番外編 ユメと妖精メイド
『奈落』の地下妖精メイド部屋に、部屋の主である妖精メイド4人が集まっていた。
妖精メイド達は基本4人部屋で、部屋ごとに仕事のローテーションが設定されている。
今日、彼女達は休日だった。
そんな彼女達が部屋に集まり雑談――否、仲間の妖精メイドを吊し上げていた。
「彼女はライト様のネコミミ姿、『に、にゃー』という恥ずかしがる猫声付きを目撃した罪で刑を受けるということで、よろしいですか?」
「異議なし」
「異議なしっていうかぁ~」
「い、いいい、異議あり! い、異議あり!」
オタクっぽい妖精メイドは椅子に縛り付けられ、彼女の周りを他同室の妖精メイド×3人が囲い込む。
以前、オタクっぽいメイドが、彼女達の絶対的支配者であるライトの妹ユメのメイドを担当した。
その際、ライトが、ユメの魔術の腕前を視察に来る。
実際ユメは幻の蝶を作り出したり等、年齢に見合わないほどの腕前を披露した。
しかし、問題はその後だ。
彼女は幻影を作り出す魔術『蜃気楼の幻想』で自身にネコミミを作り出す。
それだけではなく実兄ライトの耳にもネコミミを作り出したのだ。
さらに兄妹揃って『にゃー』と鳴く姿は非常に可愛らしく、教師役であるエリー、護衛のアイスヒート、他その場に居合わせた妖精メイド達が悶絶するほどだった。
――しかし、ここで問題が発生する。
敬愛するライトの可愛らしいネコミミ姿を目撃できなかった妖精メイド達が、その場に幸運にも居合わせた妖精メイドに嫉妬するという事が起きてしまったのだ。
結果――休日に幸運(?)にも現場に居合わせたオタクっぽい妖精メイドは椅子に縛り付けられ、制裁を受けようとしているのである。
もちろん、制裁と言っても冗談に収まる程度のモノだ。
とはいえ彼女も好きこのんで制裁を受けたい訳ではなく、必死に声をあげ続けていた。
「おおお、落ち着いてみんな! う、ウチらは苦楽を共にしてきた、な、な、仲間じゃない!」
「うん、そうだね。だから独り占めは良くないよね?」
「早速、エリー様に彼女の記憶を取り出して我々に移植できないか相談しましょう」
「その際、この娘の脳味噌が壊れても良しということでぇ~」
見た目はとんでもない美少女だが、そのせいか逆に個性が薄くなっている気がする妖精メイド、眼鏡をかけた妖精メイド、最後にギャル系妖精メイドが同意の声をあげる。
エリーの記憶を読む魔術は拷問にも使用できる極悪なモノだ。
にもかかわらず、仲間である妖精メイドに使おうと提案している。
悪ふざけではなく、彼女達の声音に『本気』をオタク妖精メイドは感じ取った。彼女達の瞳には『絶対にその記憶を奪い取る』という覚悟がちらちら見えてしまう。
オタクっぽい妖精メイド自身、彼女達と同じ立場なら例え同僚に苦痛を強いてでも『ネコミミライトの記憶』を手に入れたいと心底理解できてしまう。
なのでオタクっぽい妖精メイドが慌てた様子で声をあげ提案した。
「き、き気持ちは分かるけどマジで落ち着いて! 大丈夫、う、ウチにちゃんと考えがあるから!」
「へぇ……考えってどんなモノかな? かな?」
美少女過ぎて逆に個性が無くなった妖精メイドが、ハイライトの消えた瞳で問う。
『もしつまらない内容だったら、本気でその脳味噌を壊してでも記憶を取り出す』と瞳が語っていた。
他2人も変わらない。
オタクっぽい妖精メイドは命の危機を回避するため、アイデアを口にする。
「ま、ま、マスター様は現在地上に出ているから、いつ戻ってくるか不明。も、戻ってきてももう一度やってくださるのか不明だし、め、め、メイ様、メイド長にそんな提案したらマスター様の耳に届く前に握り潰され、ば、罰を与えられるのが必定!」
「だねぇ、メイド長ならやりかねないねぇ」
ギャル系妖精メイドが溜息混じりに同意する。
ライトに直訴する手もあるが、確実にやってくれる可能性は未知数で、彼がいつ戻ってくるかも現在不明だ。
オタクっぽい妖精メイドが精一杯のキメ顔で告げる。
「だ、だから、幻影魔術の天才である妹ユメ様にお願いして前回の『ネコミミマスター様』を幻影魔術で再現できないかき、き、聞いてみるべき。もしか、可能なら『奈落』最下層はまた素晴らしい世界になる!」
『!?』
美少女個性薄妖精メイド、眼鏡妖精メイド、ギャル系妖精メイドは『その発想はなかった!?』と言いたげに驚愕の表情を作った。
「確かにライト様に直訴するより可能性は高いね」
「我々も1度はユメ様のメイドとしてお仕えしたことがありますから、お顔を覚えて頂いていたら、お話が通しやすいですしね」
現在、妹ユメの側付きメイドはローテーションでおこなわれている。彼女達は全員一度側付きメイドとして1日過ごした経験がある。
もしユメが彼女達の顔を覚えていたのなら話は通しやすいだろう。
「なら早速、ユメ様とお話し出来るよう連絡入れようか!」
ギャル系妖精メイドの掛け声に、美少女個性薄妖精メイド、眼鏡妖精メイドがやる気に満ちた声音をあげる。
一方、オタクっぽい妖精メイドというと……。
「は、話が纏まったなら、いい加減、な、な、縄を切って欲しい。解放して欲しいんだけど」と、盛り上がる少女達に向けて自身の解放を訴えていた。
その訴えは暫く盛り上がる彼女達にはなかなか届かなかった。
☆ ☆ ☆
「にーちゃんのネコミミ姿なら幻影魔術で再現できるよ?」
妖精メイド達は早速、今日のユメ側付き妖精メイドを通してアポを取る。
現在彼女は自室リビングで護衛であるナズナと一緒にオヤツ中だったため、あっさり面会を許された。
妖精メイド達の要望を耳にするとユメは軽い調子で答える。
この発言に今日の側付きを含めた妖精メイド達全員が驚愕する。
「さすがエリー様に『魔術の天才』と認められたユメ様!」
「さすユメ! さすユメ!」
「えへへへ、そんなに褒められたら恥ずかしいよ~」
妖精メイド達の言葉に、ユメは恥ずかしそうに照れる。
一緒にオヤツを食べていたナズナも食いつく。
「ご主人様のネコミミ姿、あたいも見てみたい! 妹様、幻影魔術を使って見せてくれないか?」
「いいよ、ナズナちゃんのお願いならお安いご用だよ!」
妖精メイド達が希望を口にするより先に、ナズナが興味を示しユメに強請る。
お陰で妖精メイド達が希望を口にするよりあっさりとお願いが通った。彼女達にとってこれは僥倖である。
ユメが一度おやつのケーキを食べていたフォークを置き、意識を集中する。
「――魔力よ、我が願う姿を変えて顕現せよ、蜃気楼の幻想!」
『オオオォッ!』
リビングに歓声が響く。
部屋にユメが『蜃気楼の幻想』で作り出した、ネコミミをつけたライトが姿を現したからだ。
「うわぁ! これがネコミミご主人様か! 滅茶苦茶可愛いな!」
「でしょ? にーちゃんは恥ずかしがっていたけど、アオユキちゃんのように可愛いよね」
ユメ、ナズナがきゃっきゃっと笑い合う。
一方、妖精メイド達はというと――。
『…………』
呼吸も忘れて『ネコミミライト』を目、脳、心に焼き付けるように無言で凝視し続ける。
しかし今回はそれだけでは終わらなかった。
「他にはねぇ、にーちゃんにはウサギミミが似合うと思うの。ほら」
『!?』
ユメが魔術を操り、『ネコミミライト』から『ウサギミミライト』へと切り替わる。
妖精メイド達の瞳が血走る。
さらに、
「あとはイヌミミも似合うと思うの」
『ウサギミミライト』から次は『イヌミミ』に変化する。
この変化をナズナは純粋な気持ちで褒める。
「おおぉ! ご主人様はどんな耳でも似合うな!」
「でしょ? にーちゃんはどんな耳でも可愛いよね! ナズナちゃんなら分かってくれると思っていたの!」
ユメとナズナは無邪気に笑い合う。
一方、妖精メイド達はというと……。
「尊い」
「尊い」
「尊い」
「うん、尊い」
「尊すぎる」
「尊い」
と、『尊い』と呟き、涙を、一部鼻血を流す者も居た。
「う、ウチ、マスター様の次にユメ様をあ、崇める」
「あーしも賛成」
「私もご主人様の次に妹ユメ様へ忠誠を捧げます」
「同意です。我々の忠誠を主様の次にユメ様に捧げるべきですね」
今回の切っ掛けを作った妖精メイド×4人が口々にライトの次にユメに忠誠を捧げると口にする。
彼女達の他にもこの場に居た妖精メイド達が次々妹ユメに忠誠を捧げ出す。
そんな彼女達の心情にも気付かず、ユメとナズナはライトに他どんな動物耳やアイテムが似合うか議論し始めたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
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