもらうぞ! そしてこちらもこちらで独自に動かせてもらうぞ! 問題は無いだろうな!」
「もちろん☆ ミキィにお任せ☆」
「……ック!」
ミキは可愛らしくウィンクする。
彼女が自分好みなら少女・女性・少年だろうが拷問し、精神的に壊すことも厭わない究極のサディストと理解しつつも、男の理想のような美貌と庇護欲をそそるミキの可愛らしさに、ヴォロスは気持ちが揺らぎそうになった。
彼はミキの容姿に心を奪われる前に、足早に部屋から出て行く。
その背にミキやゴウ、ダイゴが嘲笑するような忍び笑いを漏らすのだった。
☆ ☆ ☆
マスター達が居た部屋を抜け出し、魔人国第一王子ヴォロスはコツコツと足早に底冷えする廊下を歩く。
少しでもゴウ達が存在する部屋から離れられるようにだ。
(我を誰と心得る! 魔人国第一王子だぞ! にもかかわらずあのヒューマン共は! マスターではなく、何の力も無ければ今すぐアイツらの皮を剥いで、『ころしてください』と言い出すまで拷問してやるというのに!)
だが、実際、彼らが本気を出して戦えば魔人国どころか、竜人種以外の種全てが滅ぶほどの力を持つ。
立って喋って会話を交わして、見た目が人種だったとしても、あれらは動く災害だ。
下手にあれ以上、拒絶して機嫌を損ねるのは得策ではない。
だが、彼らは知らない。
(無駄に『巨塔』でも、ダンジョンでも探せばいい。『C』はそんなところには居ないのだから)
ヴォロスは確信をもって断言する。
彼はゴウ達のことを鼻で笑いつつ、
(魔人種がすでに『C』を確保していると知らずに、イヌが自身の尻尾を追ってグルグル回るように徒労をかさねればいいさ)
ヴォロスが最初ゴウ達を止めたのは、戦場に立った獣人種を文字通り鏖殺した『巨塔』にちょっかいを出すのは国益を損ねるからだ。
仮に手を出すなら、シックス会議で決を採り、各国が足並みを揃えて対処すべきという考えを持っていた。
わざわざ危険な役目を単独でおこなう意義が分からない。
さらに最も大きな理由は、『巨塔』に『C』がいないと魔人種は考えているからだ。
なぜなら『C』は魔人種の手元で眠っており、探しても徒労になることが分かっていた。
故に反対したのである。
とはいえ、理由を告げる訳にもいかず、強固に反対すれば彼らはヘソを曲げるため、引き下がるしかなかった。
しかし魔人種が『C』の身柄を抑えているとはいえ、問題がゼロではない。
魔人種の悲願、『種として竜人種を超える』が達成されていない時点で『問題がある』と言っているようなものだ。
では、その問題とは――。
(さっさとあの封印をどうにかして『C』を目覚めさせなければ……。そうすればあのチンピラのような劣等種達をぶち殺し、竜人種を超えることが出来るというのに)
魔人種が秘密裏に囲っている『C』は、封印――眠りについていた。
その封印解除方法が分からず、また公にその方法を求めることも出来ず、秘密裏に調査、研究がなされているのだ。
結果は……お察しだが。
ヴォロスは足早に移動しながら、胸中で、
(我が生きている間に、さっさと『C』を目覚めさせる方法を見つけて、劣等種達をぶち殺し、竜人種を超えてこの世界の種として頂点に立たなければ。我が種の悲願を我の代で達成する――これこそ我がこの世界に、魔人種の次期王として命を与えられた使命なのだから……ッ!)
自身の使命に燃え上がる。
その炎が何をもたらすのかは――現段階ではまだ分からなかった。
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