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19話 番外編 禁忌の魔女エリー

今日は19話を昼12時、20話を17時にアップする予定です(本話は19話)。

「わたくしが居る場所がここで……エルフ女王国がここなら、もう少し奥の方が作戦に適していますわね」


『禁忌の魔女』エリーが、手元にある地図と現在地を照らし合わせ鬱蒼と茂る原生林の中を歩き出す。


 魔術師らしい大きなツバが広がった帽子に綺麗な金髪を2つに結び流している。身長は160cm前後で、帽子を常に被り、ヒールを履いているため見た目より背が高く見えてしまう。

 スタイルもよく胸はしっかりと有り、腰もくびれ、お尻のラインも程よく丸みを帯びている。

 顔立ちも傾国の美女すら裸足で逃げ出しそうな美少女だった。

 なので魔女というより三角帽子の魔法少女、と言った方がしっくりとくる。


 現在彼女は、忠誠を捧げる主――ライトから申しつけられた『エルフ種、サーシャへの復讐』計画を完璧に遂行するため自らの足で現場視察に赴いたのだ。


 場所はエルフ女王国首都からやや離れた原生森林の奥地だ。


 北上するとドワーフ王国国境となる山脈にぶつかり、南下すれば海へと当たる。

 鬱蒼と茂った木々の緑は濃く、足下は草や木々の根が競うように生え、うねっていた。

 歩きなれた冒険者、猟師でも足下を取られないよう慎重に進む場所である。


「今回の作戦だけではなく、将来的なことを考えるなら……もう少し北よりの方がよろしいですわね」


 にもかかわらずエリーはまるで整備された道を歩くが如く、草や根、窪地、苔などに足を取られずスタスタと歩く。

 ひらひらと揺れるゴシックドレスや彼女を中心にゆっくりと魔術書が複数、回転している。

 だがどれも木々に引っかからず、邪魔にもならない。


 どちらもエリーが自身に『行動阻害不可魔術』を使用しているためだ。

 故に木々にも邪魔されず、地面も普通にスタスタと歩くことが出来ているのである。

 彼女は地図を片手に暫く移動すると、ある地点で立ち止まった。


 その場と地図を交互に見比べて嬉しそうに声音を上げる。


「ここですわ! ここならライト神様のご希望が叶えられる場所に相応しいですわ!」


 ライトの名前を口にしたことで、エリーがうっとりと瞳をとろけさせる。


「はぁぁぁ、ライト神様……。この計画を完璧に遂行してみせれば、きっとあのお高くとまったメイド如きより、ライト神様はわたくしをご寵愛してくださるはずですわ」


『メイド如き』とは、エリー自身と同格の『SUR、レベル9999探求者メイドのメイ』のことである。ちなみに髪型は黒髪ポニーテイルで常にメイド服を身に纏っている。

 エリーがメイを一方的にライバル視しているのは、一部を除き『奈落』地下では誰もが知る事実だ。


「あーもーなんなんですの! あの『自分こそがライト神様の一番』と言いたげな態度は! 本当に気に入りませんわ! ……でも実際、メイさんが召喚されずライト神様をお助けしなければライト神様がお隠れになられていたのも事実なのですわよね……」


 故にライバル視していても、感謝の念を忘れたことは一瞬だって無い。

 ただ同時に『最初に召喚されたのが自分だったら……ッ』と歯噛みすることも忘れたことはなかった。


「結局、わたくしが召喚されたのは3番目。アオユキさんの後ですから……せめて2番目に召喚されていればまだやりようはあったかもしれませんのにッ。本当にままなりませんわね……」


 ちなみに一番最初に召喚されたのがメイで、2番目はネコミミパーカー姿で胸も小さく背も低い『SUR、天才モンスターテイマーアオユキ レベル9999』、3番目がエリーで、最後が赤い瞳に銀髪甲冑姿の『SUR、真祖ヴァンパイア騎士(ナイト)ナズナ レベル9999』である。


「アオユキさんやアホのナズナさんもライト神様の寵愛を狙っているようですが、メイさん以上にありえませんわ。アオユキさんは子供体型過ぎてライト神様も女子というより、妹として見ていらっしゃいますし、ナズナさんに至ってはアホの子ですから……」


 エリーは思わず遠い目をしてしまう。

 普段『奈落』で顔を会わせるたびにナズナをからかって、よく言い合いをしている。

『奈落』でも2人のからかい合いは有名だ。

 だが、別にエリーはナズナが嫌いな訳ではない。


 むしろ、ある種、尊敬すらしていた。


「非常に頭が軽いですが、その点をライト神様は買っているのですよね。あのアホさ、明るさがムードメーカーとして『奈落』の空気そのものを支えていらっしゃるから。いくらわたくしでもナズナさんの代わりは出来ませんわ」


 エリーの考察通り、ライトはナズナの明るさを非常に買っていた。

 ナズナの明るさは天然のため、天才的頭脳を持つエリーといえど、マネすることは不可能だった。


「ですがライト神様のご寵愛を賜るにはアホ過ぎるのも事実。やはり一番のライバルはメイさんだけですわね。……恋と戦争にルールはなく、戦争と正義は有能な味方が多い方が有利。立場を弁えるならアオユキさんとの共闘もありかしら? でも時折彼女は、わたくしのことを残念な者を見るように見てくるのが引っかかりますわね。何か企んでいるのかしら?」


 アオユキは幼児体型過ぎて自分の敵にはなりえない。

 味方として引き込んだ場合は心強いが、なぜあんな視線を向けてくるのかという懸念もある。

 他にもレベル9999である自分達以外の『奈落』住人達の顔や性格も思い浮かべ、誰を引き込めば有利に立てるかの検討をつい始めてしまう。


「とりあえずナズナさんは無理ですわね。戦闘能力は申し分ないのですが、いかんせん味方に抱え込むにはアホ過ぎますわ」


 その部分がナズナの良い点でも、軽々に引き込むのには爆弾過ぎる。


「そういう意味でライト神様は本当に凄いお方ですわよね。ナズナさんを抱えて上手く制御しているのですから」


 改めて自身の主で、全身全霊を捧げるに相応しい神に尊敬の念を抱く。

 同時に忠誠心も再び爆上がりする。


「――なんにせよまずはこの計画を完璧にこなすのが肝要ですわね。『サーシャ復讐計画』を完璧にこなせば必ずライト神様が褒めてくださいますわ! そしてご寵愛を賜り神の子を孕む。あぁぁぁぁぁぁ! 女としてこれ以上の幸せはありえませんわ。うふ、うふふふふふふふ……ライト神様、愛しておりますわ」


 エリーは両手で自身の頬を押さえて、ライトを想い狂気、偏執的なまでの愛を囁く。


「キキキキ――」


 そんな愛の囁きに答えたのは、猿型モンスターの群だった。

 本来、上位冒険者でも足を踏み入れない原生森林の奥に移動し過ぎたせいで、猿型モンスターの群とかち合ってしまったのだ。

 レベル50前後で数は優に100匹を超える。

 背丈も1m半ば以上あり、腕力も強く並の冒険者なら1頭でも危険なモンスターだった。


 赤い目をして腹にも大きな口が付いた猿型モンスターは、1人恍惚の表情を浮かべていたエリーを『丁度良いエサ』と認識して集まったようだ。

 一方、エリーは――敬愛する主への愛を捧げる儀式を邪魔され静かにキレる。


「低レベルの畜生風情がライト神様への愛の囁きを妨害するなんて……。ラクニシネルトオモウナヨ」

「キキキッ!?」


 黒い闇より暗い穴のような瞳を向けられ猿型モンスター達は恐怖を抱く。

 LVが上のモンスターでさえ、数の暴力、連携で始末しエサにしてきた自分達の群が怯えを抱いたのだ。

 危険な相手と理解し、危険が及ぶより早く放たれた矢のごとく一斉にエリーへと襲いかかる。


『キキキキキッ!』


 例え数匹の仲間が殺されたとしても、止まらず刺し違える覚悟で群がってくる。

 足下以外、ほぼ全てを埋め尽くし、疾風より速く襲いかかった。

 上位冒険者でも数の暴力を前に膝を屈するのは必然というレベルである。


 しかし――相手が悪かった。


黒き虚ろの穴(ブラック・ホール)


 エリーが指を鳴らし、呪文を唱えると猿型モンスター達と同数の『黒い穴』が生み出され、彼らを捕らえる。


「キキキッ!」

「ウキ、キキキッ!?」

「ウキキキキッ!?」


 穴は猿型モンスター達の体に吸い付くと、掃除機がゴミを吸い込むように吸引を開始する。

 その勢いは凄まじく、猿型モンスター達のみを逃がさず吸い込む。猿たちも全力で抗うが対抗できず、次々に光が一筋も無い黒い虚ろな穴へと吸い込まれ消えていく。

 エリー自身、この暗い穴がどこに繋がっているかは知らない。ただ例外なく、吸い込まれたら二度と脱出は不能で死亡するしかない絶望の穴だということは理解していた。

 たった数秒で、100匹以上居たモンスターの群がまるで最初から居なかったように消えてしまう。


 エリーはつまらなそうに金髪を弾く。


「あまり派手な魔術では計画開始前に他者に気付かれる恐れがありましたから、地味なのを選びましたが……本当に地味すぎますわね。やはりこの魔術はわたくしには相応しく有りませんわ」


 彼女は詰まらそうに不満を漏らすが、『黒き虚ろの穴(ブラック・ホール)』は戦略級(ストラテジー・クラス)上位の殲滅魔術である。

 そんな高位魔術を彼女は指先を鳴らし、詠唱破棄して即座に展開したのだ。


 エリーにとってこの程度の魔術は周囲に展開する魔術書の補佐を受けずとも、鼻歌混じりにおこなえる手品のようなレベルなのだ。

 伊達に『SUR、禁忌の魔女エリー レベル9999』ではない。


「さて、邪魔が入りましたが、気を取り直して計画の準備を進めませんと」


 エリーは猿型モンスター達を葬ったことなど彼方に忘れ、愛と忠誠を捧げる主のための仕事を再開する。




 ☆ ☆ ☆




「エリー、お帰り。ちょうど会えてよかったよ」

「ライト神様……ッ!」


 計画準備の視察を終えて『奈落』へと帰還すると、冒険者として地上に出向いていたライトが姿を現す。

 事前報告で、現在潜っているダンジョンから『転移』カードで『奈落』に帰還できるとは聞いていたが、まさかエリー自身に会いに来てくれるとは想定しておらず、思わぬサプライズに彼女の声のキーが一段階上がってしまう。


「任せている計画の進捗を聞きたくて。今、話を聞いても大丈夫?」


 地上では『顔に火傷をしているから』と偽って仮面を着けているが、『奈落』ではその必要もないため素顔を晒している。

 黒髪に黒目、12歳で肉体成長を止めているため中性的な顔立ちをしていた。『少年』というより一瞬『美少女?』と勘違いしてしまうほどだ。

 エリーは思わず見とれそうになるが、強靱な意志と忠誠心によって返事をした。


「もちろんですわ。ちょうど『サーシャ復讐計画』の舞台となる視察を終えた所ですの。むしろライト神様に是非お話を聞いて頂きたいですわ!」

「そうだったんだ。まさにナイスタイミングだったんだね。なら是非、話を聞かせてくれないか?」

「はい! では折角なのでわたくしと2人っきりでお茶でも飲みながらご報告させて頂きますね」


 エリーの申し出にライトは笑顔で了承する。

 その笑顔にエリーは骨抜きにされ腰が抜け、座り込みそうになるのを必死に堪えた。


(あーもーお目々キラキラのライト神様、最高、ちょー最高に尊いですわ。尊過ぎて鼻血が出そうですわ! もうライト神様のお側にいるだけでわたくしの乙女回路はきゅんきゅんきゅん! ですわ! はぁぁぁぁ、もぉぉぉぉ、生きていてよかった~)


 エリーは表情こそ必死に取り繕い、胸中では狂喜乱舞し、乙女回路を暴走寸前まで回転させていた。


 この日、エリーは心底幸せな気持ちで、ライトに『サーシャ復讐計画』の進捗を報告するのだった。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


今回の番外編は、『エリーが他レベル9999のメンバー達をどう思っているのか』という人間関係について触れたくて書かせて頂きました。

今後もエリーだけではなく、『他メンバーが相手をどう思っているのか』の部分を描いていければと思います。

こういう部分がキャラクターの掘り下げ、魅力の一つになると思うので。


また今日も2話を連続でアップする予定です。

19話を12時に、20話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は19話です)。


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
はたしてライトの筆下ろしを務めるのは?
[良い点] エリーの頑張り。復讐計画を着実に、楽しく進めているところ。 [一言] エリー!!乙女度たっか!!読んでてキュンとしました。復讐計画だよね?とツッコみたくなるくらい楽し気に語るから面白い〜。…
[気になる点] 全体的に面白いんだけど、 時折挟まれるハーレム描写話だけはハズレ回だな ここの部分も面白いと思ってる人いるのかな
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