38話 巨塔教
救助され解放された獣人連合国の元人種奴隷は全員、元の場所に戻るより『巨塔』に居着くことを選択する。
村を襲撃されたり、街道を移動中に誘拐された者達の半分は、彼らと同じく『巨塔』を選ぶ。
残る半分は元の生活に戻ることを選択した。
最終的に『巨塔』へ残るのは、約7000人となる。
『巨塔』を中心にした町は以前より広がり、既に『街』規模になっていた。
約7000人の人員を受け入れる土地はあり、生活が安定するまでの衣食住も恩恵『無限ガチャ』で十分支援可能だ。
お陰で混乱することなく、スムーズに受け入れることが出来た。
無事、獣人連合国との戦争も『巨塔』が勝利したと伝わり、元人種奴隷や無理矢理拉致された者達、『巨塔』に元々居た人種住人達も安堵の溜息を漏らす。
獣人連合国との問題も片づき、落ち着いた頃――僕はようやくミヤと落ち着いて話をすることが出来た。
彼女が寝泊まりしている『N、プレハブ』の近くに置かれたテーブルで、互いに座り向き合う。
野外に置かれているテーブルのため、空は青く、流れる風が心地よい。遠くから働く者達の声や子供達が楽しく遊ぶ声が聞こえてきて、非常に居心地が良かった。
僕達は子供の遊び声を聞き流しつつ、改めてどうしてミヤをタイミング良く助けに入ることが出来たのか話をする。
当然、話す内容は全て偽の話だが、彼女に真実を探す力も理由も無いため、問題は無い。
一通り話を聞き終えると、ミヤは改めてお礼を告げる。
「ありがとうございます、ダークさん。ダークさんが助けに来てくれなかったら、どうなっていたか……」
「でも、僕が助けにいかなくても『巨塔の魔女』様なら、問題無くミヤちゃん達を助けていたと思うな」
少しでも『巨塔』と『巨塔の魔女』に好感度を持って欲しくて、謙遜しつつ『巨塔』を持ち上げたが、なぜかミヤは僕の発言を耳にすると、顔を赤くして否定した。
「そんなことありませんよ! ダークさんが『ファイアーウォール』を使ってわたしを含め、皆を守ってくれたから怪我をせず無事だったんです! それにダークさんが来てくれたからわたしは――ッ」
興奮気味にミヤが口を開くが、後半の台詞を言い切る前に唐突に黙り込んでしまう。
彼女は耳まで赤くして『パクパク』と何度も口を動かし、気まずそうに俯いてしまった。
沈黙が続き微妙に空気がおかしくなったので、僕はそれを見て別の話題を振る。
「……今頃は冒険者ギルドを通して、ミヤちゃんを含め、誘拐された人達が無事だって関係者に伝わっている頃だね」
獣人種に誘拐された者の中には、冒険者ギルドに親族、友人、恋人等から探して欲しいと依頼されている者も多い。
そんな誘拐された人々の親しい者達に、冒険者ギルドを通して『無事だ』と伝えてもらっているのだ。
しかし一部は、親族等が居るにもかかわらず『巨塔』に移住することを選んだ者も多い。
外部から家族、恋人などを呼び寄せて移住を選んだ者も居た。
理由としては、外で再び誘拐・襲撃に怯えるより、『巨塔の魔女』の下で平和に暮らしたいということらしい。
一方、ミヤはというと――。
「ミヤちゃんは、『巨塔』に残らず村に戻るんだって?」
「……はい。兄を1人にする訳にもいきませんし、お墓のお手入れや師事している薬学の先生に不義理も出来ませんから。でも……」
ミヤは一拍置くと躊躇いがちに告げる。
「も、もしダークさんが『残って欲しい』と仰るなら、わ、わたしは残ります!」
「大丈夫、ここのことや僕のことは気にしなくていいよ。ミヤちゃんはミヤちゃんの思うように、自由に選択をすべきだよ」
「……はい、で、ですよね」
ミヤは僕の返答になぜか先程より深く肩を落とす。
彼女の協力してくれるという気持ちは嬉しいが、待っている彼女の兄エリオのことを考えると引き留める訳にはいかない。それに聖女はどこに居ても存在し人々を癒やし続けることでその役割を十全に果たすことが出来る。
要は人種の中に聖女が誕生し今も人々を癒やし続けている、という事実が重要なのだ。むしろ今は『巨塔』にいるよりも地方で『聖女』として活動している、という方が受けが良いかもしれない。
僕はどうフォローの言葉を口にしようか迷っていると、気持ちを立て直したミヤが微苦笑を漏らし告げる。
「わたしは村に戻りますね。ダークさん達もいつか遊びに来てください。兄も皆さんと会いたがっていましたから」
「もちろん、機会があったら絶対に行くよ」
「わたし、信じちゃいますよ?」
「あははは、絶対に行くから大丈夫だよ」
「嬉しいです」
互いに笑い合う。
一通り笑い声が収まると、妙な間が出来てしまった。
気まずい訳ではなく、気持ちが良い穏やかな沈黙だ。
「…………」
「…………」
僕とミヤ、互いに黙り込むが、その沈黙を彼女が破ろうとする。
顔を赤くし、今から強敵に挑もうとする決意を瞳に宿し、両手に力を込めて口を開く。
「あ、あのダークさん、わたし、だ、ダークさんの――」
「聖女ミヤ! ここに居たのね!」
彼女の台詞途中で、金髪を縦ロールに巻いた少女が現れる。吊り上がった瞳、背丈はミヤより頭一つ分高く、スタイルも彼女と比べると胸が大きい。
見た目から気が強そうな美少女だ。
(確かミヤちゃんの友達のクオーネだったかな?)
彼女も『巨塔』に移住する組だ。
冒険者ギルドに彼女の両親から捜索願が出ていたが、彼女は両親に無事を知らせつつ『巨塔』に残ることを選択した。
さらに彼女はやや特殊で『巨塔教』なるものを作り出したのだ。
『巨塔教』では『巨塔の魔女』が神に近しい存在、妖精メイド達が使徒、ミヤが聖女と定められている。
僕個人としても、『巨塔』街の統治的にも、人種関係の問題にかかわる際の大義名分的にも非常に有効のため、前向きに黙認している状態だ。
クオーネは僕に軽く挨拶をした後、真っ赤な顔で固まってしまったミヤに笑顔で声をかける。
「聖女ミヤ、貴女のお話が聞きたいと言う人達が集まっているのよ。だから、ちょっと付き合って!」
「く、クオーネちゃん、今はダークさんとお話をしているから。それに聖女は止めてって言ったでしょ!」
「僕のことなら気にしないで、話したいことはだいたい話したから。ミヤちゃんの大事な務めの邪魔をする気はないよ」
「!?」
僕の言葉にミヤが驚きの表情を作る。
実際、話したいことは終わっているし、『巨塔教』が広がるのは個人的にも歓迎している。
なので彼女の邪魔をするつもりはないのだ。
僕の許可を得ると、クオーネは満面の笑みを浮かべてミヤの手を取る。
「ダークさん、ご許可ありがとうございます。では聖女ミヤをお借りしていきますね」
「ちょ、ちょっと待ってクオーネちゃん!」
クオーネに連れて行かれることは諦めたミヤだが、声を上げて連れて行こうとする手を止めさせた。
そして、僕へと改め向き直ると、問いかけてくる。
「ダークさん、またこうしてお話をして頂けますか?」
「もちろん、ミヤちゃんとならいつでも大歓迎だよ」
嘘偽りなく僕の本心だ。
この返答を聞くとミヤは心底嬉しそうに笑みを零す。
クオーネはニマニマと笑いを堪え切れないような笑みを浮かべていた。
ミヤはその笑みに気付くと、掴まれた手とは反対の腕でクオーネの肩や脇腹を攻撃し始める。
少女達はじゃれ合いながら、挨拶をした後、目的の場所へ向かって歩き出す。
僕は2人の背中を『仲が良いな』と微苦笑を漏らしつつ見送ったのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
また最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




