番外編 アイスヒートの相談
『UR、炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』
『奈落』最下層の副メイド長。
メイド長であるメイが『奈落』から出る際は、アイスヒートが彼女に変わって内政を仕切ることになっている。
また『奈落』最下層での移動の際、ライトの護衛長も務めていた。
そんなアイスヒートが最近悩みを抱えており、友人である『UR、キメラ メラ レベル7777』へと相談を持ちかけた。
時間は夜。
『奈落』最下層食堂で『UR、炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』、『UR、キメラ メラ レベル7777』の2人が長椅子に並んで座りアイスヒートが淹れた紅茶を口にする。
以前、メラの愚痴をアイスヒートが聞いた時は酒だったが、今夜は彼女が相談する立場のため紅茶を淹れたのだ。
身長が2m以上あるメラと、右側髪が赤で左側髪が青のアイスヒートが並んで座る姿は遠目でも目立っていた。
メラが器用に手のひらが隠れた袖で、紅茶のカップを掴み一口飲んでから切り出す。
「ケケケケケケケ、それで話っていうのはなんだい?」
「実は最近、少々悩みがあって……」
「悩み? クソ真面目で、良い子ちゃんで即断即決のアイスヒートがか?」
メラが大きな口を広げ、驚きを表現する。
彼女の驚きを目にして、アイスヒートは頬を膨らませた。
「アイスヒートだって悩みぐらいある。というか、『クソ真面目で、良い子ちゃん』とはどういう意味だ?」
「ケケケケケケケ! 悪い悪い」
仲が良い同僚の評価の言葉に、アイスヒートはじろりと彼女を睨む。
メラはどこか楽しげに笑いながら謝罪した。
この程度の軽口で険悪になる間柄ではない故のやりとりである。
「それで、一体何に悩んでいるんだ? 陰で妖精メイド達に怖がられているのを知ったのか? それともライト様の護衛で、『奈落』に居る間はずっとお側に居ることを妬まれていることか? あとは……髪の毛が赤と青に分けられているけど、逆に個性が薄いと言われていることか?」
「ちょ、ちょっと待て何の話だ!? アイスヒートは裏でそんな風に言われているのか!?」
「……あれ? 違うのか? しかも知らなかったのか? あー……すまん、忘れてくれ」
「忘れられるか! 誰だ! 誰が裏でそんなことを言っているんだ!? 妖精メイド達か!?」
「ケケケケケケケ! 黙秘しまーす」
メラが明後日の方向を向いて、お茶を飲む。
数分ほど粘るが、彼女が口を割ることはなかった。
アイスヒートは諦めて話を進める。
「この件は後でじっくりと追求するからな――こほん、アイスヒートの悩みというのは、自分はメラやスズのようにライト様に頼られていない気がするんだ……」
「? また突飛だな。アイスヒートがライト様に頼られていないなんてありえないだろ?」
「……だが、実際、エルフ巨塔討伐以降……ドワーフ王国、獣人連合国関係で呼ばれたことはなく、ずっと『奈落』で待機だ」
ドワーフ王国では、メラとスズは揃って『大規模過去文明遺跡』に呼ばれた。
獣人連合国では、人質や奴隷となっている人種を転移で秘密裏に連れ出すため、斥候能力が求められ2人とも参戦した。
スズ、メラとも斥候職が出来る技量を持つ。
故に獣人連合国の救出作戦に参加したのだ。
その頃、アイスヒートは『奈落』最下層で待機だ。
アイスヒートがテーブルに両肘を載せて手を組み、その上に額を載せて俯く。
「やはりエルフ巨塔一階で双子エルフとまともに戦うどころか、一瞬で焼き殺してしまったせいで、『地上でまともに使えない戦力』としてライト様に認識されてしまったんじゃないだろうか。アイスヒートはライト様の中で、『使えない人材扱い』になってしまったんだ……」
「ケケケケケケ! いやいや、いくらなんでもそれは考え過ぎじゃないか? もしその程度でアイスヒートを『地上では使えない戦力』扱いしたら、ナズナ様なんて絶対に二度と地上には出してもらえないだろ?」
過去、『巨塔』1階でエルフ女王国の『白の騎士団』に所属している、双子エルフ、ニア・キア兄弟と一戦。
アイスヒートが軽く力を入れたら、ニアとキアはエリーの保護がなければ即死するほどの致命傷を負った。
一方、ナズナはエルフ女王国最強の騎士団『白の騎士団』団長を一閃で倒し、『巨塔』に穴をあけてエリーにたっぷりと怒られた。
この2つの内どちらにより問題があるかと言えば、オーバーキルが過ぎて壁を壊したナズナの方だろう。
「ケケケケケケケ! アイスヒートの悪い癖だぞ。考え過ぎだ。ライト様がアイスヒートを『使えない人材扱い』していると考えているなら、アタシ達の帰る場所である『奈落』最下層の管理を任せるはずがない。むしろメイ様と同等レベルで信頼しているから、彼女が地上へ出る時は『奈落』管理を任されているんだろ。ドワーフや獣人の件はたまたま能力的に合わなかったら呼ばれなかっただけさ」
「そう、なのだろうか……」
「ケケケケケケケ! そうに決まっているって! まだ不安が拭えないなら直接ライト様に尋ねるのもありだと思うぞ?」
「何を言う! ライト様の貴重なお時間をアイスヒートのために割かせるなど出来るはずないだろう! 不敬ではないか!」
アイスヒートの怒鳴り声に、メラは気楽な態度を変えずツッコミを入れる。
「ケケケケケケケ! そうか? むしろ、『自分が必要とされていない』ってアイスヒートが悩んでいることを知らず、後から知るほうが辛いと思うぞ? ライト様はお優しい方だから、素直に胸のウチを打ち明けてくれるほうが喜ぶと思うぞ」
「…………そう、なのだろうか」
「そうそう。もしライト様の時間を割くことが心苦しいなら、メイ様経由で尋ねてみればいいんじゃないか? メイ様ならアイスヒートの直接の上司だ。無下にはしないだろ?」
「……確かに直接お尋ねするより、メイ様にタイミングを見計らって話してもらうという方法もあるか」
メラのアドバイスにアイスヒートは納得し、何度も頷く。
アイスヒートは改めてメラへと向き直る。
「メラ、ありがとう。早速、機会を見てメイ様に相談してみるよ。メラに話を聞いてもらえて本当によかった」
「ケケケケケケケ! 気にするなって。アタシの愚痴に付き合ってくれたお礼さ」
メラはカップを軽く持ち上げて、笑顔で返答する。
アイスヒートは本当に心底感謝しているらしく、新しく彼女の手ずから紅茶を淹れ直し、茶菓子まで提供する
その後、彼女達は深夜までたわいもない話で盛り上がったのだった。
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